タイトル未定
斎宮現夢
第1章
第1話
夜明けの光がぼんやりと辺りを照らす。空気はひんやりとしており、草の匂いと朝露の冷たさが感じられる中、
頭を押さえながら、三城は目を細めて辺りを見回す。どこか見たことのある風景に戸惑いながら、昨夜の記憶を一つずつ思い出そうとする。確か自宅で酒をあおり、そのまま意識を失ったはずだ。しかし、今目の前に広がっているのは自宅やアパートの外ではなく、公園の芝生と高層ビル群だった。
「……どこだ、ここ……?」
ふらつく足で立ち上がろうとするが、体が妙に軽く、しかし頭はずんと重い。その奇妙な感覚に戸惑う中、背後から突然声が聞こえてきた。
「皇居外苑だけど?」
唐突な声に驚き、三城は尻もちをついた。
振り返ると、そこには黒いパーカーにチェーン、派手なピアスをつけた男が一人立っていた。ひょろりとして幽霊のように肌が白い男は、不機嫌そうな表情で三城を見下ろしている。
「せっかく教えてやってんのに、失礼じゃねえの?」
「……あなたは誰ですか?」
三城が尋ねると、男は肩をすくめながらにべもなく答えた。
「俺が聞きたいわ。朝っぱらからこんなとこで寝てるとか、正気か?」
三城は「面倒な奴に絡まれたな」と内心舌打ちしつつ、頭の中で状況を整理しようとした。しかし、その矢先、視線の先を通り過ぎる警備員に気づき、助けを求めようと声を張る。
「すみません、ちょっと――」
だが、警備員はまるで三城の存在が見えていないかのように、無言のまま通り過ぎていった。
「……おい、俺がここにいるの、見えてるよな?」
混乱したまま周囲を見回すが、他の通行人たちも同様に三城に一切注意を払わず、それどころか目すら合わせない。その様子を横目に、男はククッと笑みを漏らす。
「おいおい、どうした? 酔いでも残ってんのか? 面白い反応してんな。」
三城は困惑を隠せず、その場に立ち尽くした。
「……なんなんだよ、これ……?」
「朝から寝てるような酔っ払いに、誰が関わりたがるかって話だろ」
男の言葉に、三城は「お前にだけは言われたくない」と内心思いつつも、言い返す余裕がない。それにしても、警備員まで無視するだろうか? 三城の頭の中で不安と疑念が渦巻く。
男はその様子を面白がって笑いながら、ふいに三城の腕を掴んだ。その瞬間、彼は軽く眉を上げた。
「……あー、なるほどな。お前、生きてる?」
「何を言ってるんだ?」
三城は警戒しつつ聞き返す。男は声色を変えず、淡々と言葉を続けた。
「いつ死んだのって聞いてんだけど?」
「はぁ!? 冗談言ってんじゃ――」
「いやいや、冗談でもなんでもねぇよ。触った感じが普通じゃない。それに、さっきから誰もお前に気づいてねぇだろ?」
三城は自分の手を見下ろした。形はあるが、目覚めた時からどこかおかしい気がしていた。そして、恐る恐る近くの植え込みに手を伸ばす。木の枝に触れた感触があり目の前で揺れているのに、不自然に枝を貫通していた。
「……嘘だろ……」
三城が震える声で呟くと、男は肩をすくめて言った。
「嘘でもなんでもねぇよ。現実だ。お前、立派な幽霊だ」
三城は何度も首を振り、信じられないという表情で声を荒げる。
「そんなわけ――そんなわけあるか!」
その様子を見て、男は興味深げに三城を観察しながら言う。
「まぁ、幽霊のくせに自覚がねぇとか、面白いけどな。つーか、幽霊になったらさ、誰にも気づかれないんだぜ。ずーっと無視されて、独りぼっちで――」
「やめろっ!」
煽りを受け、三城は完全にパニックに陥り、涙声で叫ぶ。
「俺は死んでない……絶対に何かの間違いだ……頼む……助けてくれよ……」
その様子を見て、男はため息をつき、投げやりな口調で言った。
「ったく、面倒くせぇ。わかったよ。俺がちょっと付き合ってやるよ、な」
「……ほんとか?」
「ただし、俺の気が向いた時だけな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます