第4話 竜殺しの選択
森の中を抜けたドラゴンは、アストレア竜騎士学園の上空へ到達していた。その背に乗る竜騎士は、片手でライドを掴みぶら下げたまま飛行している。
「おい! いい加減降ろせよ! こんな扱いひどすぎだろ!」
ライドが喚くが、竜騎士は冷たく答える。
「黙れ、竜殺しめ。貴様のような者をドラゴンの背に乗せるなど、笑い話にもならん」
「竜殺しって何だよ、ドラゴンなんて殺したこともないし、俺はただ竜騎士になりたいだけだっつーの!」
ライドが反発するが、竜騎士は無言でドラゴンを学園の広場に着地させた。
ドラゴンの背から降り立った竜騎士は、ライドを無造作に地面へ放り投げた。
「ぐっ……乱暴すぎんだろ!」
地面を叩きながら文句を言うライドに、竜騎士は甲冑越しの冷たい視線を向けた。
「竜殺しにこれ以上の待遇は不要だ」
「さっきから扱い悪すぎだろ!」
苛立ちを隠せないライドの叫びに、竜騎士は答えず、学園長に向き直る。
学園長が杖を突きながらゆっくりと現れると、竜騎士は深々と頭を下げ、報告を始めた。
「学園長、この者は『竜心の盟約』を交わしました」
その言葉に学園長は目を細めた。
「ほう……『竜心の盟約』を交わしたとな?」
彼は少女の肩に手を置きながら、ライドと交互に見つめる。
「よりにもよって竜殺しと……か。珍しい組み合わせじゃな」
学園長は呟きながら杖を突いて歩み寄ると、ライドを鋭い目で見つめた。
「さて、ライド君。本来ならば、お主のような竜殺しは処刑されるべき存在じゃが……」
その言葉には息を飲むライド。
「竜心の盟約によって、貴様が死ねばこの少女も命を失うことになる。わしとしても、若い命を二つ同時に失うのは避けたい」
学園長は静かに続ける。
「そこでお主には選択肢を与えよう」
杖を使いながら指を二本立てる。
「一つ目は牢獄で一生を終えること。もはや生き地獄じゃな」
「ふざけんな!」
ライドが怒鳴るが、学園長は構わず続けた。
「二つ目は、この学園に入学し、竜騎士を目指すことじゃ。ただし、卒業までに竜騎士になれなければ牢獄行きじゃ」
ライドは唇を噛みながら考え込むふりをしたが、すぐに口角を上げた。
「選択肢なんて一つしかねぇだろ! 竜騎士になってやるよ!」
その返事に、学園長は満足そうに頷く。
「ほほほ、威勢が良いのう。精進するのじゃな」
ライドは学園長が少女と共に去ろうとするのを慌てて呼び止めた。
「ちょっと待てよ! その子は何なんだ!?」
少女が一瞬だけ振り返ると、学園長は彼女の肩に手を置きながら説明を始めた。
「この子は『ミア』。人と竜の遺伝子を持つ竜人じゃ」
「竜人!?」
ライドは驚きのあまり声を上げたが、学園長は微笑みながら告げた。
「このことは他言無用じゃぞ。さもなくば、牢獄行きじゃ」
ミアと呼ばれた少女は無言のまま、学園長に連れられて歩き去った。
「明日の朝、またここに来い。一応試験は受けさせてやる」
竜騎士もライドに指を指しながら、その場を去っていった。
竜騎士が怒りを露わにして学園長を追いかける。
「学園長! なぜあの竜殺しを投獄しなかったのですか? 危険すぎます!」
学園長は立ち止まり、静かに答えた。
「確かに竜殺しを学園に入れるのは前代未聞じゃ。しかし……」
学園長は杖を軽く地面に叩きつけるようにしながら続ける。
「竜殺しが竜騎士になれるのか。それを見届けたいのじゃ」
「見届けたい……ですか?」
竜騎士の声には困惑が混じる。
「そうじゃ。教育者である前に、わしは一研究者でもある。竜殺しと竜騎士、そして竜人との関係が何を生むか……わしの興味を刺激するには十分じゃ」
学園長は穏やかに笑みを浮かべると、杖を突いて再び歩き出した。
学園長と竜騎士が去った後、ライドは一人になり、拳を握りしめた。
「竜殺しだろうが、そんなの関係ねぇ。俺は、竜騎士になるためにここに来たんだ! ぜってえ、竜騎士になってやる!」
その瞳には諦めない決意が宿っていた。波乱に満ちた学園生活が、静かに幕を開けた。
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