第5話:廃墟の小屋での出会い

瓦礫だらけの道を、美咲と綾奈は慎重に進んでいた。空は赤く染まり、わずかな陽光が壊れた建物の影を長く伸ばしている。


「この先に隠れられる場所がある。夜を越すにはそこしかない。」


綾奈が地図を片手に言った。荒野を抜けるにはまだ時間がかかるが、この場で休む必要があると判断したのだ。美咲は綾奈の背中を追いながら周囲を警戒する。さっきまでの戦闘の疲れは隠せないものの、彼女の瞳にはまだ強い意志が宿っていた。


「負傷者が出る度に止まってたら、命がいくつあっても足りねえだろ」


綾奈が振り返らずに呟く。その声には少しばかりの苛立ちが混じっていた。


「でも、助けられる命を見捨てるなんて……私にはできません!」


美咲は譲らなかった。その言葉を聞いた綾奈はため息をつき、何かを言いかけたが、その時、遠くから微かな呻き声が聞こえた。


二人が声の方へ向かうと、倒壊した小屋の中で、血だらけの男が横たわっているのが見えた。荒く息をしながら、手を伸ばして助けを求めている。


「生きてる!」


美咲が駆け寄ろうとするのを、綾奈が腕を掴んで止める。


「まて、罠かもしれん。慎重に行動しろ。」

「でも……!」


美咲は迷いなく男の元へ走り寄った。倒れた男の体は酷く傷つき、特に足には骨が飛び出した深い裂傷があった。


「大丈夫です、すぐ治療しますから!」


美咲は冷静に医療キットを取り出し、応急処置を始める。その手際の良さに、綾奈は思わず目を細めた。しかし、その瞬間、小屋の外から鋭い声が響いた。


「そこだ! 見つけたぞ!」

改造兵士数人が、瓦礫の隙間から現れた。


「…やっぱりな。罠だ。」


綾奈は煙草を取り出して軽く火をつけると、立ち上がる。


「お前はそいつの治療を続けろ。こいつらは俺が片付ける。」

「綾奈さん…!」


美咲が不安げに見上げるが、綾奈はすでに敵に向かって歩き出していた。

改造兵士の一人が銃を構えるが、その動作が終わるよりも早く、綾奈の鋭い蹴りが胸を直撃する。兵士は吹き飛び、瓦礫に叩きつけられた。


「まだまだだな。」

綾奈はすかさず回し蹴りで二人目の頭部を叩き、最後の兵士には踵落としを浴びせた。わずか数分で、全員が地面に転がった。


_____________________


美咲が応急処置を終えた頃、倒れていた男が目を開けた。その目には鋭い光が宿り、力強い声で言った。


「…助かった…のか? ただの一般人じゃない感じ…?」


綾奈が近づき、煙草をくわえながら男を睨む。


「お前、何者だ?」


男は傷を押さえながら、苦笑を浮かべた。


「俺はジャスティン、戦場を掛ける恋の稲妻さ。」


綾奈が眉をひそめる。


「あ?」

「シグナスの動きを探ってたら、このザマでね」

「シグナス……。」


ジャスティンは、美咲の方を見て微笑んだ。


「助けてくれてありがとう、麗しの姫。君は僕の天使だよ、幸福だ」

「い、いえ、当然のことをしただけです!」


美咲が慌てて答えると、美咲が慌てて答えると、ジャスティンは柔らかな笑顔を浮かべたまま、体を起こそうとする。


「いやいや、当然なんてとんでもない。君がいなかったら、僕は今頃天国で天使に会っていたところさ。でも、地上で天使に出会えたほうがずっと幸福だね。」


彼の軽口に、美咲は赤面しながら何かを言い返そうとしたが、うまく言葉が出てこない。


「……おい、お前調子いいな。」

綾奈が煙草をくわえたまま、不機嫌そうに睨む。


「調子がいいのは褒め言葉さ。」

ジャスティンは肩をすくめ、少しだけ唇を曲げて笑った。


「さて、この場に妙に強いオーラを放つ女性がいるのも嬉しい驚きだ。……君が神城綾奈かな?」

「……なんで俺の名前を知ってる?」


綾奈が目を細める。ジャスティンは笑みを崩さずに答えた。


「君の名は、この辺りの戦場じゃ有名だよ。逃げ出した連邦軍の問題児、足技で兵士を薙ぎ倒す噂の逃亡者ってね。」

「問題児は余計だ。」

綾奈がぶっきらぼうに答え、煙を吐き出す。


「でもまあ、君たちに助けられた以上、恩返しはさせてもらうよ。」

「恩返し? 傷だらけで何ができるんだ?」

「それはこれからのお楽しみだ。」

ジャスティンはウィンクしながら、立ち上がろうとするが、まだ足元が覚束ない。


「ま、とにかくここを出ようぜ。」4


綾奈が立ち上がり、周囲を警戒する。美咲は手を差し出し、ジャスティンを支えた。


「お、お一人で大丈夫ですか?」

「いや、君が支えてくれるなら、俺は何千マイルでも歩ける気がするよ。」

「も、もう……!」


美咲が頬を赤く染めながら抗議するが、その声にジャスティンは満足げに笑うだけだった。


「おい、調子乗るなよ。」


綾奈がちらりと振り返りながら、鋭い目を向ける。


「足を引っ張ったら、その時は容赦しねぇからな」

「はいはい、怖いお姉さんには逆らわないよ」


軽い口調で答えるジャスティンに、綾奈は再びため息をついた。

こうして、軽口をたたくジャスティンを加えた三人は、再び安全地帯を目指して歩き出したのだった。

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戦場の花は足跡で咲く ClowN @clown_jp

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