第2話 拒絶された未来

 アストレア竜騎士学園の門前は壮大だった。石造りの重厚な門、広がる敷地、そして遠くに見える高い塔。ライドは目を輝かせながら、その景色を見上げていた。


「よーし、ついに着いた! これが俺の新しい舞台だな!」

 彼は胸を張り、意気揚々と受付に向かう。



「入学希望です! 俺、ライド・エヴァンスって言います!」

 受付に座っていた女性は、書類をめくりながら淡々と答えた。


「推薦状はお持ちですか?」


「推薦状? えっと、そういうのは持ってないけど……でも、村の長老が応援してくれてます!」


「応援だけでは入学できません」

 女性はため息をつきながら首を振る。


「推薦状がなければ、一般入試で合格する必要がありますが、締め切りは過ぎています。申し訳ありませんが、帰ってください」


「えっ!? いやいや、俺、こんなに苦労してここまで来たんだぞ! 竜に襲われたりして……!」

 ライドが慌てて抗議すると、受付係は冷たい目で彼を見つめた。


「規則は規則です」


 ライドの心はズタボロになりかけていたが、そこでふと考えを変えた。

「待って、俺の名前を聞いてくれよ。エヴァンスって言うんだ!」


 受付係の女性は手を止め、ようやく顔を上げた。

「……エヴァンス? もしかして……レオン・エヴァンス様の?」


「そうだよ。父の名前だ」


 その瞬間、彼女の顔が青ざめたように変わり、急に慌てだした。

「少々お待ちください!」


 彼女は慌てて奥へ駆け込むと、周囲の職員がざわつき始めた。



 数分もしないうちに、学園の職員や教師たちが集まり、ライドを取り囲んだ。

「まさか……竜将軍の子息が……」

「本当なのか?」


 突然現れた年配の学園長が、静かに前に出た。威厳に満ちた声が場を支配する。

「君が……レオン・エヴァンスの息子か?」


「えっと……はい! ライド・エヴァンスです!」

 ライドは胸を張って答えた。


 学園長は頷き、優しい笑みを浮かべる。

「よく来たな。君には特別に入学試験を受けさせよう。君の父はこの国の誇りだった……その功績を考えれば当然だ」


「ありがとうございます!」

 ライドの顔が一気に明るくなる。


 しかし、その時――重々しい声が響き渡った。


「待て」


 突然、周囲の空気が一変した。学園の奥から現れたのは、巨大な金色の瞳を持つ古のドラゴン。何百年も学園を守り続けてきたと言われる存在だ。


「この少年……ただの竜将軍の子ではない。その血には災いが宿る」


 学園長は顔を曇らせた。

「どういう意味だ?」


 古のドラゴンは低い声で告げた。

「彼は『ドラゴンスレイヤーの血』を引いている」


 その言葉が響いた瞬間、教師たちが一斉にざわめき始めた。


「ドラゴンスレイヤー……? それがまだ残っていたなんて!」

「禁忌の血族じゃないか……!」


 ライドは混乱した。

「ちょっと待ってくれ! ドラゴンスレイヤーってなんだよ!? 俺はただ父さんみたいな竜騎士になりたいだけで――」


 だが、その言葉は誰の耳にも届かなかった。


「処刑すべきだ!」

 一人の教師が叫ぶと、周囲がその意見に賛同し始める。

「ドラゴンスレイヤーは竜に災いをもたらす存在だ!」

「ここに置いておけば学園全体が危険だ!」


 ライドは後ずさりしながら叫ぶ。

「待てよ! 俺が何をしたっていうんだよ!」


 その時、教師の一人が前に出た。中年の男性で、かつてレオンの部下だった人物だった。


「待ってください! 彼の父、レオン・エヴァンス殿は私の命を救ってくださった恩人です。この少年を殺すのは間違いです!」


 その必死な説得により、ライドは命を救われた。


「命だけは助けよう。しかし、この学園には置いておけない」

 学園長は冷たい声で告げた。


 ライドは悔しさを胸に抱え、学園を後にする。振り返ることなく歩き出したが、心の中には強い決意が宿っていた。


「絶対に竜騎士になって、この学園に戻ってやる。俺の力が、竜を守るためにあるって証明するんだ!」

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