第19話 マリリン観察日記②
※
「うむ、やはりカップラーメンとやらは素晴らしい発明じゃな!」
ここは上田家のリビング。マリリンがキャッキャとはしゃぎながら、カップラーメンを夢中で食べている。その様子を、凌は無表情でじっと見つめていた。
「このスープもたまらん! 冷え切った身体に染み渡るのう!」
……さっきまで凍っていた彼女が言うと、まるで洒落にならない。
「それ食べたら、早く帰ってよね。もしリリィが来たら、僕が怒られるんだから……」
凌はため息を吐きながら呟いた。マリリンを助けた……なんてことがリリィに知れたら、間違いなく文句を言われるだろう。
「なんじゃ? お前さん、リリィの尻に敷かれておるのか?」
「べ、別に……そういうわけじゃないよ!」
「シッシッシ、気にする必要はない。世の中には、女が強いカップルの方がうまくいく……なんて意見もあるからのう」
マリリンはからかうように笑いながら、カップラーメンのスープを一気に飲み干した。凌の顔は、みるみるうちに赤く染まっていく。
「……助けなければよかった」
「まぁ、そう拗ねるでない。我を助けてくれたお礼じゃ。知りたいことがあれば、何でも占ってやろう」
マリリンは、どこからともなく水晶玉を取り出した。
「占い?」
「あぁ、何でも良いぞ! リリィのスリーサイズ、性癖、性感帯……どれが知りたい?」
「スリーサイズに……せ、性感帯!?」
凌の頭の中で、リリィの姿が次々と浮かび上がる。あんな姿やこんな姿……。だが、凌は慌てて自分の頭を叩き、雑念を振り払った。
「ぼ、僕とリリィの……未来について占ってよ」
「ほほう。それはまた随分と抽象的じゃのう」
「ダメかな……?」
「いや、まぁ無理ではないが……。参考までに一つ聞いておきたい。お前さんは、どのような未来を望んでおるのじゃ?」
「僕が望む未来……」
凌は下を俯いて考え込む。そして数秒後、マリリンを真っ直ぐ見つめて答えた。
「……リリィといると、すごく楽しい。できるだけ長く、彼女と一緒にいたいな」
凌にとって、リリィはいつの間にか特別な存在となっていた。しかし、彼女の存在が大きくなればなるほど、同時に不安も大きくなる。いつかリリィも、自分の元からいなくなってしまうのではないか……と。
「ふむ、良かろう――」
マリリンの声に反応するように、水晶玉が強い光を放つ。
「お前さんとリリィの未来、この我がしっかりと占ってやる!」
マリリンの身体から、強い魔力が溢れ出る。凌は水晶玉の輝きに目を焼かれないよう、慌てて顔を両手で覆った――。
「――ふむ、見えたぞ」
やがて水晶玉の輝きが失われ、鈍い翡翠色に戻る。マリリンは咳払いを一つして、占いの結果を淡々と語り始めた。
「近い未来、リリィは『帰る場所』を無くしてしまう。お前さんと、お前さんに近しい者だけが頼りじゃ。力になってやることが吉と出ておるぞ」
「えっ? それって、どういう――?」
「知らん。あとはお前さん自身で考え、行動するんじゃな」
凌は頭にハテナを浮かべる。……リリィが帰る場所を無くす? どういうことだろうか? それに、僕に近しい者って……?
下を俯き、ぐるぐると考え込む。そんな彼を見かねて、マリリンは大きなため息を吐いた。
「それともう一つ。これは占いでもなんでもない、幼馴染としてのアドバイスなんじゃが――」
もう用済みとなった水晶玉を片付けながら、彼女は話を続ける。
「なぜかリリィは今、オシャレに目覚めておる。アクセサリーの一つでもくれてやれば、きっと喜ぶと思うぞ」
「リリィに、アクセサリーを……?」
「地球では、もうすぐクリなんとかが近いのじゃろう? まぁ、せいぜい頑張るんじゃな」
マリリンは窓の外へと視線を移す。つられるように、凌も外の景色を眺める。大粒のボタン雪が、空からふわふわと舞い降りていた。……今夜はたくさん積もりそうだ。
クリスマスまで、あと数日。凌は覚悟を決めるように、拳を強く握った。
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