タイトル未定

第2話

　三城はその軽薄な態度に疑念を抱かずにはいられなかった。

「おまえ、誰なんだよ？何者だ？」

　男はニヤリと笑いながら、首元のチェーンを指で弄ぶ。

「俺の名前は畢木灰里（ひつぎ はいり）。で、どうすんだよ。そろそろ現実受け入れるか？」

　三城は眉をひそめながら視線を彷徨わせる。

「……そんなわけあるか。まずは家に戻って確認する。何かの誤解かもしれないだろ？」

　灰里は軽く肩を震わせ、呆れたように鼻を鳴らした。

「いやいや、だから言ってんだろ。おっさん、さっさと成仏でもしたら？」

「……っ！」

　その一言に、三城の感情が一気に爆発した。握りしめた拳が震える。

「ふざけるな！俺はまだ生きてる！そんな勝手なこと言うな！」

　灰里は反応を楽しむように、わざとらしく口笛を吹きながら応じる。

「おー、怖ぇな。ま、そんだけ元気なら確かめに行くくらいはできんだろ？」

　三城は振り返り、荒い息を整えながら灰里に食ってかかる。

「おまえ、付き合うって言ったよな？だったらついてこい」

　三城が自分の言葉に勢いを込めて歩き出すと、灰里は短く鼻で笑った。

「おいおい、ずいぶん威勢がいいじゃねぇか」

　そう言いながらも、灰里は悠々とした足取りで三城の横に並び、わざと一歩先に出るように歩き始める。

「勘違いすんなよ？ついていくんじゃなくて、お前の世話をしてやってんの。ほら、さっさと行き先言えよ」

　三城は一瞬言葉に詰まりつつも、自分が押し負けたくないとばかりに前を向いたまま早足になる。

「……俺の家だ。自分のことくらい、ちゃんと確かめる」

　灰里は肩をすくめて冷笑を浮かべる。

「いいぜ、好きにしろよ。けど、その家が今どうなってるか、見てみて笑っちゃうかもな」

　三城の不安をわざと煽るような言葉を投げかけながらも、彼の前を歩き続ける灰里。どちらがリードしているのか微妙な攻防が続く中、二人は無言のまま目的地へと向かっていった。

「で、お前ん家ってどの辺？」

「……もう少し歩いた先だ」

　短いやり取りの後、再び二人は無言で歩き出した。住宅街の路地に入るまでに3駅ほどの距離を進む間、灰里は何度か軽口を叩いてきた。

「電車使えよ、効率悪いなぁ」

　三城は反論する気力もなく、そのたびに無視を決め込んだ。やがて、ようやく目的の建物が見えてきた。

「ここだ」

　止まって振り返った三城を見て、灰里は口角を上げる。

「おっ、意外といいとこ住んでんじゃん。酒ばっかり飲んでる酔っ払いにしてはな」

　三城は眉を寄せ、低い声で短く応じた。

「黙れ」

　その一言に含まれる苛立ちに灰里は満足したのか、にやりと笑うだけでそれ以上言葉を重ねなかった。

　二人はその場に立ち止まり、建物の全体を見上げる。三城の中では期待と不安が交錯していた。玄関に鍵がかかっているのか、誰かが家の中にいるのか、何か異変があるのか――考えがまとまらないまま、彼は足を踏み出した。