男女入れ替わりで俺の秘密が彼女にバレてしまう

越山明佳

第1話

「自分の背中を流す日が来るなんて思わなかったよ」

「こういう時ってどうして男側が目隠しを強いられるんだろうな」


「見ちゃダメだよ。恥ずかしいもん」

「わかってるよ」


 男女の中身が入れ替わる。

 創作では定番となっている事象が俺ら――石倉いしくらけん今野こんの真依まい――に起こっている。


 事の発端は数時間前。


「私達が付き合って1年が経つね」

「そうだな」

「なんか嬉しくなさそう」

「そんなことねーよ」

「ならさ。記念に参拝しない?」

「いいぜ」


 ここは井尻いじり神社。

 神社特有の長い階段を上り、拝殿へと向かう。


 不思議な程、人がいない。

 2礼2拍1礼。形式に則り、ふたり並んで参拝する。


けんのこと、もっと知れますように」


 付き合って1年。出会ってから起算なら幼稚園から。

 家はお隣同士。

 そう、俺らは幼馴染なのだ。


「なら、俺も……真依まいのこと、もっと知れますように」


 悲劇はここから始まった。


 温もりに包まれるような感覚の後、目を覚ますと、俺がいた。

 しばらく気を失っていたようだ。


「なにが起きて……」

「やってしまったようですね」


 俺と歳は変わらないであろう少女に声をかけえられた。

 ほうきを両手に持ち、白い着物と赤いはかまを身にまとっている。


「私はここの巫女みこ。ここ井尻いじり神社にまつられている神様はとてつもなくプライドの高い御方おかた。そして頑固で、人で言うならばそう、高学歴で仕事ができないポンコツ!」

「はっきり言うな! おい!」

「間違っても怒らせてはなりませんよ」


 一番怒られそうなのはこの巫女では?


「例えばそう……バカ! クソ! こんな願いの叶え方があるか、ボケェ!」


 破顔し、そうのたまう巫女。

 怒られるとしたら絶対にこの巫女だ。


「では……ご愁傷様しゅうしょうさま


 両掌りょうてのひらを合わせ、軽くお辞儀じぎする。

 言うだけ言って去ってしまった。


「う、うぅ〜ん? どうしたの?」


 目の前にいる俺が起きた。


「私がいる!? なんで?」

「お前は誰だ?」

「私は今野こんの真依まい。あなたは?」

「俺は石倉いしくらけん


 俺と真依まいの中身が入れ替わってしまったようだ。


「どうして、こんな……」

「この神社で祈ったのが原因なんだろうな」

「そんなことある?」


 真依まいうつむき、助走をつけるかのように大きく息を吸いながらおもてを上げ、そして――


「バカ! クソ! こんな願いの叶え方があるか、ボケェ!」

 一言一句いちごんいっくたがわず言ってしまった。

 元に戻れるのかな?




「私ってこんなに可愛いんだ。なんか着せ替え人形みたいで面白い」


 風呂から上がり、俺は真依まいに服を着せられている。

 目隠しを強いられているから見えてはいない。衣服を肌で感じるだけだ。


 ついでに胸の重みも。着やせするタイプだったんだな。こんなに大きいとは思わなかったぜ。


 元に戻るにはどうすればいいんだろうな。正攻法なら同じ神社にお願いすればいいが……望みは薄いだろうな。

 真依まいが手本のように罵倒してしまったし。


 にしても、真依まいの髪は長い。腰ほどの長さもある。

 端から見る分には気にならないが、いざ自分がとなると鬱陶うっとうしさを感じる。


「乾かすの大変じゃないか?」

「そんなことないよ」

「切るか」

「なんで。やめてよ」


 真依まいが乾かしてくれはするが、その間、じっとしているのはどうも拘束こうそくされている気になってかない。


 髪が乾いたかと思えば、今度は服選びだ。

 これもなかなかの拘束具合。着させられては脱がされをもう10回以上繰り返している。

 勘弁してくれ。


「よし! できたよ」


 どうやら長きに渡る着替えが終わったらしい。

 まるで、ご飯ができたみたいに言ってくれる。


 拘束から解放され、身も心も軽くなった。

 真依まいの部屋にある姿見すがたみで確認すると、白のブラウスに、膝下までの長さの青のプリーツスカート。

 スースーするが、仕方がないか。


 真依まいとは幼馴染で家が隣同士ではあるが、今ほど距離は近くなかった。

 お互い内気で付き合うきっかけですらお守りに『付き合えますように』と書いてるのを見たからだ。


 しかも縁結えんむすびのお守りではなく学業のお守りにだ。

 付き合い出したのは高校生になってから。


 お互いの両親が共働き。

 交際していることもあり、お互いの家に行き来している。


「これからどうしよっか」

「ひとまずは普段通りの生活を送るしかないだろ」

「ていうことは私が基本的にけんの家で暮らして。けんが私の家で暮らすってこと?」

「なんでそうなるんだ?」

「親が帰ってきたら変に思われるでしょ?」

「まぁ、確かに」


 行き来しているとはいえ、寝泊まりはそれぞれ自分の部屋でしてるもんな。


「部屋、漁ったりしないでよね?」

「しねぇよ」


 興味はあるがな。

 それよりも、俺の部屋には見られたら恥ずかしい物があるんだよな。特に真依まいに見られたくない。




 学校での日常。教室にて。


「俺? だぜ? そんな男みたいな言葉遣いだったっけ?」

「うるせぇ、そういう気分なんだよ」

「そういう気分て、なに? もう、やめて〜」


 取りつくろうことなく、真依まいの友達と会話した結果がこれだ。

 真依まいの友達はケラケラと腹を抱え、これでもかという程に笑いまくっている。


 対して、真依まいはというと、


「私? だもん? 石倉いしくら、そんな女みたいな喋り方だったっけ?」

「えっと、なんていうか、イメチェン?」

「なんだよそれ、やめてくれ〜」


 同じような問答を繰り広げていた。

 話し方ひとつでここまでネタにされるとはな。




「口調変えたほうがいいのかな?」

「今更じゃね。変えたら変えたでまたイジられるだろ。っていうか簡単に変えられるのか?」

「わかんないけど、ムリ〜。役者じゃないもん」

「だよな。わかるぜ」


 家に帰り、俺らは反省会を開いていた。

 なにも考えずに過ごそうものなら、いざお互いの肉体に戻った時に印象がズタボロになってそうだ。

 戻れる保証はないが……。


「そういや、スイーツ食べ放題に誘われた。今度の休日に行ってくるぜ」

「いいなぁ。食べ過ぎないでね」

「わかってるって、任せとけ」

「私は大平おおひらくんにお家に来ないか誘われたよ」

「ああ、どうせ一緒にゲームしようって話だろ」

「そうなんだ」

「行くのか?」

「行くよ。なにしてるか気になるもん」

「別に大したことしてないけどな」

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