第21話 クリスマスデート②

 ファミリーレストランで夕食を済ませ、お店から出ると……外はすっかり暗くなっていた。日が沈んだことで、冬の冷え込みが一層厳しく感じられる。


 それでも、街を行き交う人々の数は一向に減らない。それどころか、昼間よりも賑やかさが増しているようだった。


「……リリィ、まだ時間はある?」


「うん。平気よ」


 別に、魔界へ帰るのはいつでもいい。特に門限はないし、帰ってもすることはない。それよりも、今は凌と過ごす時間を大切にしたかった。


「じゃあ……もう少しだけ付き合ってよ」


 凌はほっとしたように微笑む。どうやら、彼もこの時間を楽しんでいるようだ。



 10分ほど歩いて辿り着いたのは、片側三車線の大きな道路。『平ら大通り』という、この辺では有名な場所だそうだ。信号待ちの車が列を成し、横断歩道には大勢の人間が行き交っている。


 そして、その両脇の歩道には――。色とりどりの電飾で形作られたオブジェが、数百メートル先まで立ち並んでいた。


「わぁ……すごい!」


 リリィは目を輝かせる。彼女にとって初めてのイルミネーション。その美しさに、すっかり心を奪われていた。


「凌! もっと近くまで行ってみよう! 早く!」


「ま……待ってよ、リリィ……」


 リリィは人混みをかき分けるようにして、早足で突き進む。凌は置いていかれないよう、彼女の後を必死に追いかけた――。



「綺麗なお城! きっとお金持ちのお姫様が住んでいるのね!」


「これ、海賊船!? 出航ー! アホーイ!」


「この木、すごい! エルフの森のユグドラシルみたいに光り輝いてる!」


「わぁー! 見て、凌! 強そうなドラゴン!」


「むむっ、こいつらは天使!? なんで、私たち魔族の天敵が、こんな所にいるの!?」


 見るもの全てが新鮮で、美しく光り輝いていて……。リリィは、思わず子供のようにはしゃいでしまっていた。その様子を見ながら、凌はショルダーバッグから何かを取り出す。


「リリィ……撮ってもいい?」


「えっ?」


 振り返ると、彼は小さな機械を持っていた。あれは確か……カメラ、だったかな? 一瞬を切り取り、現像することができる装置だ。つまり、リリィの姿が永遠に残ることになる。


「別にいいけど……」


 リリィは両手を後ろに組み、モデルのようなポーズを取る。そのまま、カメラに向けてウインクをした。


「可愛く……撮ってよね」


「うっ……」


 突然、凌がふらつき始める。下を俯きながら、自分の鼻を手で押さえていた。


「どうしたの……?」


「な、なんでもない。……大丈夫。なんとか耐えたから」


 凌は心を落ち着かせるように深呼吸をする。そして顔を赤く染めたまま、リリィにカメラを向けるのだった。



 かれこれ30分は歩いただろうか。ゆっくり写真を撮りながら回っているため、まだ半分くらいしか鑑賞できていない。


 そして今、リリィたちの前にあるのは……。ハートの装飾が施された、二人用のベンチだった。その周りには男女の二人組が集まり、楽しそうに写真を撮っている。


「凌、あれはなに?」


「あっ、あれは……その……!」


 凌がしどろもどろになりながら答えを探していると、突然見知らぬ人間に声をかけられた。


「すみません。写真……撮ってもらってもいいですか?」


 若い男女のカップルだ。固く手を繋いでおり、とても仲が良さそうに見える。


「僕、撮りますよ」


「ありがとうございます!」


 凌にカメラを渡すと、カップルは目の前のベンチに座った。肩が触れ合うくらい密着し、お互いの手を合わせてハートの形を作っている。


 なるほど……。これはつまり、カップルがイチャイチャするためのベンチなのか。


「ありがとうございました! ……良かったら、お二人も撮ってあげますよ」


「「えっ……!?」」


 リリィと凌、二人の声が見事に重なった。このベンチに……凌と座るの!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る