第28話 持たざる者の考察
「柊はマネージャー失格なのです。天羽さまに応えられる実力がありませんでした」
「おたくのタレント、生意気の権化でしょ。簡単に折れるな、頑張りなさい」
逆に今すぐ手を引いたっていい。三年頑張れは何の保証もない戯言ゆえ。
本当に聞きたくないものの、先方が勝手に近況を語っていく。
「最近、学校ではミニ四駆、ベイブレード、たまごっち、ボードゲームなどがブームなのです。天羽さまは交友関係を広げたいとおっしゃっていました。ならば、戯れに交ざってもらおうと機会を設けました。しかし、子供っぽい遊びが退屈だったようで、気分を害されてしまいました。場の空気が悪くなって以降、集団に加わることをますます避けるように――」
俺が小学生の頃も、同じもの流行ってた! 懐かしいなあ。一世代違うシリーズでも、少年少女の心をくすぐるオモチャの系譜が続いて嬉しいぞ。
ミニ四駆もベイブレードも俺が考えた最強カスタマイズで熱いバトルに興じたし、たまごっちの育成プランをノートにまとめたし、TRPGで魔王討伐さえ果たした。
――もちろん、ソロプレイだぜ?
……あぁ、あの頃は楽しかったなぁ……もう働きたくねぇよ。
「ちゃんと聞いているのです、ヘンタイさん?」
「んあ? 最近のホビーはスマホ連動が主流? 知ってる、知ってる。十文字クロスなるユーチューバーが解説動画出してた」
「そんないい大人のくせに、オモチャに夢中な子供おじさんはどうでもいいのですっ」
腕を十字にクロスさせる決めポーズの人、女子小学生に吐き捨てられた。
やれやれ、だから男の子向け商品ばかり紹介するなとアドバイスしたのに……
「あのお方は柊に愛想を尽かし、更なる孤高の稀人へ至ってしまったのです。マネージャーごときが近寄ってはいけない雰囲気でした」
柊さん、沈痛な面持ちで不安を吐露してしまう。
刹那、俺はあのお方よろしく冷めきった表情をしていただろうね。
「ここ、愚痴を聞く相談所じゃないからさ。お茶飲んだら、お引き取りをば」
「なっ、なんでそんなに薄情なのですかぁ~!?」
「他人にお構いしたくないゆえ」
「あなたが、」
「俺は元々、こういう人間だよ。これまでも、これからも」
幼女の批判など、聞く耳持たず。
そもそも、友達作りはクソガキの本懐でしょ。
恥ずかしかろうが不安だろうが、欲するならば自分の意志で手を伸ばす他あるまい。ぼっちが嫌なら、火中の栗でも拾ってみせろ。濡れ手で火傷もきっかけになろう。
生意気ロリに関して一歩も引かないガチ勢に根負けし、一つ質問した。
「ところで、文房具バトルってもうオワコンなん?」
「文房具バトル……? 最近は全然。急にすっかり下火みたい。それ関係あるのです?」
カプセルトイ専門店ガチャポンの森店長は、なるほどと頷くばかり。
今月、くだんのシリーズ売上がめっきり不調だ。先月と比べ、小学生の姿がかなり減ったと感じていた。いやぁー、一日中店にいるから気づいちゃいました。ふざけろッ。
ガチャポンが大ブームの中、伝説のガチャポン荒らしたる所以を披露すれば一躍クラスのヒーロー間違いなし。ヒロインか? 多様性で考えよ。
否、すでに神引きの優位性など死んだ! ブームが廃れた以上、続ける奴はマニアかオタクか物好きか。無頼派は望むところなれど、あいつの願いと逆行している。
畢竟、もはや神引きに魅力なし。
シークレットレアが必ず引ける? それで? だから、どうした?
そんなこと、言うなって……友達の採用面接って圧迫なん?
「自己PR書かされるの、辛いもんな」
んなもん、ねーよ。金が必要だから、バイトします。
仮に自慢できる部分があるなら、こんな場所で働きません。
ガクチカ? おひとり様で胸を張って生活しました!
「大方、交流の輪を広げる切り札を早々に失って手詰まりなんだろ。極めて優秀だけど、それは事前準備で強い手札が多いから。予想外に事故ると、すぐ諦めモード入っちゃう。オメーに必要なのはアドリブ力。人生のプレイイングスキル上げたまえ」
「ヘンタイさん、何を言っているのです?」
「怖い怖い独り言。ほら、変質者に絡まれる前に帰りなさい」
胡乱な眼差しを向けた柊さんを、俺はバックルームから大人の力で追い出した。
「ちょ、話はまだ終わっ」
「そいやっ。うち、今月で閉店だから。本当にさよならバイバイの時は近いぜッ」
「天羽さまが困っているのに、逃げる気ですか!? この卑怯者ぅ~っ!」
居留守の音無、本領発揮。今度こそ完全無視を貫いた。
「というか、クソガキの弱みに付け込むストーカー設定どこいった。悪が滅んだぞ、もっと喜べよ」
他者の煩わしさでひとりきりの時間を無駄にしないでくれ。
プライスボッチ。お金じゃ買えない価値がある!
それはそれとして、給料を上げてほしいと思いました。
サビ残代、ちゃんと計算してあるからな? 口止め料、5000兆円なり。
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