第4話:黒幕の晩餐
薄暗い照明の中、黒く光沢のある円形のテーブルを囲む数人の人影。シグナス・コーポレーションの幹部たちが集まっていた。その背後にある大型スクリーンには、廃墟での戦闘記録が映し出されている。画面には、煙草をくわえた金髪の女──神城綾奈が足技で改造兵士を薙ぎ倒す姿が繰り返し再生されている。
「…流石、特殊部隊に属していた元傭兵。甘く見ていた」
低い声で呟いたのは、作戦指揮を担当する幹部のサーシャだった。銀髪のショートボブスタイルに淡い青色の無機質な鋭い瞳。冷静な声は、会議の緊張感をさらに高めている。
「改造兵士が完敗したのは事実、けどそれ以上に興味深いのは、彼女が連れている少女」
サーシャが画面を切り替える。次に映し出されたのは、美咲が注射器で改造兵士を無力化する瞬間だった。
「医療技術を持ちしかも判断力が高い。現地の医療スタッフにしては異常に優秀」
サーシャが無感情にそう言い放つと、隣に座る白衣を思わせる真っ白なコート姿のプラチナブロンドの女が冷笑を浮かべた。
「ふん。たかが医者崩れが何だと言うの? あんな小娘、目の前に現れたら一瞬で──」
「黙れ、ヴァレリア。」
声を遮ったのは、会議の中央に座っていた高級感のある軍服男だった。重々しい声が静寂を切り裂く。
「神城綾奈はただの脱走者ではない。彼女の行動パターン、戦闘能力、すべてが我々の予測を超えている。」
男はスクリーンを指差しながら言葉を続ける。
「彼女は単なる標的ではなく、我々の計画に干渉する潜在的脅威だ。そして、その脅威を拡大させる可能性があるのが、あの医者の少女だ。」
「ならば、どうする?」
サーシャが即座に問う。男は一瞬だけ考え込む仕草を見せた後、冷酷に答えた。
「次の改造兵士を投入する。それも、バロックIIを試す絶好の機会だ。」
その言葉に、会議室の空気が一段と緊張感を帯びる。
「あれを使うつもり?」
ヴァレリアが驚きの表情を見せる。バロックIIは、シグナスが開発した最新型の改造兵士。初代機体の失敗を踏まえ、圧倒的な力とスピードを兼ね備えた存在だ。
「未完成だと聞いていたけど」
「未完成かどうかは関係ない」
男の低い声が、幹部たちを黙らせた。
「完成する前に、データを集めればいい。神城綾奈との戦闘が、あれを完成形に近づける試金石となる。」
そう言うと、男はスクリーンを消し、幹部たちを見渡した。
「作戦はすでに開始している。準備が整い次第、追跡部隊とバロックIIを投入する。」
「ふん…私が行ってもよかったのに。」
ヴァレリアが呟くが、男は冷たく言い放つ。
「お前に任せるほど簡単な任務ではない。」
「それにしても、神城綾奈は面白い。」
会議の隅にいた漆黒のローブをまとう女が、退屈そうに口を開く。彼女はシグナスの心理戦術士で、相手の精神を壊すことを得意とする。
「彼女のように純粋な戦闘本能を持つ人間は稀ね。彼女の心がどう崩れるのか、観察してみたいわ。」
「遊戯は後にして、アデール。」
サーシャが冷たく一蹴する。その言葉に、彼女は小さく笑った。
「作戦に遊びも感傷も不要だ。」
男が立ち上がる。その姿には圧倒的な威圧感があった。
「この戦いで神城綾奈を捕らえる。そして、それが叶わなければ、彼女を──抹消する。」
その言葉が静かに会議室に響いた。
幹部たちはそれぞれの役割に向けて散り、次の攻撃に備える。
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