第3話

 やってきたのは家の庭。


 塀が高く周りからは見えづらくなっている。

 2人して動きやすい格好に着替えてからスタンバる。


 俺は目隠し着替えを強制させられた。


「私も付き合ってあげるから!」


 言うと同時にボールを投げてくる。

 ぽすっ!


「別に頼んでなんかねぇ!」

 真似て、同じ様にボールを投げる。

 ぽすっ!

 俺らはキャッチボールをしている。


「頼んでるのは、私よ!」


 ぽすっ!


「運動しなさい!」

「頼まれなくても、してただろ!」


 ぽすっ!


「あ、あれは……」

「……なんだよ?」

「人前でパンツ見せてただけでしょ!」


 ぽすっ!


「見えてたか?」


 ぽすっ!


「丸見えだったわよ!」


 ぽすっ!


「しかも、見てる人も大勢いたわ!」

「見んなし!」


 ぽすっ!


「見せんな!」


 ぽすっ!


「あと、どうでもいいけど、なんか物語でも書いてるの?」

「なんでそう思うんだ?」


 ぽすっ!


「部屋に創作本があったから!」


 ぽすっ!


「勝手にみるな!」


 ぽすっ!


 もう、ぽすっ! を聞くの飽きてきた。

 いつまで続くんだこれ?

 結局、暗くてボールが見えないのを理由にやめた。


 にしても、キャッチボール中、後ろで結んでいたとはいえ腰まで伸びた髪が邪魔だった。




けんの体、動きやすかったなぁ」


 けんの部屋のベッドに寝そべり、ひとりごちる。

 運動してみてわかったけど、良い体してる。

 小中と野球をやっていたから当たり前だよね。


 私は野球をしていたけんを思い出す。

 懸命に取り組む姿に惹かれたんだよね。

 上手いとは言えなかったけど、楽しそうだった。

 高校でも続けると思ってたんだけどな。


 なんで、やめちゃったんだろ?

 けんのことをもっと知りたいとお願いして、体が入れ替わったけど、知れたのはけんの体のこと。

 こう言うとえっちだね。

 えっちな方面じゃなくて、たくましさを知れたってこと。筋肉質的な意味。


 体が入れ替わっても、内面を知ることはできない。

 神様がしてくれたことは斜め上だな。




「よし! やるぞ!」


 真依まいとのキャッチボール&目隠し風呂を終え、パジャマ姿の俺は水気を拭いた風呂場にいた。


 右手にハサミ。左手に髪。

 これから、この長い髪を切る。


 自分で切るのはいささか不安ではあるが、こんだけ長ければ、髪を視界に収めたまま可能だ。


 なんたって腰まで伸びてるんだからな。

 本当に長すぎだろ。

 外から見る分にはどちらでもいいが、自分がとなると邪魔でしょうがない。


 真依まいには話せばわかってくれるだろう。


 俺は髪をバッサリと切り、切った髪をゴミ袋に入れていく。

 髪って意外と重いんだな。そんだけ長いってことか。

 肩にあたるくらいの長さにした。


「ふー、すっきりした」


 髪をすくと、切った髪の毛が手にくっつく。

 パジャマにも髪くずがついていて、このまま布団に入ったら大変なことになりそうだ。


「風呂、入るか」


 体が入れ替わってから真依まいの目隠しなしで風呂に入ってない。


「やましい気持ちがあるわけじゃないし、大丈夫だろ」


 可能な限り目をつむって体を洗うも、手に触れるすべすべで柔らかい感触が目を瞑るのは無意味であると主張してくる。


 特にふくよかな胸は触れるだけで多幸感に包まれた。




「なに、これ?」


 朝、目を覚ますと真依まいが馬乗りになっていた。

 体は俺だから嬉しくないな。


 丸い目をした驚愕顔で、昨日切った俺の髪を触っている。

 俺の、と言っても真依まいのだ。

 体が入れ替わっているから。

 なんともややこしい。


「髪がどうかしたか?」

「短くなってる」

「切ったからな」


「切った? なんで?」

「邪魔だったから」

「邪魔って……ひどい! 私の体なのに。大事に伸ばしてたのに……」


 大粒の涙を流し、顔をぐちゃぐちゃにしている。


「なんで勝手なことするの!」

真依まいならわかってくれると思って……」

「わかんないわよ!」

「そんな怒んなよ」


「ちょっと待って、髪を切ったってことは、お風呂は?」

「抜かりはない。ちゃんと入り直したぞ」

「バカッ!」


 泣きわめき、どうにも收集つきそうにない。


「おい、どこ行くんだよ」

「帰るのよ! バカ!」


 ドンッ!


 力強く閉じられた扉は物理的な意味だけでなく、目に見えない心の扉のようにも思えた。

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2024年12月18日 07:00
2024年12月19日 07:00

男女入れ替わりで俺の秘密が彼女にバレてしまう 越山明佳 @koshiyama

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