第2話

 休日がやってきた。


 俺は真依まいの友達――細川ほそかわ鈴寧すずねとスイーツ食べ放題に。


 真依まいは俺の友達――大平おおひら寿和としかずとゲームをしに。




真依まい、食べ過ぎ~」


 フライパン程の大皿にセルフで好きなだけ盛るスタイル。

 その大皿に盛るのも、もう2桁は超えただろう。


「だってこの体、異様に甘いもの食べたくなるんだぜ」

「変なの、まるで自分の体じゃないみたい」

「え、いや、まぁ……今日の体は、って感じかな……」


「トランスフォーム的な?」

「そう、それ!」

「ロボットじゃん」


 細川ほそかわ――いや、鈴寧すずねはケラケラとおかしそうに笑う。

 そう言う鈴寧すずねだって俺と変わらないぐらい食べてるはずだけどな。

 だからこそ、つられて食べてしまう。


「私は食べても太らない体質だからいいけど、真依まいは普段から体重気にしているでしょ? 誘った私が言うのもなんだけどいいの?」


 言われて手に持ってるイチゴのショートケーキを落としそうになる。

 いや、落ちたのだが、それは皿の上にだ。


 真依まいに食べ過ぎないよう忠告されていたことを思い出し硬直する。

 現在、皿には平積みでは収まらず、山になっている。


 いったいどれだけのカロリーを摂取したのかわからない。

 まぁその分、体を動かせばいいだろ。大丈夫、大丈夫。

 そう自分に言い聞かせる。




石倉いしくら、腕落ちてね? まるで別人みたいじゃん」


 この前やったゲームの続きやろうと誘われたのはFPSもの。

 普段からFPSはおろか、ゲームすらまともにやってない私が人並みにできるはずもなく、協力プレイであるがゆえに大平おおひらの足を引っ張りまくっている。


「わざとよ、わざと。本番はこれから」

「それさっきも言ってたぞ」


 大平おおひらの母親が出してくれたお菓子を横目にゲームコントローラーを慣れない手で操作する。


 私としてはゲームより、そこに置いてあるお菓子を食べたいのだけれど、けんの印象をこれ以上変えるのは心苦しいため、お菓子には手をつけていない。

 けんならゲームを優先するだろうし。


「少し休憩するか」

「そうね」


 休憩の提案を受け、どこかやりきった感覚が込み上がる。


 壁掛けの縁が白く丸い時計で時刻を確認する。

 時刻は午後3時。2時間程、ゲームに没入していたようだ。


 休憩という大義名分を得た私はさっそくテーブルのお菓子に手を伸ばす。


「にしても、その喋り方まだ続けるんだな。なにかあったん?」

「い、いや、な、な、なにもぉ〜、ないわよ」

「動揺しすぎ。動きもなんか女っぽいし、オカマにでも目覚めたん?」

「そんなのありえないわよ」

「説得力皆無」

「うっ、ぐっ!」


 けんの印象を壊さないようにと思ってたけど、もう手遅れのようね。


「あれ? お菓子がもうない」

「うっ、ぐっ!」


 しまった。食べるのを我慢していたせいか、勢いで全部食べてしまった。

 量としてはファミリーパック一袋ぐらいあったと思う。


「ケーキあるから、よかったら食べていってね」


 狙ったかのようなタイミングで大平おおひらの母が登場。


「お構いなく」


 テーブルに2皿、置く。

 皿にはいちごショートケーキが1切れずつ載せられている。


 大平おおひらの母はすぐにその場を去った。

 すでに結構、食べたからな。

 食べ過ぎてはけんに悪い。けど、出されたのを食べないのも失礼な気がする。


「食べないのか?」


 不思議に思った大平おおひらが声をかけてきた。


「お腹いっぱいで……」

「まぁ、あれだけ食べればな」

「うっ、ぐっ!」


「それで話を戻すけど……なにかあったん? もしかして野球部に入らないことと関係あるのか?」

「そんなの私が聞き――」

「ん?」

「なんでもない」


 大平おおひらとはリトル時代からけんと一緒に野球をやっている。


 けんは小中と続けていたけど、高校ではやってない。

 大平おおひらは今も続けていて、今日は午前中のうちに練習を終え、午後はフリーのようだ。


 結局、ケーキには手を付けず、大平おおひら家を後にした。




 帰り道、公園で走ってる私がいた。


 いや、厳密には私の体をしたけん

 ミニスカートを履いた私服姿で走っている。


「なにやってんのよぉ~!」

「ギャー……なんだ、真依まいか」

「なんだ、じゃないわよ! なにしてるのかって訊いてるの!」

「みりゃわかるだろ。走ってるんだよ」

「訊きたいのはそこじゃない! どうしてそんな格好でってギャー」


「なんだよ、うるさいな」

「お腹! ポッコリしてるじゃない!」

「そうだよ。だから走ってんだよ」

「私、言ったわよね! 食べ過ぎないでって!」

「……言ったな」


「なのにどうしてこうなるの!」

「食べたから」

「食べるな! 私なんかケーキ我慢したんだからね!」

「食べりゃよかったじゃん」


「ムキャー……って、どこに行くのよ」

「ランニングの続きやろうかと」

「ならまず、着替えなさいよ!」

「あー、確かに」

「もう!」


「じゃあ、着替えてから走るか」

「ダメ!」

「なんでだよ」

「そんな姿、知り合いに見られたくないの!」


「この腹か?」

「この腹か? じゃない! とにかく行くわよ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る