第16話 特殊性癖③(閲覧注意)

 全身を駆け巡る電流、そしてそこから生じる灼熱。雷から発生する膨大なエネルギーが、リリィの身体を容赦なくむしばんでいく。


「ボルティナお姉ちゃん、火力の調整はちゃんとしてね。なるべく長く楽しめるように……」


「分かってる。10億ボルト、50万アンペアってところだな。これなら、あたしの魔力も数時間は持つはずさ」


 ボルティナの言う通り、今回の雷は以前の『雷行』ほどの威力ではない。しかし何度も言うが、今のリリィはあらゆる刺激に対して敏感な状態だ。


「ん゙ん゙ーー! ん゙ん゙ーーー!!」


 全身の筋肉が痙攣し、拘束された四肢が踊るように跳ね上がる。リリィの意思とは無関係に、身体が勝手に動き続けていた。それはまるで、心と身体が切り離されたような感覚だ。


 リリィの目に浮かんだ涙が、熱によって瞬時に蒸発する。歯を食いしばり、思考が吹き飛びそうになるのを必死に堪えていた。しかし――。


 ……あれ、なんか気持ちいいかも。


 ふとリリィの表情が緩む。いつの間にか、彼女は今の状況に妙な快感を覚え始めていた。

 全身を駆け巡る電流と、それに伴い発生する熱。まるで温かいお風呂の中で、全身を丁寧にマッサージされているかのような感覚だ。これも、もしかしてイカのヌメヌメのおかげ……?


 リリィはそっと目を閉じた。電流に身を委ね、心も身体も熱く焦がされていく――。



 やがて、終わりは突然訪れた。リリィと共に雷を浴び続けていた女王イカが、ついに限界を迎えたのだ。


「あっ、イカちゃんが……!?」


「しまった! イカの耐久力を考えていなかった!」


 エアリアが慌てて声を上げ、ボルティナも驚きの表情を浮かべる。雷に焼き尽くされた女王イカは、すでに真っ黒な消し炭のような姿になっていた。

 さらに、脆くなった身体がボロボロと崩れ始める。まるで巨大な砂像が崩壊していくかのように……。


 当然、イカに拘束されていたリリィも巻き込まれる。彼女は力なく落下し、真っ黒な灰の山に埋もれてしまった。


「リリ姉!」


「だ、大丈夫!?」


 双子の姉妹が心配そうに叫ぶ。すると、灰の山から焦茶色の腕が伸びた。


「ケホッケホッ……あぁもう! 酷い目にあった!」


 灰をかき分け、煤まみれのリリィが顔を覗かせる。酷く咳き込みながらも、灰の中から力強く這い出てきた。


「リリィお姉ちゃん、平気なの!?」


「えぇ、これくらい余裕よ。私、エリートなんだから」


 リリィはパタパタと身体を叩き、こびりついた煤を落とす。すると、雷によってこんがりと焼けた素肌があらわになった。


「お、おぉ……」


「す、すごいよ。リリィお姉ちゃん……」


 すっかり焦茶色に焼けたリリィを見つめながら、二人はなぜか恍惚こうこつとした笑みを浮かべている。そして、ボルティナが息を弾ませながらリリィの懐へ飛び込んできた。


「リリ姉、すごくいいよ!」


 彼女はリリィの胸元に顔を寄せると、大きく息を吸い込み、その匂いを堪能し始める。


「ちょっと、何を……!?」


「あぁ、この香ばしい匂い……たまんないなぁ!」


「こ、こら! 焦げ臭いからやめなさい!」


 リリィはボルティナを引き剥がそうとするが、彼女は言うことを聞いてくれない。やがて、妹のエアリアまでもが駆け寄ってきた。


「あー! お姉ちゃんだけずるい!」


 エアリアは目を輝かせ、涎を垂らさんばかりの勢いでリリィを見つめている。彼女もかなり興奮しているようだ。


「すごい……。こんがり美味しそうに焼けちゃって……。ヴェルダンだぁ!」


「はぁ!? 私の身体を、ステーキみたいに言わないでよね!」


「ちょっと……ちょっとだけ、味見させて!」


「絶対にダメ!!」


 リリィは必死に制止したが、今の二人は聞く耳を持ってくれなかった。


「いただきまーす!!」


 まずはボルティナが動き、こんがりと焼けたリリィの鎖骨をペロリと舐める。


「ひゃん! ……もう! 汚いから舐めないで!」


 ボルティナに気を取られている間に、今度はエアリアがリリィの二の腕に顔を近づけ、甘噛みをしてきた。


「んー! ほかほかしてて、おいしい!」


「ちょっと! くすぐったいんだけど!?」


 リリィはなんとか二人の身体を引き離し、距離を取る。幸せそうな笑みを浮かべる姉妹を見て、大きくため息をついた。その吐息と共に、口から黒い煙がもくもくと上がる。


「エアリア……」


「うん、お姉ちゃん……」


 二人は顔を見合わせると、「せーの!」と声を合わせてハイタッチを交わした。そして声を揃えてこう言い放つ。


「「上手に焼けました〜!!」」


「あんた達……調子に乗るのも、イゲンにしなさーい!!」


 イカ墨沼に、リリィの叫び声が響き渡る。しかし彼女はまだ知らなかった。双子姉妹の歪んだ性癖は、これだけで止まるはずもないということを……。

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