第3話:追跡者の影

薄暗い路地に重い空気が漂う。足音一つ立てないように進む綾奈と美咲。遠くで金属を擦る音や、風に揺れる瓦礫の微かな音が聞こえる。だが、それ以上に不気味なのは背後からじわじわと近づく気配だった。


「さっきの奴らじゃねえな…もっとやばい連中が来てる。」


綾奈が煙草をくわえながら呟く。その目は警戒心を剥き出しにしていた。


「どうしてこんなに追われてるんですか?」


美咲が震えた声で問う。綾奈はふと彼女を振り返り、苦笑いを浮かべた。


「そりゃあ俺が狙われるようなことばっかしてるからな」

「それじゃ説明になってないじゃないですか!」


美咲のツッコミに、綾奈は軽く肩を竦めるだけだった。

だが次の瞬間、耳を裂くような轟音が背後から響く。振り向いた美咲の目に映ったのは、巨大な金属のアームを持った兵士──追跡部隊の改造兵士だった。


「神城綾奈……やっと見つけたぞ。」

兵士の重低音の声が路地に響く。その背後には、銃火器を装備した二人の兵士が控えている。


「やれやれ、俺って人気者だな。」

綾奈は、ジャケットの袖をまくった。


「そっちの瓦礫の影に隠れろ。巻き添え食いたくなきゃ、言われた通りにしな。」

「でも…!」

「お前が死んだら助けた意味がないだろうが!」


強い言葉に、美咲は渋々頷き、指定された瓦礫の影に身を潜めた。

巨大な改造兵士が、地面を砕くような勢いで突進してくる。それを綾奈は軽々とかわし、距離を取る。


「鈍いんだよ、ガラクタが」


綾奈はその場で軽く跳躍し、改造兵士の側頭部に鋭い蹴りを叩き込む。だが、相手はびくともせず、金属のアームを振り回して反撃してきた。


「っ…硬ぇな。」


綾奈は冷静に着地しながら、次の攻撃のタイミングを計る。その瞬間、銃声が響き、背後から弾丸が飛んできた。


「……!」


綾奈は弾道を読むようにして身を翻し、瓦礫を蹴り飛ばして防御する。影からそれを見守る美咲の目に、綾奈の腕から流れる血が映った。銃弾がかすめたのだ。


「傷が……!」

美咲は思わず瓦礫から身を乗り出した。


「おい、出てくんな!」

綾奈が怒鳴るが、その隙をついて改造兵士が再び突進してくる。


「これなら……!」


美咲は持っていた医療キットから、小さな注射器を取り出す。それには鎮静剤が仕込まれていた。彼女は瓦礫の影を這うように進み、接近する改造兵士の動きを読んで投げつける。


「狙い通り……!」

「グガァ…?!」


注射器が金属の継ぎ目に突き刺さり、液体が兵士のシステムを狂わせた。動きが鈍くなる兵士に、綾奈がすかさず強烈な蹴りを叩き込む。


「へッ、やるじゃねえか」


綾奈は改造兵士の頭部を狙って回し蹴りを放ち、完全に機能停止させた。

残りの兵士二人は、仲間の敗北を目にして撤退していく。綾奈は煙管を取り出し、一息ついてから瓦礫の影から出てきた美咲を見た。


「よくやったな。」

「そ、そんな…! 私、勝手なことしてしまって……!」

「いや、お前の機転がなきゃ、あのデカブツを仕留め損ねてたかもしれねえ。ありがとな。」


綾奈が素直に礼を言うと、美咲は目を丸くした。


「ほら、隠れてばっかじゃいられねえぞ。次からは俺を助けるためにもっと動いてもらうからな。」

「…はい!」


嬉しそうに頷く美咲に、綾奈は苦笑しながら手を差し出した。

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