第16話 回転寿司のラーメンは意外とイケる
「回転寿司の担々麺って美味しいのかしら?」
開口一番、天羽は哲学を語りだした。
「スシ食えよ」
「チャーシュー丼も興味深いわね」
「スシ食えよ!」
天羽が休憩室のソファを我が物顔で占拠し、タブレット端末を操作中。
「おひとり様は好きな物だけ食べればええやろの精神だけど、その逆張りは流石に推奨されておらんぞ」
「あたし、生魚が得意じゃないわ」
「そう、ですか……」
じゃあ、しょうがないね。
俺も今行くなら、ガリばっか食べちゃうし。財布が軽い分、お茶で腹を満たそう。
「おじさんは好きでしょ、生魚。何でも生で貪りそうな顔だもの」
「フッ、とりあえず焼けば何とかなる顔だが?」
筋を通さなくても、火は通せ。腹壊しちゃうぜ。本日の座右の銘なり。
「今日メイドさんが休みだから、近場で外食したいわけ」
「うちも美少女メイド来てほしい」
「時給三千円スタートだって。あんた、払えるの?」
「よし、諦めた! 願いなんて叶わないッ」
時給百円上げるのに、一般バイトは最短でも半年かかるんだぞ。偉いんか? 美少女がそんなに偉いんか! まあ、第一印象で七割決まる世間ゆえ。
「お前さん。自炊しないん? 勉強以外もできるスーパー小学生なんだろ」
「料理教室には通ってないわ。キッチン汚してまで調理したいと思わないの」
「うちは全然使ってないけど結構汚いぞ?」
「ハンッ、おじさんのばい菌がこびり付いたんじゃない? 飛沫感染するから、マスクしてちょうだい」
クソガキが舐めきった態度で成人男性を小バカにした。
「バックルームで二人きりは濃厚接触者だ。さっさとご飯食べて、習い事へ行け」
俺がシッシと生意気ロリの退室を願ったところ。
「今日は予定なし。おじさんがちゃんと働いているか監査してあげたの。感謝なさい」
「SVの店舗チェックかよ」
当人は電話越しだけで、実物を未だ見たことあらず。俺よりサボってる?
「評価Cね。一人でこなせる作業は完了済みだけど、売場でのモチベーションが低い。接客に関しておざなりな態度が目立つ。従業員はブランドの顔だと思って行動なさい」
「リアルな人事評価じゃねえか! 昇進できないやつ!」
別に、この会社で出世は全く考えていない。時給下げてくれ、辞める口実をくれ。
「あと……休憩中に女子小学生を回転寿司に連れていく点がマイナス」
「え、何だって?」
天羽が立ち上がるや、俺の首根っこを掴んだ。猫じゃないニャン。
「この時間、ファミリー層が多いんでしょ? あたし一人で行くと邪推されるし、気分が悪いの。苦肉の策だけど、あんたの顔を見ながら食事した方がまだ耐えられるわ」
「あ、大丈夫です。俺、ご飯、いつも、一人。ぼっち飯」
「は? ロリコンが可愛い少女と合法的に食事を共にできるわけ。むしろ、お金を払わなければいけない立場じゃない?」
世の中、レンタル彼女なるサービスも存在している。一応、こいつも美少女の範疇。性格悪いけど、ロリ枠で人気が出る可能性あり。
さりとて、俺はレンタル他人しか興味がない男。事務連絡以外のコミュなし希望。
「天羽。ソロ回転寿司は結構乙なもんよ。むしろ、あの子通だって尊敬され」
「ないわよ。おじさんの孤独に対する情熱、一周回ってやっぱり呆れたわ」
残念な生物を眺めるような視線を向けた、天羽。そこは尊敬してくれ。
「いやさ、こういう時こそ好機じゃん。ファミレスでもいいけど、クラスメイトを誘って一緒にワイワイすれば友達チャンスゲットだぜ」
ぴっぴかちゅー(人の友達を取ったら、泥棒! 恥を知れ)。
小学生は、マスボでもゲットできないモンスターなんだなあ。
「仮に友達と呼称できる相手がいれば誘うけど、まだ友好関係を築けていない相手を誘うのはおかしくないかしら? 前提条件として、ご飯を一緒に食べに行くのって遊びに誘った延長線上なんでしょ」
「そんな小難しく考えたことねーぞ。俺は一人がいい。皆は皆がいい。それだけだ」
技巧派ぼっちすぎる! 俺、無頼派ぼっち。
おひとり様の先輩風を吹かせるつもりが、とんだ逆風である。吹き飛ばされそう。
「あたしの家来でしょ。つべこべ言わず、同行しなさい」
「え~、友達に女子小学生と一緒にいるとこ見られたら恥ずかしいし……」
「あんた友達いないのが自慢でしょうが!」
「ぐふっ」
そして、腹パンである。
いいツッコミ、もってやがる……でも今の時代、暴力はコンプライアンスだぞ。
生意気ロリが深海200メートル越えの深い溜息を漏らせば。
「あたしが出すわよ。ウニでもイクラでも注文すれば?」
「ご一緒いたす! 共に参ろうぞッ」
俺はサッと立ち上がり、ドアを全開オープン。雇い主のお通りなり~。
「本当にダメな大人って笑えないのね。あたしから同情を誘うとは脱帽ものよ」
「ブルジョワには分からんのですよ、ビンボー一人暮らし一年目の切実さがさぁ!」
自ら望んだ修羅の道、我退路あらず。マネーナイナイ、オキラクダケド。
「結崎が来るまで、ちょっと待って。やることリストを押し付けた後、奢られるから」
「……結崎お姉さんにご同席願おうかしら?」
本気で悩むの止めろ。
「あいつは今、キャリアップの瀬戸際! 邪魔しちゃアカンッ」
俺も名案と納得したものの、タダ飯のためならばいくらでもお茶を濁そう。
そして、軍艦である。
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