第10話 幼馴染は合法ロリ②

「……相変わらず、ごちゃごちゃした場所ね」


 ここはマリリンの研究室。床は本や素材で埋め尽くされており、足の踏み場もない。


「いい加減、掃除すればいいのに」


「前から言っておるじゃろう。我は断捨離だんしゃりが大嫌いなんじゃ」


 マリリンはぶつぶつ言いながら、ガラクタの山をかき分けている。きっと、リリィに渡す予定の魔法グッズを探しているのだろう。


「一見ゴミに見えても、後の発明で重要な素材になることがある。そのたびに、我は過去の自分に感謝するのじゃ。捨てずに残してくれてありがとう、とな」


「ふーん……」


 リリィは適当に返事をしながら、積み上げられた書類に目をやる。そこで、『辞令』と書かれたしわくちゃの紙を見つけた。


「……あんた、結局幹部にはならなかったのね」


「あぁ。魔王様には申し訳ないが、我のガラじゃないからな。こうして裏方で研究を続けてるほうが、性に合うというものじゃ」


 魔界随一の魔法使い、通称『魔女っ子マリリン』。その絶大なる魔力と数々の発明品が世に認められ、最年少にして魔王軍幹部へ昇進。……するはずだったが、彼女はそれを断ってしまった。


 ……まぁ、マリリンらしいといえば、確かにそうか。


「そういうお前さんはどうなんじゃ? 今回の件を解決すれば、晴れて幹部に昇進するのか?」


「……分からない。幹部になれるかどうかは、魔王様が決めることだから」


 リリィは拳をギュッと握りしめる。今の彼女にとって、幹部になることは重要ではなかった。それよりもっと大切なことがあるのだ。


「今はただ、魔界のために戦うだけ。勇者を魅了の力で無力化して、魔界の平和を守りたいの」


 瞳を閉じると、ある男の姿が浮かんだ。上田凌――勇者と同じ男子高校生。まずは彼を魅了できるよう、頑張らなきゃ。


「ふむ、勇者か……。お前さんは、あやつが今何をしているか知っておるのか?」


「魔王様からは、田んぼでお米を作っているって聞いたわ」


「そうなんじゃが、最近新たな動きがあったそうじゃ。……驚くでないぞ。我が仕入れた情報によると――」

 

 マリリンが、いつになく真剣な面持ちで振り返る。リリィは思わず唾を飲み込んだ。まさか……ついにお米を収穫し終え、魔界への侵攻を開始したのだろうか!?


「勇者は後日、始まりの村でお祭りを主催するらしい」


「……は?」


 お祭り? なんで?


「お祭りって、みんなでわいわい楽しむ、あのお祭り?」


「あぁ、そのお祭りじゃ」


 研究室内に、冷ややかな空気が流れる……というか、これってデジャブ? 確か先日、魔王様との会話でも同じことがあったような……?

 マリリンは場を仕切り直すように、わざとらしく大きな咳払いをした。


「……ま、まぁ、あやつら人間どもの考えることは、我らには分からんからな。もしかしたら、村人全員を配下に加えるための儀式かもしれん」


「そ、そうよね! きっと何か考えがあるのよね! うん、きっとそうだわ!」


 リリィは自分に言い聞かせる。勇者は、あの魔王様が恐れるほどの存在なのだ。ただの娯楽でお祭りを主催するなんて、そんなお間抜けなことはありえないから。


「ともあれ、魔界にとって重要な任務であることに変わりはない。じゃが、あまりひよるでないぞ。お前さんが誰よりも努力していることは、皆が把握しておるからな」


 マリリンは、瓦礫の山から何かを取り出した。凌を魅了する手助けとなる、合計四つの魔法グッズ。これは……すごい。それぞれから凄まじい魔力を感じる。


「まぁ、その……要するにじゃな。我はそんなお前さんを、幼馴染として誇りに思っておるということじゃ。できる限り協力してやるからな」


「マリリン……」


 リリィの胸の内に、熱い気持ちが込み上げる。少し照れくさいのは、きっとマリリンも同じだろう。


「頼むぞ、リリィ。例の男子高校生とやらを、骨抜きにしてやるのじゃ!」


「……ありがとう。私、頑張るから」


 リリィは胸の中で確信した。大丈夫。次こそは、必ず凌に勝てる……と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る