第16話 特殊性癖②(閲覧注意)

 リリィはボルティナとエアリアを睨みつけ、説明を求める。しかし、二人は無垢な笑顔を浮かべるばかりだった。


「さぁイカちゃん! リリィお姉ちゃんを癒してあげて!」


 エアリアの掛け声と同時に、巨大なイカがリリィに襲いかかってきた。白くうねる足が、彼女の身体に絡みつく。


「ちょっと、やめ――!?」


 抵抗する暇もなく、四肢を完全に拘束され……。あっという間に、大の字のまま吊し上げられた。


 ……うぅ、ヌメヌメして気持ち悪い。


「こ、これが何の修行になるのよ!?」


 リリィが叫んだその瞬間――! イカの足がリリィの顔に纏わりつき、口を塞いできた。


「んん……!?」


 ヌメヌメした液体が、リリィの顔に付着する。くすぐったくて、息苦しくて……。声を出したくても、思うように出せない。


 さらに――!


「まだまだ! イカちゃん、もう一息だよ!」


 エアリアに命じられ、イカは足をもう一本伸ばす。そしてリリィの胸の辺りを、力強く締め付けた。


「んんんっ……!?」


 ヌメヌメした足が、リリィの身体に容赦なく食い込んでいく。リリィは目一杯のけ反るが、拘束から逃れることはできない。無抵抗のまま、イカの足にもてあそばれるだけ。


「んん! んんーーー!!!」


 まさにんともし難い状況に、リリィは涙を流しながら悶絶していた。

 締め付けられる痛みは、別に大したことはない。それより、このヌメヌメがいけなかった。これのせいで、身体の感度が著しく上昇している。少しの刺激でも、敏感に反応してしまうのだ。


「あぁ……いい! リリィお姉ちゃん、最高にしてるよ!」


 ビクビクと震えるリリィを見て、エアリアが恍惚な笑みを浮かべている。その隣で、ボルティナは鼻血を拭っていた。


 ……間違いない。この子たち、ただ遊んでいるだけだ!


 リリィは後悔した。こんな趣味の悪い依頼、最初から引き受けるんじゃなかったと。


 しかし――。


「んん……?」


 リリィの身体が、優しい緑色の光に包まれる。同時に、身体がフワリと軽くなるような感覚が広がった。


「このイカちゃんは、今が繁殖期なの。その粘液には、癒しの力がたっぷり込められているんだよ」


 エアリアの説明を聞き、リリィは思い出した。そういえば聞いたことがある。繁殖期の『女王イカ』には、不思議な生命力が満ち溢れていると。

 その身体は高値で取り引きされ、物好きなハンターたちが血眼で追い求めるという。


 リリィの身体に蓄積されていた疲労が、溶けるように消えていく。ぽかぽかとした温かい光が全身を包み、力がみなぎってくる。先ほどまで不快だったヌメヌメも、今では心地よく感じられた。


 ……よかった。この子たち、ふざけていたわけじゃなかったんだ。ちゃんとリリィの身体を癒そうとして――。


「よし、ボルティナお姉ちゃん。次の段階に進もう!」


「よっしゃ! 任せとけ!」


 待ってましたとばかりに、ボルティナが魔法の詠唱を始めた。澄んだ青い瞳が、サファイアのような輝きを帯びる。身体には電流がバチバチとほとばしり、今にも放電しそうな勢いだ。


 ……ま、まさかこの状態で、雷を!?


「んん! んんーー!!」


 リリィは再び身体をくねらせ、抵抗を試みた。こんなヌメヌメまみれで、全身の感度が上がった状態で雷を浴びようものなら、どうなってしまうか分からない。リリィの心が……壊れてしまうかもしれない!


「リリ姉……ちょっと熱いけど、我慢しろよな! すぐ気持ちよくなるから!」


「んんー!! んんー!!」


「いくぞ! 『究極雷焔アルティメットサンダーブレイク!!』」


 リリィの抵抗も虚しく……。ボルティナの魔法が発動し、空から無数の雷が降り注いだ。轟音と共に、辺り一面は眩い光に包まれる。


「ん゙ん゙ーーーー!?」


 声にならない声が響く。女王イカもろとも、高電圧の雷を浴びることとなってしまったリリィ。薄れる意識の中、ボルティナとエアリアをキッと睨みつける。


 ……この姉妹、本当にれてる!

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