第26話 冷やかし

「オウ、カゲヒロ。ヨニゲノジュンビ、バンタンカー?」


 似非外国人キャラのマイケルがフランクに肩を組んできやがった。


「お客さん、これセクハラだぞ」

「キニスンナ、ココロノトモヨ」

「気にするから注意したんだよ!」

「HAHAHA」


 うぜーっ! 馴れ馴れしさこの上なし。

 俺が柔道家だったら、一本背負いで飛んでたぞ? 受身の技術だけ上手で体育の成績表8だった俺に感謝するんやで? 悟り世代はほとんど受け身? そうかもしれない。


「オヌシモミズクサイノ~。ヘイテンスルナラ、シラセヤガレ」

「告知したから、来たんでしょ。ガチャポンの掴み取りワンコインでやってるぞ、在庫処分に協力しれ」

「オウ! ヌレテデアワトハコノコトカッ」


 外人キャラって、ことわざ詳しいな。

 濡れ手で泡? 手洗いかしら? 今日のおやつはむき栗にしよう。

 ちなみに、転売で利益が出るレアものは入っていない。マイケルの場合、独自ルートで外国人に捌けば小遣い稼ぎになるらしい。っぱ、世の中コネが最強や。


「マイケル。今までお客の斡旋助かったよ。売上でほとんど文句言われなかった。ツアーガイドの仕事続けるなら、隣の駅ビルに新店オープンする。そっちでどうぞ」

「トモダチナラアタリマエ。キサマモイドウシヤガレヨ」

「うん、俺に友達はいないけどな」


 金髪碧眼ハンサムの濃厚接触を払いのけ、俺は掴み取りコーナーへ誘導していく。


「タカラノヤマガザックザック! ワイガカンキンシテヤルサカイッ」

「似非関西人やめるんやでぇ~」


 お祭りに来た子供よろしく目を輝かせていた、マイケル。本当に宝の山らしい。

そりゃ早朝並ばず捨てアカで抽選せず、一個百円のブツを千円で売りたいよ。

 うちはセルフサービスを尊ぶガチャショップ。お客様の邪魔なんて滅相もなく、早々に店長はこの場を去るのみ――


「僕はさ――景弘君。キミのいるこの店がとても気に入っていたんだ」

「うわっ……急に素で返すな。人見知り、ビクッとしちゃうから」

「ハーフとか外人モドキなんて弄られるのがコンプレックスだった僕に、自分らしさを誇る勇気と強さを教えてもらった。最近、毎日楽しく過ごせるようになったかな」


 柔和な笑みを携えたイケメン。但し、人の話は聞かない。


「新店に移動するかどうか迷っているようだね。それなら、僕の仕事を手伝ってみる気はないかい? 仕事は年末まで埋まってるし、一人雇ってもちゃんと給料払えるくらいの稼ぎがある」


「俺は英検三級だ。イングリッシュ、ペラペーラできへん」

「もちろん、ガイドは僕が続けるさ。景弘君は事務作業だけで構わない」


 どうだろうと、陽キャの微笑が眩しかった。


 ふむ、悪くない提案だと思った。音無景弘は、何の資格も持っていない高卒フリーター。接客は本当に嫌だと身に染みたし、サービス業で社員を目指すのは苦痛。ハロワで資格を取る講座申請しても、結局まともな求人が取れるわけじゃない。

畢竟、これはチャンス――


「だが、断るっ!」


 あーだこーだ考えても、答えはいつも一つ! 真実とは違うんですよ、真実とはっ。


「なぜだい? 理由を教えてほしいな」

「俺がおひとり様だから。以上」

「……」


 そんな呆れた表情するなって。照れるぜ。


「マイケルの成功体験に、おんぶに抱っこにぶら下がりたい気持ちはすこぶるある」

「じゃあ」


「しかし! 誰かと仲良くビジネスできるなら、こんなところにいやしないッ。ツアーガイドはマイケルが見つけた天職だろ。これ以上関わると、疎遠したい病が疼く。孤高もとい糊口をしのぐ場所くらい自分で探すさ」


 ぼっちは生き様である。良い子は真似するなよ。


「そうか。断られるんじゃないかって思ってたよ」


 マイケルが、本場アメリカで通用しそうなオーバーリアクションを披露して。


「カゲヒロニフラレテサンザンネー。キョウハカンベンシヤガルヨ」

「永久に勘弁しろ。お前はガールフレンドと楽しい場所にでも行ってこい」

「ワイハアキラメヘンカラナー。シッポリシテキヤガレ!」


 似非外人キャラが別れのハグを――ぼっちはひらりと避けた!

 セクハラしようが許される。そう、イケメンならね。爆ぜろッ。

 リア充、この後オサレなブティックホテル(お上品な言い方)で待ち合わせ。爆ぜろッ。


 ガチャポンの森は、イケメンかつリア充のご来店を固くお断りしております。

 二度と来んじゃねぇぇえええぞぉぉおおおーーっっ!

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