第16話 特殊性癖①(閲覧注意)

 第16話では、性癖を歪められた双子の悪魔によって、リリィが少しだけかわいそうな目に遭います。

 苦手な方はスキップして頂き、第17話『恋に落ちないと出られない部屋』からご覧ください。物語進行には全く影響はございません。


 大丈夫だよーって方は、引き続きお楽しみくださいませ♪


―― ―― ―― ―― ―― ―― ―― ―― ―― ――


 魔界の一角にそびえる険しい山。雷を避け、突風をかき分けて、リリィは再びこの地へとやって来た。


 例の双子に会うために――。


「リリ姉……リリ姉だ! はぁ、はぁ……」


「ひ、久しぶり……。すっごく会いたかったよ、リリィお姉ちゃん! ふふふ……」


 リリィを出迎えたのは、『雷の悪魔』ボルティナと『風の悪魔』エアリア。なぜか二人とも息を弾ませ、頬を赤く染めている。


 ……この子たち、こんなキャラだったかしら?


「それでそれで、今日はどうしたのさ? また『雷行』を受けに来たのか? このあたしにビリビリされたいんだな?」


 双子の姉、ボルティナが尋ねてきた。その手には電気がみなぎり、今にも放電しそうなほどたぎっている。透き通るような白髪が、ふわふわと逆立っていた。


「えぇ、それもあるけど……。今日は、この傷を治してほしいの」


 リリィは自分の頬を撫でる。まるで引っ掻かれたような傷を見て、妹のエアリアが心配そうな顔をした。


「その傷……一体何があったの?」


「先日、全身がカチコチに凍っちゃって、それで――」


「「全身が凍った!?」」


 ボルティナとエアリア、二人の声がぴったりと重なる。さすがは双子、といったところか。


「えぇ。その時、顔にヒビが入っちゃって。氷が溶けた後も、この傷だけが治らないの」


 リリィは当時の状況を説明するが、二人はそれどころではないみたいだ。息を弾ませ、興奮した様子でリリィに詰め寄る。


「凍ったときの感覚はどう!? 痛かった!? 冷たかった!?」


「そうね。最初はものすごく冷たくて、その後針で刺されるような痛みに変わって……。でもそれは一瞬で、すぐに感覚が無くなってしまったわ」


「色は!? リリィお姉ちゃんの身体は、何色に染まったの!? 白色!? それとも青色!?」


「え、色? さぁ、私は自分の姿を見てないから、分からないけど……。あっ、でも視界が青白く染まっていたから、多分そんな感じかな?」


 どうしてそんなことを聞くのだろう……と、リリィは首を傾げる。しかし、双子の質問攻めは続いた。


「動画とか映像とか、残ってないの!? リリ姉が凍る瞬間を、この目で見てみたい!」


「写真でもいいよ! 凍ったリリィお姉ちゃんの姿、私も見たいなぁ!」


「そ、そんなもの……あるわけないでしょ!」


 やっぱり、今日の二人はおかしい。こんなに興奮するような子ではなかったし、どの質問もトンチンカンで意味が分からない。


 このままではらちが開かないと感じたリリィは、強引に話を進めることにした。


「とにかく! エアリア、お願いよ。あんたの回復魔法で、この傷を治してくれないかしら?」


 リリィが頼み込むと、エアリアは姉のボルティナと顔を見合わせた。それだけで通じ合ったのか、ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら頷く。


「……いいよ。今すぐ治してあげる。その代わり――」


 エアリアは一歩前に進み、両手でリリィの手を握った。真紅の瞳が、ルビーのような輝きを放つ。


「リリィお姉ちゃんに、手伝ってほしいことがあるの!」



 エアリアの回復魔法によって、リリィの頬はすっかり元通りとなった。今は双子に案内され、山を降りて暗い湿地帯を歩いている。ジメジメしていて、どこか陰気な雰囲気が漂う中、三人は目的地へとたどり着いた。


「ここって……」


 目の前に広がるは、真っ黒な液体で満たされた大きな沼。その見た目から『イカ墨沼』と呼ばれている。


「実はあたしたち、『雷行』に代わる新しいサービスを考えたんだけど……。リリ姉には、その試用に付き合って欲しいんだ」


 新しいサービス……? こんな場所で、一体何をするのだろうか?


「私は構わないけど、あんたたちは大丈夫? そんな重要な役目を、私が引き受けてもいいの?」


「もちろん! むしろリリィお姉ちゃんにこそやってほしいんだよ!」


「どうして……?」


「だって、リリ姉はエリートなんだろ!? きっと素敵な感想をもらえると思うからさ!」


 エリート……。エリート……。エリート……。その四文字が、リリィの頭の中で延々とこだまする。年下からの熱い信頼によって、彼女の自尊心がくすぐられた。


「そ、そうよね……。私、エリートだものね!」


 一抹の不安を感じつつ、リリィは双子の頼みを受け入れることにした。


「じゃあ、早速始めようか! エアリア、よろしく!」


「はーい!」


 エアリアは元気よく返事をして、パンパンと拍手を両手を二回叩いた。その瞬間、どこからともなく重い地響きが響き始める。


「な、何……?」


 リリィは辺りをキョロキョロと見渡した。すると、何やら巨大な白い生き物が、のそのそとこちらに近づいているではないか。


「こ、こいつは……!?」


 リリィは目を見開いた。地響きの正体……それは、見上げるほど大きなイカのモンスターだったのだ。


「『女王イカ』だよ。つい先日、エアリアが手懐けたんだ」


 て……手懐けた!? エアリアが、この化け物を!?


「さぁ……。始めるよ、リリィお姉ちゃん!」


「は、始めるって……一体何を!?」


 うねうねと近づいてくるイカの足を見て、リリィは思わず後退りした。


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