第13話 お互いの身体を知るために③
リリィが再び立てるようになるまで、10分以上かかった。まだ、下腹部に鈍い痛みを感じる。これはしばらく後遺症が残りそうだ……。
「ね、ねぇ、リリィ。僕たち、まだ元に戻らないのかな?」
凌がそわそわしながら尋ねてきた。額に汗が滲んでおり、焦っているようにも見える。一体どうしたのだろうか?
「さぁ、分からないけど。どうかしたの?」
「いや、その……トイレ行きたくなっちゃった」
リリィは凍りついた。リリィの姿でトイレに行くということは、凌にリリィのアレを見られるということだ。
「……だめ。我慢して」
「も、もう限界なんだよ。普段なら、もう少し我慢できるのに……。漏れそうで仕方ない」
凌はすでに泣きそうな顔になっていた。おそらく冗談抜きで限界なのだろう。これ以上我慢させるのは可哀想か。それに、リリィの身体で漏らされるのはごめんだ。
「分かった、行っていいわよ」
「あ、ありがとう!」
「その代わり、リリィもトイレに行くから。お互い目を瞑って用を足すこと。いい? 絶対に見ないでよね!」
「も、もちろんだよ!」
許可が降りるや否や、凌は全速力で公園のトイレへと向かう。そしてリリィも彼の後に続いた。
※
初めて入る男子トイレ。リリィは知らなかったが、どうやら人間の男は立ったまま用を足すらしい。
「これで……いいのかしら?」
凌の大切な部分を見ないよう、目をぎゅっと閉じる。しかし、リリィはふと考えた。
……今こそ、凌のことを知る絶好のチャンスなのではないか?
凌の身体でトイレに行くなんて、きっともう二度とないだろう。このチャンスを活かさずして、何がエリートだろうか?
決意を固めたリリィは、ゆっくりと目を開ける。そして恐る恐る視線を股間に移した。
「わぁ……これが……!」
そこには、リリィが知らない世界が広がっていた――。
※
リリィがトイレから出て数分後。凌が女子トイレから出てきた。
「……お待たせ」
「随分遅かったじゃない。ちゃんと目を瞑ったんでしょうね?」
「も、もちろん」
「ふーん。じゃあ――」
リリィは凌を睨みつけながら、彼の鼻のあたりを力強く指差した。
「その鼻血は、一体なにかしら?」
「うっ……」
凌の鼻の下には、血を拭ったような赤い痕跡が残っていた。彼は罰が悪そうに両手で鼻を隠すが、もう手遅れだ。
「これは……その……」
「見たの?」
「……ごめん。不可抗力で、つい」
凌は顔を赤らめながら、申し訳なさそうに下を俯いた。そっか……見られちゃったんだ。リリィの大切なところ。
「ふーん、見ちゃったんだぁ……」
本来なら怒るべき場面なのに、なぜか怒りは湧いてこなかった。それよりも、今は愉悦感の方が勝っている。
凌がリリィの身体に興味を持っている……それはつまり、彼の魅了値が高まっている証拠だ。
ここはさらに追い討ちをかけるべき。そう考えたリリィは、ゆっくりと彼に近づき、耳元で誘惑するように囁く。
「……で、どうだった?」
「どうって?」
「リリィの身体。感想、聞きたいなぁ……」
「リリィの……身体……」
凌の顔はさらに赤く染まった。きっと、先ほど見た光景を思い出しているのだろう。
「ふふっ、冗談よ。……また、鼻血出ちゃったね」
「……もう、からかわないでよ」
凌はリリィを睨みつけながら鼻血を拭う。その様子を見て、リリィはサキュバスとしての
……ふふっ、かわいいなぁ。リリィの姿で恥ずかしがっている凌が、愛らしくて仕方がない。もっと、もっといじめたくなる!
リリィは確信した。今まで魅了してきたどの男よりも、凌を攻略する時間が一番楽しくて、充実していて……そして胸がときめいている、と。凌の一挙手一投足、すべてがリリィのツボに刺さっていた。
「……ねぇ、凌。私、いいこと思いついちゃった」
リリィの悪巧みは止まらない。身体が入れ替わった今だからこそできる、とっておきの作戦を思いついたのだ。
「せっかくだから、あんたに魔法の使い方を教えてあげる」
全ては、凌を魅了するため……。リリィは不敵な笑みを浮かべた。
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