第21話 クリスマスデート②
ファミリーレストランで夕食を済ませ、お店から出ると……外はすっかり暗くなっていた。日が沈んだことで、冬の冷え込みが一層厳しく感じられる。
それでも、街を行き交う人々の数は一向に減らない。それどころか、昼間よりも賑やかさが増しているようだった。
「……リリィ、まだ時間はある?」
「うん。平気よ」
別に、魔界へ帰るのはいつでもいい。特に門限はないし、帰ってもすることはない。それよりも、今は凌と過ごす時間を大切にしたかった。
「じゃあ……もう少しだけ付き合ってよ」
凌はほっとしたように微笑む。どうやら、彼もこの時間を楽しんでいるようだ。
※
10分ほど歩いて辿り着いたのは、片側三車線の大きな道路。『平ら大通り』という、この辺では有名な場所だそうだ。信号待ちの車が列を成し、横断歩道には大勢の人間が行き交っている。
そして、その両脇の歩道には――。色とりどりの電飾で形作られたオブジェが、数百メートル先まで立ち並んでいた。
「わぁ……すごい!」
リリィは目を輝かせる。彼女にとって初めてのイルミネーション。その美しさに、すっかり心を奪われていた。
「凌! もっと近くまで行ってみよう! 早く!」
「ま……待ってよ、リリィ……」
リリィは人混みをかき分けるようにして、早足で突き進む。凌は置いていかれないよう、彼女の後を必死に追いかけた――。
「綺麗なお城! きっとお金持ちのお姫様が住んでいるのね!」
「これ、海賊船!? 出航ー! アホーイ!」
「この木、すごい! エルフの森のユグドラシルみたいに光り輝いてる!」
「わぁー! 見て、凌! 強そうなドラゴン!」
「むむっ、こいつらは天使!? なんで、私たち魔族の天敵が、こんな所にいるの!?」
見るもの全てが新鮮で、美しく光り輝いていて……。リリィは、思わず子供のようにはしゃいでしまっていた。その様子を見ながら、凌はショルダーバッグから何かを取り出す。
「リリィ……撮ってもいい?」
「えっ?」
振り返ると、彼は小さな機械を持っていた。あれは確か……カメラ、だったかな? 一瞬を切り取り、現像することができる装置だ。つまり、リリィの姿が永遠に残ることになる。
「別にいいけど……」
リリィは両手を後ろに組み、モデルのようなポーズを取る。そのまま、カメラに向けてウインクをした。
「可愛く……撮ってよね」
「うっ……」
突然、凌がふらつき始める。下を俯きながら、自分の鼻を手で押さえていた。
「どうしたの……?」
「な、なんでもない。……大丈夫。なんとか耐えたから」
凌は心を落ち着かせるように深呼吸をする。そして顔を赤く染めたまま、リリィにカメラを向けるのだった。
かれこれ30分は歩いただろうか。ゆっくり写真を撮りながら回っているため、まだ半分くらいしか鑑賞できていない。
そして今、リリィたちの前にあるのは……。ハートの装飾が施された、二人用のベンチだった。その周りには男女の二人組が集まり、楽しそうに写真を撮っている。
「凌、あれはなに?」
「あっ、あれは……その……!」
凌がしどろもどろになりながら答えを探していると、突然見知らぬ人間に声をかけられた。
「すみません。写真……撮ってもらってもいいですか?」
若い男女のカップルだ。固く手を繋いでおり、とても仲が良さそうに見える。
「僕、撮りますよ」
「ありがとうございます!」
凌にカメラを渡すと、カップルは目の前のベンチに座った。肩が触れ合うくらい密着し、お互いの手を合わせてハートの形を作っている。
なるほど……。これはつまり、カップルがイチャイチャするためのベンチなのか。
「ありがとうございました! ……良かったら、お二人も撮ってあげますよ」
「「えっ……!?」」
リリィと凌、二人の声が見事に重なった。このベンチに……凌と座るの!?
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