第2話:揺るぎない決意
女に手を引かれながら、美咲はなんとか彼女の後を追っていた。後方から聞こえる足音と、低い声で交わされる何者かの指示。敵はすぐそこまで迫っている。
「くそ…厄介な奴らが来やがったな。」
女は舌打ちをしながら、ふと足を止めた。
「ここで一気に片付ける。お前は隅でじっとしてろ。」
「えっ…?」
そう言うと、女はジャケットを脱ぎ、無造作に地面に放り投げた。身軽な姿になった彼女の背中が、美咲の目には一層大きく、頼もしく映る。廃墟の奥から、武装した敵が姿を現した。四人だ。どれも戦闘慣れしているようで、息を合わせながらじりじりと距離を詰めてくる。
「俺一人相手にこんなに揃えてくれるとはね。」
女は煙草を口から外し、無造作に地面へ落とし足で踏みにじる。そのままゆっくりと構えを取った。
「さっさとかかってこい。俺の“足元”がお留守じゃなけりゃ、勝てるかもな。」
挑発的な言葉に敵の一人が苛立ち、飛び込んでくる。
「甘ぇよ。」
女の動きは、風のようだった。飛び込んできた敵の膝を狙い、鋭い蹴りを繰り出す。膝を打たれた敵はバランスを崩し、その隙に彼女の回し蹴りが側頭部を捕らえた。
「…次。」
続けてもう一人が接近するが、女は一瞬の踏み込みで距離を詰め、踵落としで相手の肩口を粉砕する。動きを止めた敵をそのまま薙ぎ払い、壁に叩きつけた。
最後の二人も容赦はしない。回転軸を使った連続蹴りで、見事に薙ぎ払い、わずか数十秒で戦闘は終わった。
「……すごい。」
思わず美咲の口から零れた言葉。
「おい、そこの善人ちゃん、立ち止まるなっつっただろ。」
女が振り返り、軽く手を払う仕草をする。その足元には倒れ伏す敵が何人も転がっていた。美咲は目を輝かせたまま、一歩、また一歩と彼女の方へ歩み寄る。
「すごいです! あんなに多くの人を、一人で…」
「お前も戦えるようになりゃわかる」
女は肩を竦めて言い捨てたが、その余裕ある態度がさらに美咲を惹きつける。
「私…ついていきます!」
美咲の突然の宣言に、女はポケットから煙草を取り出しながら振り向く。
「…はァ?」
「ついていきます! こんなにも強くて、こんなにも頼れる人、私は初めてです!」
「いや、俺はお前を助けたわけじゃねぇし…」
「それでもです!」
美咲はその場でぺこりと頭を下げる。女は煙草に火をつけると、面倒くさそうに頭をかいた。
「勝手にしろ。」
一息つくと、ぼそりと呟いた。
「…神城綾奈。以上」
「神城さん……いえ、綾奈さん!」
美咲の瞳が輝く。
「私は白鳥美咲といいます。医療の知識を持っています! お役に立てるよう、全力で努力します!」
その健気な姿に、綾奈はため息をつきつつも、どこか悪くない気分だった。
「…あんま期待はすんなよ。」
そう言うと、綾奈は再び煙草をくわえ、歩き出した。美咲はその背中を追いかける。
二人の新たな物語が、今始まろうとしていた。
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