第15話 サキュバス流の看病③
その後もリリィは、凌とのおしゃべりを楽しんでいた。そこへ再びノックの音が鳴り響く。
「リリィ様、少しこちらへ……」
尾岩さんが部屋の外から呼んでいる。何だろう……? リリィは首をかしげながら、ゆっくりと立ち上がった。
※
「お疲れ様です。おぼっちゃまの体調は、いかがですか?」
「そうね……。まだ微熱はあるけど、顔色はだいぶ良くなったわ」
凌とおしゃべりをしている間に、彼の笑顔も増えてきた。きっと、少しずつ調子を取り戻しているのだろう。
「それは良かったです。リリィ様の看病のおかげですね」
「別に……。看病って言っても、おかゆを作ったくらいよ。大したことはしてないわ」
リリィは不満そうにぼそっとつぶやいた。その様子を見て、尾岩さんは無表情のまま首をかしげる。
「おや? もしかして、まだ物足りないのでしょうか? もっと……おぼっちゃまを看病したいですか?」
「えぇ。他にできることがあれば、何でもやりたいわ」
「何でも……。かしこまりました。少々お待ちください」
軽く会釈をすると、尾岩さんはどこかへ去っていった。そして数分後、何かを手にしてリリィの元へ戻ってきた。
「お待たせしました。リリィ様、こちらをどうぞ」
「これは……?」
「これを使って、おぼっちゃまを存分に『看病』してあげてくださいね」
普段は無表情な尾岩さんが、珍しく微笑んでいる。これで、凌を看病するのか……。
リリィは渡されたものを、しっかりと握りしめた。
※
「あ、おかえり」
「……ただいま」
部屋に戻ると、凌は変わらずベッドに横たわっていた。彼の安心しきった表情を見ていると、今から自分がしようとしていることにためらいを覚える。
でも、やらなきゃ。エリートとして、最後まで凌を看病するんだから……!
リリィは決意を固め、ゆっくりと凌に近づく。そして彼の掛け布団を勢いよく剥がした。当然、凌は驚いて目を大きく見開く。
「リリィ?」
その声に戸惑いが混じっているのを感じたが、リリィは意を決して次の行動に出た。今度は彼のパジャマに手をかけ、不慣れな手つきでボタンを一つずつ外していく。
「ちょっ!? ストップ! ストップ!」
突然の行動に、凌は顔を真っ赤にしながら声を上げた。
「どうしたの?」
「こっちのセリフだよ! 急に服を脱がそうとして、一体何のつもり!?」
息を整えながら、リリィを警戒の目で睨みつけている。……このままじゃ話が進まない。まずは彼の不安を解かなきゃ。
「尾岩さんが、これで身体を拭きなさいって」
リリィは濡れたタオルを手に取る。それを見て、凌はほっと胸を撫で下ろした。
「なんだ、そういうことか」
「そうよ。だから――」
再び手を伸ばしてパジャマに触れようとした瞬間、凌が慌てて後ずさりした。
「待って待って! 自分で脱ぐし、自分で拭けるから! リリィはあっち向いてて!」
その必死な声に押されて、リリィは渋々後ろを向いた。背後からは、タオルで身体を拭く音が聞こえてくる。凌は今、どこまで服を脱いでいるのだろうか?
……気になる。一度は入れ替わった仲なんだから、ちょっとくらい見てもいいよね?
好奇心を抑えきれないリリィは、こっそり後ろを振り返った。すると、凌は上半身だけ裸になっていた。……ちぇっ。さすがに下は脱いでいないのか。
彼はお腹を拭き終え、今は背中に手を伸ばそうとしている。……そうだ! リリィが背中を拭いてあげればいいじゃない!
「背中、拭きにくいでしょ? 私が拭いてあげる」
「えっ? 別にいいよ、恥ずかしいし」
「いいから。もっと私に看病させてよ。……お願い、凌」
甘い声で誘惑しながら、凌の身体に詰め寄る。彼はしばらく悩んでいたが、リリィの熱意には敵わなかったようだ。
「……じゃあ、背中だけだよ」
顔を赤らめながら、恥ずかしそうに背中を向けてきた。
「旦那さま、力加減はいかがですか?」
「茶化さないで、真面目に拭いてよ」
リリィは、タオルで凌の背中をごしごしと拭き続けた。昨日のお風呂でも見た、凌の上半身。色白で、細身で、でもリリィよりは筋肉がついていて……。やっぱり男の子なんだなぁと、心の中で胸をときめかせていた。
……って、いつまでも見惚れている場合じゃない。本番はこれからだ。尾岩さんから託された『これ』を使って、凌をもっと看病してあげないと。
「凌」
「なに?」
リリィは一瞬だけ言うのをためらったが、思い切って口を開いた。
「……お尻を出しなさい」
「へっ!?」
驚く凌の声を無視して、リリィは彼のズボンに手を伸ばし、思い切り引き下げようとした。しかし、凌も必死に抵抗する。
「お、お尻は自分で拭くからいいよ!」
「違うのよ! お尻を拭きたいんじゃなくて……」
リリィは背後に隠していたものを取り出した。尾岩さんから託されたもの……それは先の尖った一本の白ネギだった。
「これを、あんたのお尻に刺したいの!」
「……はぁ!?」
凌の表情が凍りつく。熱で火照っていた彼の顔は、みるみるうちに青ざめてしまった。
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