第12話 服の中ダイビング②
「ここはどこ? リリィは? どこ行ったの?」
「凌!? 聞こえてる!? 凌!?」
リリィは服の中へ何度も呼びかける。しかし、凌からの応答はない。どうして? 向こうからの声は聞こえているのに……。
「ど、どうしよう……なにも見えないし、なにも聞こえないよ」
「凌、落ち着いて! アンタは私の服の中にいるの!」
「もしかして、本当に食べられちゃったのかな?」
……ダメだ、まるで聞こえてない。ジャケットが声を遮ってるんだ。一刻も早く脱がないと。
リリィは震える手で必死にファスナーを下ろそうとした。しかし、突然全身をくすぐられるような感覚に襲われる。
「ひっ……! あはっ、あはははは!!」
凌が服の中でもぞもぞと動き始めたのだ。バフがかかった素早さを駆使して、二の腕から脇腹、そして背中にかけて、リリィの身体を虫のように這い回っていた。
肌が敏感なリリィは、もがき苦しむように身をよじる。
「あはっ! 凌! 止まって! 止まって! あはは!!」
悲鳴に近い笑い声を上げるが、やはり凌には届かない。彼はリリィの身体をあちこち周遊したのち、脇の下でぴたりと停止した。
「……ここ、なんだろう。じっとり湿ってて、甘酸っぱい香りがする」
「こ、こら! エッチ! そんなところ匂わないで! てか、酸っぱくないし!」
……許せない! 今すぐふるい落としてやる!
リリィは顔を真っ赤にしながら、自身の脇をパタパタと仰ぐ。しかし、それがかえって逆効果だった。凌は落とされまいと、リリィの脇にしがみつき、必死にもがき始めたのだ。
「ちょっ……きゃは! きゃはははは! くっ、くすぐらないで!」
こちょこちょと、まるで脇を化粧筆で撫でられるような感覚。リリィの目から涙が溢れ、頬を伝って滴り落ちる。
「ひひひっ……! ダメ! もうらめぇ!!」
全身から力が抜け、その場にヘナヘナと座り込んでしまった。その間にも、凌はさらに移動を続け、ついにリリィの豊満な胸へと到達した。
「ちょっ……! そこは……!」
ここでもう一度確認しておくが、今の凌には何も見えておらず、何も聞こえていない。従って、彼に悪気は一切ない。
「おぉ……。これ、柔らかくて気持ちいい。プリン……いや、シュークリームみたい」
「な、なにおバカなこと言ってんのよ! 早く……早く離れて!」
「あれ? この出っ張り、なんだろう? 硬いし、足場にはちょうどいいかも」
「ひゃい!?」
リリィは思わず変な声を出してしまった。凌が掴んでいるのは、彼女にとって最も敏感な部分。柔らかいものの中心、いわゆる女の子の『やる気スイッチ』だ。
「よいしょ、よいしょ……」
凌は滑り落ちないように、突起をしっかり握りしめ、足を引っ掛けて器用に登り始めた。彼の動きに合わせて、リリィの身体にはビリビリと快感の波が走る。
「あぁ……うぅん……はぁ、はぁ……」
呼吸は乱れ、頬は紅潮し、目はトロンとしている。くすぐったさと恥ずかしさ、そして快感が一度に押し寄せ、頭が真っ白になっていく。
……もう、好きにして。
身も心もすっかり疲れ果てたリリィは、思考を放棄し、全身の力を抜いて仰向けに倒れ込む。口から涎が垂れ、身体は小さく震え続けていた――。
数分後。眩い光と共に、凌は元の大きさに戻った。ようやく『コロポックルのけん玉』の効果が切れたようだ。
「わっ! も、元に戻れた……!」
凌は安堵しながら、自分の手足を確認する。しかし、すぐに倒れているリリィに気づいた。
「リリィ? だ、大丈夫……?」
「……もう、どうでもいいの」
「えっ!? 一体どうしたのさ!?」
凌が慌てて問いかけるが、リリィは表情一つ変えない。口をぽかんと開けたまま、天井をじっと見つめている。まるで骨抜きにされたかのように無気力だった。
「凌……アンタ、今までどこにいたか分かる?」
「わ、わからないよ。ずっと真っ暗で……何も見えなかったんだから」
「ふふっ、ふふふふふ……」
リリィは突然、不気味な笑い声を上げる。だが、彼女の表情は変わらず、ただ声だけが空虚に響いていた。
「相変わらずお馬鹿さんね。アンタ……私の服の中に入っちゃったのよ」
「えっ……!?」
「服の中で、あんな所やこんな所を動き回っていたんだから」
凌の顔から一気に血の気が引く。そして、自分の手をじっと見つめ、数分前に触れていた感触を思い出した。
「じゃあ、あの柔らかいのとか、固い出っ張りって……?」
「もう、言わなくても分かるでしょ?」
「そ、そんな……!」
凌はすっかり青ざめた顔で、頭を抱え込む。隣で、リリィは再び不気味な笑い声をあげた。
「ふふふっ。あははははっ。……凌のエッチ」
「あ、あぁ……」
「スケベ」
「あっ、あっ……」
「変態。けだもの。おっぱい星人」
「あああああ!!!」
凌の精神はついに限界に達し、大量の鼻血を噴き出して気絶してしまった。それを見たリリィの笑い声は、ますます大きくなっていく。
「あはは! 今日も世界は平和だわぁ! あは、あはははは!」
二人が正気に戻ったのは、それから数時間後……。すっかり日が暮れた後だった。
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