第13話 お互いの身体を知るために②
信じられない。まさか身体が入れ替わるなんて。
リリィは自分の身体を確認する。リリィよりも大きな手、少し高い目線。身体にはほどよく筋肉がついており、心なしか重みを感じる。しかし、胸のあたりだけは軽く感じた。
これが、男の人の身体……。そっか。私、凌になっちゃったんだ。
目の前では、リリィの姿をした凌が、同じように身体の変化を確認している。その慌てた様子を見て、なぜかリリィの胸は高鳴っていた。
……あぁ。私って、こんなに可愛いんだ!
改めて、自分の魅力を再確認したリリィであった。
「ねぇ、リリィ。元に戻る方法はないの?」
凌が困った表情で尋ねる。ほんのり顔が赤いのは、きっと今の状況に困惑しているからだろう。
「分かんないけど……たぶん、オルゴールが止まれば元に戻るんじゃない?」
凌の部屋では、まだ『双魂のオルゴール』の音色が鳴り響いている。身体が入れ替わったのは間違いなくこれが原因だ。きっと音楽が止まるまで、リリィたちはこのままの状態なのだろう。
つまりこれは、凌のことをもっと深く知るチャンスだ!
「ねぇ、凌」
「なに……?」
「このまま、少しお出かけしない?」
リリィの提案に、凌は驚いたように目を見開いた。
※
二人は大きな公園にやってきた。並んでベンチに腰掛け、サッカーをして遊ぶ子供たちを眺める。
それにしても妙な感覚だ。自分は凌の姿をしていて、隣には自分の姿をした凌がいる。それはまるで、お互いに固い何かで結ばれているような感じ。
平たくいえば……凌のことが他人と思えなくなってくる。
「でも驚いたよ。リリィの尻尾、作り物じゃなかったんだね。角も羽も……どれだけ引っ張っても取れないや」
「当たり前でしょ? まだ私のこと、コスプレだと思ってたの。てか、引っ張らないで」
まったく……最初から、魔界から来たサキュバスだって言ってるのに。
「本当に……本物のサキュバスなんだ」
人間にとっては、本来驚くべき事実。しかし、凌はなぜか嬉しそうに笑っていた。
「……驚かないの?」
「え? いや、びっくりはしているけど……。それ以上にワクワクが止まらなくて。僕、サキュバスと友達なんだなぁって。それに――」
凌はリリィの身体で、自分の尻尾を撫でるように触る。
「ここを触ると気持ちよすぎて……やみつきになっちゃいそう」
「ちょ、ちょっと! そんなところ触らないでよ!!」
リリィの顔がかぁっと熱くなる。そして恥ずかしさと同時に、悔しさも込み上げてきた。凌は既に、リリィの身体について知ろうとしている。
リリィだって、負けてられない!
「わ、私だって……あんたの気持ちいいところ、見つけてやるんだから!」
リリィは
そしてそれは、凌の身体にもちゃんとついていた。尻尾ほどご立派なものではないが、それでも一際感度が高そうな場所。
「ふふっ、きっとここよね……」
「あっ……さ、触っちゃだめ!」
凌が慌ててリリィを止めようとする。……悪いわね、凌。あんたのこと、もっと深く知りたいから――!
リリィは凌の制止を振り払い、ゆっくりと股間に手を伸ばす。しかし次の瞬間、子供たちが蹴ったサッカーボールが、リリィ目掛けて勢いよく飛んできた。
「ひぎっ!?」
ボールはリリィの股間にクリーンヒット。男の大切な部分に強烈な衝撃が走り、その場にヘナヘナと崩れ落ちてしまった。
「リリィ!? 大丈夫!?」
「うっ……ぉお……ふぐっ……」
……何、この痛み!? 声が出ない! どんな姿勢でも、迫り上がるような痛みが押し寄せてくる! 気持ち悪い! 吐きそう! 痛みの逃げ場が……ない!
「うわぁ……痛そう……」
凌が同情の目を向けてくる。きっと彼には、この痛みの重篤さが分かるのだろう。
リリィは知らなかった。人間の男が、これほどの弱点をぶら下げて生活しているなんて……。
一つ、凌の身体について知ることができたリリィ。しかしその代償に、彼女はしばらく立ち上がることができなかった……。
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