第9話 野球拳①
凌は一時間ほどで意識を取り戻したが、直前の記憶を失っていた。
「あれ? 僕たち、さっきまで何してたんだっけ? リリィが部屋に来たところまでは覚えてるんだけど……。どうして、リリィは怒ってるの?」
「別に! 怒ってないし!」
リリィはしばらくご機嫌斜めだった。しかしその後、お昼ご飯に食べたカップラーメンの味に感動し、いつの間にか怒りを忘れていた。
ちなみに、凌が気絶したまま描いたイラストは……。あまりにもエッチ度が高すぎたため、リリィがこっそり持って帰って
午後。二人はテレビの前に並んで座り、それぞれの手にゲーム機のコントローラーを握っていた。
「へぇ……こんなのが面白いんだ」
「うん、僕のお気に入りのゲーム。友達が出来たら、一緒にやりたいってずっと思ってたんだ」
タイトルは『大検討スラングブラボーズ』、通称『スラブラ』。様々なキャラクターが画面上で『ネットスラング』をぶつけ合い、相手にダメージを与えて場外へ吹き飛ばした方が勝ち。……と、説明書に書いてある。
凌は数あるキャラクターの中から、赤い帽子を被った髭のおじさんを選んでいた。一方、リリィは散々迷った末に、ピンク色のドレスを着た金髪のお姫様を選んだ。
早速試合開始。まずは、凌が操作方法のお手本を見せてくれた。
『ワロスワロス! ワロスワロス!』
凌の操作に合わせて、髭のおじさんが次々とネットスラングを飛ばしてくる。リリィも凌に促されるまま、コントローラーのボタンを押してみた。
『ググれカス! ググれカス!』
金髪のお姫様からもネットスラングが放たれ、それが髭のおじさんに直撃。少しずつダメージが蓄積されていく。このダメージが溜まるほど、場外へ吹き飛ばされやすくなるらしい。
『今北産業!』
再び、髭のおじさんからネットスラングが放たれた。リリィはそれをかわし、すかさず反撃に出る。
『逝ってよし!』
お姫様が放ったネットスラングが直撃し、髭のおじさんが場外へ吹き飛んだ。これでリリィの勝ちだ。
……このゲーム、色々と大丈夫なのだろうか?
「おぉ。リリィ、中々筋がいいよ」
凌に褒められた。一緒にゲームができて嬉しいのか、彼の表情はいつもより明るく、まるで無邪気な少年のように見える。
……ふーん、そんなふうに笑うんだ。まぁ、悪くない気分だし、今日は凌にとことん付き合ってあげようかな。
それから数時間後……。
やはりリリィはエリートだった。ゲームの操作にすっかり慣れ、凌と互角に渡り合えるまでに成長していた。
そしてこのゲーム、単純に見えて実は奥が深い。
威力の低い技は隙が小さく、コンボを繋げやすい。一方、威力の高い技は外してしまうと大きな隙が生まれる。地道にコンボを重ねてダメージを蓄積させるか、それとも大技で一撃必殺を狙うか……。瞬時の判断が求められる。
さらに、回避技やカウンター技も豊富で、常に駆け引きが重要となるのだ。
「中々面白いわね……このゲーム」
「そっか。リリィに気に入ってもらえて嬉しいよ」
凌の笑顔を見て、自然とリリィの表情も和らぐ。確かにこのゲーム、魔界に持ち帰りたいくらいには面白い。しかし……。
なんかこう、刺激が足りないなぁ。
ただ画面の中で戦って、画面の中で勝敗が決まる。それだけでは、リリィにとって何となく物足りない気がした。
「ねぇ。私、いいこと思いついちゃった」
「な、なに……?」
リリィは八重歯を見せ、怪しい笑みを浮かべる。対する凌は、嫌な予感を察したのか、少しだけ眉をひそめていた。
「次の試合から、負けた方が罰ゲームを受けるってのはどう?」
「……なにをするの?」
「私、知ってるの。地球には、『野球拳』っていう遊びがあるのよね?」
「そうだけど……。え? まさか……」
どうやら、凌の嫌な予感は的中したみたいだ。
「ふふっ、そのまさか。負けた方が、服を一枚ずつ脱いでいくの。どう? 最高に刺激的じゃない?」
リリィは、わざとらしくジャケットのファスナーを下ろしたり上げたりする。その度に、艶やかな胸の谷間がちらりと見え隠れしていた。
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