第5話 性癖クラッシャー
魔界の一角にそびえる険しい山。空では雷が鳴り響き、谷間には強い風が吹き抜ける。そんな厳しい環境の地に、悪魔の中でも有名な双子の姉妹が住んでいた。
「リリ姉……ほ、本当にいいんだな?」
「えぇ、ボルティナ。遠慮しないで、全力でお願い」
「そんな……リリィお姉ちゃんの白いお肌が、真っ黒焦げになっちゃうよ?」
「構わないわ、エアリア。だって、あなたの魔法で元に戻せるんでしょ?」
「そ、それはそうだけど……」
二人の女の子が、リリィを心配そうに見上げている。『雷の悪魔』ボルティナは、透き通るような白髪と蒼い瞳を持つお姉ちゃん。そして『風の悪魔』エアリアは、
「……じゃあ、始めるぞ。リリ姉、そこの台座に登ってくれ」
「分かったわ」
リリィは階段を登り、銅でできた台座の上に立つ。空がぐっと近づき、轟く雷や吹きつける風が肌で感じられるほど身近になった。
悪魔たちには、『
リリィは、自らこの修行を受けることを決意した。失敗続きの現状を変えるため。不甲斐ない自分に喝を入れるため。そして、あのインキュバス男子高校生に勝利するため……!
「天空に轟く雷鳴よ、我が手に集え。蒼き稲妻の
ボルティナが詠唱を始めると、その身体は青白い電気に包まれた。重力を忘れたかのように白髪が逆立ち、蒼い瞳が
「リリ姉、いくぞ! 歯を食いしばれ! 『
リリィは瞳を閉じ、拳をギュッと握りしめる。そして息を大きく吸い込んだ次の瞬間。目が眩むような閃光と共に、巨大な稲妻が容赦なくリリィに降り注いだ。
「うっ!? んん……!!」
強力な電流がリリィの全身を駆け巡り、脳や神経、筋肉までも支配する。身体が小刻みに痙攣する中、リリィは必死に痛みを堪えていた。
「100億ボルト、500万アンペア……。あの強靭な肉体を持つタイタンも、一瞬で消し炭になるレベルだ! どう、リリ姉!?」
「へ、平気……よ……!」
電流による痺れや痛み、身体が焼けるような熱さも、時間と共に少しずつ慣れていく。……なんて事はなく、徐々にリリィの身体は限界に近づいていた。
「ぐっ……ああぁ!!」
身体の制御が効かなくなり、ぴくぴくと小刻みに痙攣する。目から溢れた涙は、電流の熱によって瞬時に蒸発していた。
辺りに香ばしい臭いが充満し、いよいよリリィの身体が黒く染まり始める。しかし、リリィは逃げ出したい気持ちを必死に我慢した。すべては、あの男に勝つため……!
「あ……ああ、ああぁ……!!」
悲痛な叫び声は、その後数分間に渡って響き続けた……。
やがて雷が止み、辺りは静寂に包まれる。力を使い果たしたボルティナは、ふらふらとその場に膝を突いた。
「ハァ、ハァ……リ、リリ姉、生きてる……?」
目線の先には、すっかり黒く焼け焦げてしまった胴の台座。そしてその上には、同じように全身が真っ黒に染まったリリィの姿があった。
「だ……だいじょ……ぶ……」
リリィは口から黒い煙を吐き出し、そのまま事切れたかのように倒れてしまった。全身から熱い煙が立ち上り、周囲に焦げ臭いにおいを撒き散らす。
雷が止んだ後も、雷行の余韻は続く。リリィの肉体に蓄えられた電流が
「エ、エアリア! 早く回復魔法を!!」
「分かってる! 清き風よ、我が呼びかけに応え、傷つき者に力を与えよ。あるべき者を、あるべき姿へ還元したまえ――」
今度はエアリアが詠唱を始めた。艶やかな黒髪が風に揺れ、真紅の瞳が宝石のように輝き始める。
「リリィお姉ちゃん、お疲れ様!
柔らかい風が駆け巡り、リリィを優しく撫で回す。直後、彼女の身体が金色に輝き始めた――。
※
「ふぅ……ありがとう、二人とも」
リリィは髪ゴムを外し、乱れた髪を軽く整える。回復魔法のおかげで、身体はすっかり元通りになっていた。
「リリ姉、調子はどう?」
「えぇ、まるで目が覚めたような気分だわ。全身が軽いし、頭もスッキリしてる」
「リリィお姉ちゃん、なんだかお肌もキレイになったね! プルンプルンの卵みたい!」
「ありがとう。あなた達のおかげよ」
雷行の効果は、精神の安定だけにとどまらない。強力な電流を身体に流し込むことで、肩こりや筋肉疲労、神経痛なども解消できる。さらに古い角質が焦げ落ちることで、肌ツヤも目に見えて良くなるのだ。
「これなら……きっとあいつに勝てる」
リリィは右の拳を握りしめて魔力を込める。紫色のオーラを纏ったその拳で、大きな岩を思いきり殴った。
「おぉ。す、すごいな」
ボルティナが感嘆の声を漏らす。リリィの拳を受けた岩は、跡形もなく木っ端微塵に砕け散っていた。
「ついに、決着をつけるんだね」
「えぇ。もう迷わないし、惑わされない」
リリィは髪ゴムを使い、髪を器用に結び直す。いつものツーサイドアップではなく、一つ結び――ポニーテールへと。
「『男子高校生』なんかに、私は負けないから」
そう言い残し、リリィは
※
「リリィお姉ちゃん、相変わらずストイックだね」
「あぁ。だからこそ、リリ姉はエリートであり続けられるんだ」
「なんだか、応援したくなっちゃうね」
ひと仕事を終えた双子の悪魔は、手を繋いでリリィの背中を見送っていた。
「……なぁ、エアリア。ここだけの話なんだが、一つ言ってもいいか?」
「うん。私も、ちょうど聞いてもらいたい話があるの」
二人は顔を見合わせ、声を揃えて叫ぶ。
「「めちゃくちゃ興奮したぁ!!」」
「痛みを必死に我慢するリリ姉の声、そして表情……すっごくエッチだった! この背徳感、たまんない! あぁ、もっとじっくり攻めればよかった!」
「私は、真っ黒に染まったリリィお姉ちゃんに興奮しちゃった! あんなに可愛い女の子が、あんな惨めな姿に……。い、いけない事だって分かってるけれど、もっともっと汚したい!」
「リリ姉、また来てくれるかなぁ!?」
「きっと来てくれるよ! リリィお姉ちゃんには悪いけれど……。次は、もっと酷い目にあってもらいたいな!」
リリィは知らないうちに、二人の少女に歪んだ性癖を植え付けてしまっていた……。
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