第10話 幼馴染は合法ロリ①

 魔界の奥深くに、黒い木々が生い茂る森がある。そこには怪しげな研究施設があり、一人の魔女が住んでいた。


「おぉ……! これが、地球の人間どもが発明した『カップラーメン』とやらか。興味深い。実に興味深いのう!」


 目をキラキラ輝かせながら、開封したカップに熱々のお湯を注ぐ少女。大きめの黒いワンピースを着て、頭にはいかにも魔女らしい帽子を被っている。

 彼女の名はマリリン。魔界屈指の魔法使いであり、さまざまな魔法グッズの発明家でもある。


「お湯を入れるだけで、あっという間に飯が出来上がるとは……。まるで魔法のようじゃな!」


 彼女の見た目は、まるで小学生のように幼い。小さな身体でぴょんぴょん飛び跳ねる姿は、まさに子供そのものだ。


「リリィ、もっとじゃ! もっと地球の面白い発明品を持ってきてくれ!」


「そうね……。しばらく地球に通うことになりそうだから、またお土産を持って帰ってあげるわ」


 リリィは机に座り、何やら作業に集中していた。


「……お前さんはさっきから何をしているのじゃ?」


「これを塗っているの。『マニキュア』って言うのよ」


 一旦作業を止め、左手を見せびらかす。リリィの爪は、鮮やかなピンク色に染まっていた。少しラメが入っており、光の当たる角度によってきらきらと輝いている。


「地球の女の子たちは、これでおしゃれをするんだって。どう? かわいい?」


 得意げに笑いながら、モデルのようなポーズをとるリリィ。その様子を見て、マリリンは珍しそうに目を見開いた。


「ほほぉ、これは驚いたわい。あれほど見た目に気を使ってこなかったお前さんが、おしゃれに目覚めるとはのう」


 マリリンの言う通り、リリィはこれまで『おしゃれ』をしたことがなかった。いや、する必要がなかったのだ。別に着飾らなくてもいい。男を虜にするには、ちらっと肌を見せるだけで十分だったから。


 凌と出会うまでは……。


 今までのリリィとは違う。その変化に気づいたマリリンは、からかうように彼女の顔を覗き込んだ。


「さては……男でもできたのか?」


「は、はぁ!?」


 リリィの顔は、みるみるうちに赤く染まった。分かりやすく取り乱しながら、マリリンをキッと睨みつける。


「べっ、べべべ別に、そんなんじゃないわよ!」


「ぷぷぷ! 相変わらず分かりやすいのう。男ごときに動揺するとは、お前さんもまだまだ子供じゃな」


「う、うっさいわね! あんたに子供って言われたくないわよ、この魔女っ子!」


「ま、魔女っ子じゃと……!?」


 マリリンの眉間に、ピキピキとシワがよる。大人のレディーを目指す彼女にとって、『魔女っ子』は最も屈辱的な呼ばれ方なのだ。


「こりゃ! 我は貴様より二つも年上じゃぞ! 少しは敬え、このアバズレ女!」


「なによ! この合法ロリ!」


「きっ、貴様ぁ! 言ってはいけないことを!」


 マリリンは拳を振りかざし、リリィに向かって殴りかかった。渾身の一撃……かと思いきや、リリィはまったく意に介していない。


「この! このこのこの!」


 まるで駄々をこねる子供のように、リリィのお腹をポカポカ叩く。しかし、結局彼女にダメージを与えることはできなかった。それもそのはず、マリリンは高い魔力を誇る一方で、物理攻撃力は皆無なのだ。

 リリィはニヤリと笑い、マリリンの額に手を伸ばしてデコピンをお見舞いする。


「いだっ!」


 軽い一撃にもかかわらず、マリリンはうめき声を上げ、その場にうずくまってしまった。そう、彼女は物理防御力も著しく低いのだ。

 これが、幼馴染である二人の喧嘩……いや、じゃれ合い。昔から何度も繰り返されてきたが、その大半はリリィに軍配が上がっていた。


 ……まぁ、仮に魔法で反撃されたら、きっと一瞬で消し炭にされちゃうんだけどね。



 今日、リリィがここに来たのは他でもない。この魔女っ子マリリンから、新たな魔法グッズをもらうためだ。凌を魅了する手助けになる、そんなアイテムを……!

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