第11話 似非外人キャラ
なぜ人は、日曜日のショッピングモールへ殺到してしまうのか。
近所で暇潰しでしょ。はい、証明終了。
三連休の中日、俺は精神が擦り切れる寸前に地獄のピークタイムを乗り越えた。
目下、すこぶる忙しい混雑からそこそこ忙しい混雑具合。結局、しんどいじゃん。
早朝から六時間ほどワンオペをこなすや、ようやくバイト君がご到着。出勤した瞬間に売場へ蹴り出した。上長による暴力? 遅刻した子を丁重に指導がてら送り出した。
「昨日あんなに頑張ったのに、明日も同じノリで労働するってこマ?」
あぁ~。休憩室の店長机に突っ伏せば、冷たい感触が気持ちいいなりぃ~。
断言しよう。販売接客業にとって、三連休は極めてゴミである。
祝日撲滅委員会を発足する勢いだ。勢い余って解体するレベル。
「バカな独り言やめてちょうだい。聡明な子供の大人に対する信頼が揺らぐわ」
「天羽……お前はどうしてここにいるのだね?」
「暇潰し」
はい、QED.
もはや指定席と化したソファにふんぞり返る、伝説のガチャポン荒らし。
「ここは隠れ家でも別荘でも小学生の秘密基地じゃないのだが」
「当たり前でしょ。くつろぎたいならホテルで憩えばいいじゃない」
「金持ちの発想……っ!」
ケッ、金さえあれば飛ぶ鳥も落ちるってか。羨ましいこった。
親ガチャSSRは羨ましいですなあ! 好き勝手遊んで、好きなもん買いてーわ。
……先方にとってノンデリ発言ゆえ、流石にぶちまけたりしない。自分、大人っす。
「さっきから何やってんだ?」
「英語の勉強」
「アー、ハーン?」
途端に興味を失った、俺。イングリッシュは最初の方躓いてずっとそのまま。
日本語を喋れるだけで日本語を疎かにする日本人がなんと多きことか。日本語の乱れ、著し。文科省、英語を必修化する余裕があるならば常識って科目を追加したまえ。
「今度、テストがあるの。少しくらい目を通さないとね」
あたし天才だから授業聞いてれば全部分かるけど?
そんなクソ生意気を言われていたら、ゲンコツだった。体罰はマズいですよ!
「やけに賢かったのは、ちゃんと理由があるんだな」
「やけに愚かしいのは、ちゃんと理由があるように」
ガン見、やめろ。問題集と睨めっこしなさい。
俺はよっこらしょと立ち上がり、冷蔵庫からマシュマロとマンゴースムージーを手に取った。独り占めしようとするも、幼女の冷たい視線に晒された。
「おやつに取っとけ、お客様よぉ」
「どういう風の吹き回し? あと数秒判断が遅ければ、罵詈雑言でストレス発散するつもりだったわ」
「カスハラなら俺はもちろん抵抗するで? 拳で」
やはり、暴力……っ! 暴力は全てを解決する……っ!
天羽がマシュマロをつまんで、ちゅーちゅースムージーを飲み始めた。
甘い物はたとえクソガキでも年相応の笑顔を作り出す。
好きなコンビニスイーツを好き勝手嗜めるのがおひとり様のメリットなのだが。奪ってくれるなよ、全く。その微笑み、プライスアリ。398円徴収します。
「先輩ぃ~。常連さん来ましたよぉ~。対応お願いしまぁーすっ!」
インカムで売場へ来いと催促された。常連は別に友達にあらず。結崎のコミュ力であしらってくれ。いっぺん追い返したのにまた来たぁ? ハァー。
「休憩時間五分!? ほぼ女児の相手させられただけじゃん」
「良かったわね、おじさん。女子小学生に嘲笑されるのもご褒美なんでしょ?」
「ロリコン紳士じゃねえっての」
我々の業界ではご褒美じゃありませんぞ。おひとり様は子供の相手が一番しんどい。
精神年齢お高めキッズに聖域の番を任せ、渋々憂うつな気分で売場へ向かった。
「ハァイ! カゲヒロ! ゴキゲンカヨ!」
ドアを開けた途端、やたらテンションの高い似非外人にハグされる。
初手・抱擁のボディランゲージは勘弁してくれ。
「マイケル、近いからっ。チキンスキンがブルっちゃう!」
「ハハハ! ヨイデハナイカ、ヨイデハナイカ!」
「警備の人、助けてぇ~!? 内線十番入れてぇ~!?」
密ですっ。密です!
昔、都知事が言ってただろ。密を避けろってさ。誰とも関わらない世界が恋しいね。
金髪アロハの拘束から逃れるだけで、一日分の許容対人干渉量を超えてしまった。
ここから先は――負債ばかりが膨れ上がる地獄だぜ?
「キョウモイッパイカネヅルアッセンシタヨ。カンシャカンゲキアメアラレヤロ」
「……売上的にはありがとう。個人的にはふざけんな」
「ヨキニハカラエ。オヌシモワルヨノー」
親指を立て、白い歯をキラリと覗かせたグッドガイ。
田中マイケルはあちら側の人間である。控えめに言って、陽の気が超絶キツい。
「連れて来た観光客は全員捌けたな。大変だった、あーだこーだ英語やフランス語、中国語にサンスクリット語……翻訳機がなきゃ死んでた。科学の力ってスゲー」
今時のインド人も真っ青なサンスクリット語ェ……
フロアを見渡せば、ジャパニーズばかり。うちは混雑禁止です。疾く解散して。
「やはり、俺にグローバルは百年早かった。英検三級だしな」
「ソンナコトナイヨ、キサマノオモテナシナカナカデンガナ」
「接客は結崎に丸投げしたほうがいい。光属性の笑顔が眩しい」
「オウ、カンバンムスメカワイイネ」
結崎は入口側の通路でカプセルの補充を済ませ、部活帰りの中学生に推しガチャを布教し、付き添いのパパママの世間話に付き合っていた。
……バイト君、優秀だね? 社員にならないか? 今すぐ店長の席を用意しよう。
立派な後継者の登場に、大手を振って退職できる俺。ウィンウィンだね。
「あぁ、俺もバイトだったか。責任だけで決定権なし。やっぱつれーわ」
「カゲヒロ、オツカレカー? ゲンキダセッテコノヤロー」
「マイケルのポジティブが末恐ろしい」
「ソレナ! ボチボチダヨ」
ナチュラルに肩を組まれ、カスハラセクハラの苦痛を味わったぜ。
マイケルが壁沿いに進み始め、俺も歩調を合わせることに。
お目当ての筐体を見つけるや、アロハから小銭入れを取り出した。
「ココカラガオタノシミノダロ。ワイモガチャガチャマワシヤガレ」
常連は今回、何のガチャポンを選んだかと言えば。
「……干物シリーズ? それ、圧倒的不人気だぞ」
食品サンプル系のカプセルトイは数多し。
さりとて、キーホルダーやマグネットでもない。食品サンプルのディティールにこだわってサイズダウンしただけ。用途不明の文字通り置物と化したブツ――
「一日一個、減るかどうかの代物だ。在庫が余りまくって仕方がない」
倉庫スペースを無駄にひっ迫している厄介連中の一角だ。
撤去、せめて送り返してやりたいが、あーだこーだ理由を付けて拒否され続けていた。
まさか、本社営業部長への高額接待やワイロが原因ではあるまい? 証拠集め、してるからな!
「カゲヒロ、ホントトーシローネ。ガイコクジンノオミヤゲニ、トッテモウケマスヨ」
やれやれと肩をすくめた、マイケル。流石、半分アメリカ人。オーバーリアクションが似合っている。
「日本にはまだ忍者がいて、相撲レスラーと侍が富士山でテンプーラしてるからな」
「ハハハ、ワライトバセナイトハコノコトヤ」
笑いながら言うんじゃない。どっちなんだいっ。
間違った日本のイメージはさておき、マイケルのガチャを見守ろう。
――ガラガラポン、と。
筐体のハンドルを回して現れるは、赤いカプセル。
「アジの開きだな」
脂が乗った、パリッと焼き目が付いた皮。ふっくらとした身が美味しそう。
つい本物と騙されそう。景品を口に入れないでください。クレーム対応が面倒そう。
「ツギイクデ」
「ホッケ。レア度1」
「ボチボチデンナー」
「スルメイカ。レア度2」
マイケルが絶叫するも、挫けず意地のガチャ続投。
ついぞサンマの天日干し二連チャンで、膝をついてしまう。
「オーマイゴッドッ! ゼンブモッテルヤツ。コノミセ、カクリツイジッテヤガル!」
「ガチャポンは遠隔操作できないんだよなあ……基本的に」
できないわけじゃない。否、当店はそんな細工していませんが。
干物シリーズのパッケージ品がほとんど排出されたようだ。一体、何が欲しいんだ?
「シシャモノオコサマセット」
「子持ちシシャモかっ。まあ、シークレットなんですけどね」
干物シリーズで唯一、俺もちょっとだけ欲しい。目下、悪徳タヌキに全集中だなも。
マイケルは息を荒げながら立ち上がり、天に掲げた指先にキラリと輝く五百円。
「もうよせ! 止めろ、マイケル!」
「ハアハア……ワイハ……ワイハミセタルデ……ナニワノドコンジョウヲッ!」
見栄か意地か。はたして、何が彼をここまで駆り立てたのか――
それでも、俺は叫ばずにはいられなかった!
「お前っ、埼玉生まれの村育ちだろうがぁぁあああーーっっ!」
そして、東秩父村である。
「ビックリしたぁ~。カタコトな外人キャラは好きにしろだけど、出身地まで偽るんじゃない。マイケルは海外未経験でしょうが。パスポート持ってんのか!?」
「イワナイオヤクソク。コッチノホウガウケルンダナコレガ」
外人顔のハーフあるあるらしい。知らんよ。
事実は小説より奇なり? 否、現実は小説より偽りなり。
フィクションより嘘が多いの、勘弁してくれ。リアリティーと書いて虚飾と読め。
「モウヒトコエ、モウヒトコエイッテマエ」
陽気な金髪アロハが、再びガチャの誘惑へ誘われたタイミング。
「それ、当たりは出ないわよ?」
「ナニヤツッ!」
突然生意気ボイスを投げかけられ、マイケルが振り返った。
見当しかつかない俺も一応、視線を向けた。
壁面に設置された筐体に寄りかかるは、後方腕組伝説のガチャポン荒らし面。
「天羽。休憩室で静かに待ってなさい。いや、ここにいても退屈だし帰ろう!」
「あんたは黙ってて。家来でしょ」
「御意」
ムキになる必要ナッシング。平常心、平常心。
ロリが売場へ出たならば、俺は安息地へ引っ込めばいい。じゃあの。
しかし、腕を掴まれた! 助けて、この人痴漢ですっ。
「おじさん、大人しくできないわけ? ほんとに大人なの?」
「……」
イライライライライライライラ――っ!
フ、仕方がない。見届けようじゃないか、始末はそれからでも遅くない。
舐めプの音無、いざ慢心の時。
「プリティーガール、オトナノセカイナメルンジャナイノーネ」
「あら、おじさんの仲間? 一派だと思って、せっかく親切で忠告してあげたのよ」
「カゲヒロハココロノトモトヨビヤガレ」
「友達じゃない。俺は群れないし、グループに入っても秒で弾かれるぜ」
即答である。
グイグイ系友好の権化は、知り合いなら全員マブダチとか言っちゃうタイプ。親しみハラスメントはやめてもろて。
「ハハーン。シャイボーイ、カワイイゼヨ」
「うるさいぜよ」
金髪アロハがうんうんと頷き、俺はううんと首を振った。平行線ってホライゾン!
「コムスメ、ワイノカンキノシュンカン! イザ、オタチアイ!」
「いいわ、見せてもらいましょうか。ノリで生きて、悲惨な末路を辿る瞬間を」
天羽がフンと鼻で笑った。
しかし、勝算はけっして低くない。マイケルはすでに九連回している。その間に子持ちシシャモが出なかった。ワンセットにシークレットは二、三個封入。干物シリーズを久しく補充していないゆえ、いい加減勝ち申せる可能性高し。
刹那の逡巡を振り払って、運命のハンドルが動き出す。
……はい、青カプセルでした。
「ノォォ~~!? アンビリィィバボォォ――ッッ!?」
サンマの天日干し三連チャンをキメたマイケルが、真っ白に燃え尽きていく。
ここはリングじゃないので、脚立に座り込むな。他のお客に迷惑だぞ。
「呆れた。人の善意を粗末にするからこうなったの。己の浅慮を悔い改めなさい」
「ロリが楽しそうで何よりです。人の不幸はハニーテイストかい?」
「不味いに決まってるでしょ、ロリコンがニヤケ面でガン見してるもの」
天羽が眉根を寄せ、俺の代わりに一列に並んだガチャマシンを睨んでいく。
「何してんだ? 筐体が汚れてるって新手のクレーマー活動?」
一日三回程度、売場の清掃は面倒だけど行っている。自分、客ほど信用できない者はなし。ところでフラペチーノを床にぶちまけた奴、怒るから出てきなさい。カァーッ!
「……」
「無視かい。いや、大丈夫っ。俺、休憩室戻るから」
「――ビビッときたわ。これよ」
バックヤードへ帰巣本能昂ったものの、伝説のガチャポン荒らしが真価を発揮する。
指さしたガチャマシンは何かしら。残業アニマルシリーズならば速攻で引くのだが。
「あぁ、盆栽シリーズね。ミニチュアサイズのガチ盆栽が入ってるやつ」
「盆栽ってお爺ちゃんの趣味でしょ。あんたも嗜んでるわけ?」
「ふぉっふぉっふぉ、クソガキや。ワシはまだまだ現役じゃぞ? 隠居したいし、FIREもしたいのぅ~。夢は無限大に広がるのじゃ!」
経済的自立と早期退職。そのために、毎年年末ジャンボ買おうと思います。
女子小学生の冷たい眼差しに晒された。人の夢をどうして笑うんだい?
「案外、バカにできる趣味じゃない。年寄りくさいイメージだけど、マイスターが手掛けたブツは数百万の値が付くときたもんだ。それ以上に、一人で完結できる点が最高」
「園芸家に転職して匠の技を披露するのかしら? それこそお笑い種だわ」
ソロフェッショナル・孤高の盆栽職人、ぼっちの流儀。乞うご期待。
十年後の未来予想図が完成したところで、俺は肥料寸前の廃人を起こしてやる。
「マイケル。こっちもコレクションしてただろ。シークレット、出るらしいぞ」
「少し、そっとしておいてくれ……僕は今、眠りたい気分なんだ……」
弱り切ったイケメンの一枚絵、嫌いじゃないわ。
「おい、カタコト外人キャラはどうした!? ハーフの個性、死んじゃうって」
「はは、は」
そして、意気消沈である。
自分勝手に始めたキャラでしょうに。最後まで貫きたまえ。
「お前が引かないなら、こちらで回していいんだな? シークレットはメルカリ価格で五千円。今月、食費がピンチなんだ。朝食が三日連続でパンの耳はいやーきつっす」
「趣味の無駄遣いが原因でしょ。パンがなければ、ケーキを食べたらいいんじゃない?」
「ギロチンぞ?」
流言の類が多かったマリーアントワネットさんはそんなこと語ってないだろうが、暴言の類が多かったキララアマバネットは確かに語った。言質あり。
否、ガチャポンの森店長としてカプセルトイの転売など絶対に手を染めんっ。
え、一個一万円出す? 検討するかどうか協議するために一旦持ち帰ります!
「盆栽シリーズは昔、祖父と一緒に初めて回したガチャガチャ……懐かしいよ」
「思い出を語るな。マイケル、お前消えるのか?」
忘れるな、この場から真っ先に消えたいのは音無景弘だぜ。おうち帰りたい。
「ねぇ、茶番はどうでもいいから。引くの、引かないの? あんたの前にチャンスが転がってるわけ。無様に後ろ髪を引っ張る姿を見せてちょうだいな」
辛辣さに定評がある女子小学生のリアリストっぷり。この場で一番大人だった。
「引くさ……っ! そこに運命があるならば、僕は飛び込もう!」
疲労困ぱいの表情。歯を食いしばり、それでもと彼は声を荒げた。
震える腕を押さえつけ、手を伸ばす。緊張の一瞬。
――ガラガラポン、と。
キャラ崩壊した似非外人に与えられた慈悲は金色のカプセルだった。
「京松盆栽!? まさか、本当に出るなんてっ!」
生命の息吹感じるご立派な松。コンパクトサイズでもその荘厳さは失われない。
放心状態のマイケルにかける言葉が見つからなかった。だって、俺コミュ障じゃん。
そもそも積極的に喋りかける理由など皆無。自分、不器用なんで。
天羽がドヤ顔を披露中。すげーよ、小癪な生意気幼女は。
結崎に二人の相手を押し付けようと画策したタイミング。
「ワビサビネ……っ!」
「え、わさびあり? 寿司、そば、ステーキ。全部使うよな」
「抜きに決まってるでしょ。余計なもの入れないで」
まだ、お子様ランチでワクワクするお年ロリか。可愛いですね。
「ボンサイハニホンノココロ。タマシイコモッテマァース」
すっかり調子を取り戻した、外国人ツアーガイド。日本に帰化しません!
日本生まれ日本育ちの金髪アロハが女子小学生の手を取った。
「事案か?」
しかし、マイケルはイケメンゆえお触り事案にあらず。滅ぶべし、ルッキズム。
「触らないでくれる、下郎? おじさんだったら、訴えていたわ」
「公平かと思えば、実質不平等扱いじゃん。これが、但しイケメンに限る、か」
彼はガールフレンドがわんさかいるらしい。へー、大変だねー。
「ワイノハートハオヌシニスクワレタ! シショウトヨバセヤガレッ」
「嫌よ」
「ソコヲナントカ!」
「無理ね」
「モウヒトコエッ」
何を値切るつもりだ、この野郎は。お値段もハーフにしたいのかな。
「おじさん、この珍妙な人を追い払って。八つ裂きにしなさい」
「過剰防衛がすぎる!」
天羽が闘牛よろしく興奮気味に、編み込みブーツで床を蹴り始めた。
売場を血で汚してくれるな。掃除するの、俺なんだよなあ。赤マントを準備しておらず、マタドールを避難させる方向でアジャスト。
「お客さん、未成年にお触りは困りますよ。うち、そーゆー店じゃないんで他所でやってください」
「オウ、ソーリー。カゲヒロノコレネ? ヌケガケ、スマヘーン」
「ちげぇよ! 納得顔で小指を立てるな!」
「極めて不愉快な扱いね。その盆栽、あたしが剪定してあげるわ」
さりとて、マタドールが暴走ロリータをひらりと避けた。
「ココロノトモニアドバイスシマァース。ジドウポルノ、アカーンッ!」
「オメーの勘違いがアカンやろ」
「ハハ、キニスンナ。ジンセイイロイロ、セイヘキエロエロ」
子供は最も忌避すべき対象だ。それ以上でもそれ以下でもないのである。
しかし、勘違い系イケメンが俺の理解者面を披露すれば。
「トモダチナラアタリマエ。バイバイキーン」
そう言い残すや、満足そうに店を後にするのであった。
…………
……
「二度と来るなッ」
でも、外国人観光客は斡旋してね! 売上、助かってるぞ。
「常連客を一人、失ってしまった……」
心中、実に空虚な穴がぽっかりと――開かなかった。特に喪失感ないです。
「何者よ、あのちゃらんぽらんは?」
「俺にも分からん。愉快な奴さ、友好関係は勘弁被るけど」
「あんたの同類でしょ。責任持って管理してちょうだい」
「全く別カテゴリーの人種だろ」
友達が多くて人生を謳歌している彼と、おひとり様で密かに楽しむ俺。
世間一般では、音無景弘は一人ぼっちで孤独な人生を過ごす可哀そうな人。
余計なお世話である。個人の生き方に同情フィルター張り付けてくれるなっての。
俺は、やれやれとおちゃらけハーフよろしく肩をすくめるばかり。
帰ろう。安息の地へ。
休憩室で何もしないをするため、俺は大手を振って闊歩していった。
「先輩ぃ~、お客さんが忘れ物したんで届けてきますね! 店頭で呼び込み、よろしくでぇ~す」
「ちょ、待っ」
全力で止めるべきバイト君はすでに遥か彼方へ。テキパキ動きやがって、働き者かよ。
「ニコニコと媚びへつらいなさいよ。それが役目でしょ、店長さん?」
ニチャアとあざけた笑みを覗かせた、クソガキ。
「あたしは怪しい奴がいないか、モニタリングしておくわ。もちろん、おじさん以外にいればの話だけど」
「それこそ、店長の仕事! さてはこの店舗、乗っ取るつもりかっ」
ぜひ、お願いします! あ、やべ。つい本音が。
「この責任者で大丈夫かしら? よく潰れず回ってるわね」
流石の天羽も同情を禁じえず、首を傾げながら引っ込んでいった。
「……責任者は誰でもいいのさ。週七出勤。サビ残ありに慣れるだけの簡単なお仕事」
もちろん、求人票に一切記載されない募集要項。まさしく、シークレット!
偶然だろうか、看板娘の不在で目に見えて売場の活気が落ちていた。
「結崎は客寄せパンダだった……?」
看板だのパンダだの忙しい奴だなあ。
やはり、俺は黒子としてバックヤードに控えるのが適任だと思いました。
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