第6話 空から降ってきた……

 モアはバレることなく授業をこなし昼休みになる。そして俺達は図書室にやって来た。図書室に有るかもしれない!

 しかし、隈なく探し司書の先生に尋ねても黒革張りの禁書は出てこない。


 放課後も校庭を三人で彷徨さまようが、一向に見つからない。日も暮れはじめ、焦りが出てきたその時。クラスの親友で野球部の武田が、息を切らし嬉しそうな顔でやって来た。


「おーい! 何してんだ? まさか、お前も探してるのか?」


 武田はモア……麻衣の姿を見ると、慌てて俺の肩に腕を回し、少し離れて彼女に背を向ける。


「何のことだよ?」

「知らないのか? 昨日空からエロ本が降って来て、野球部で騒ぎになったんだよ」

「「エロ本!?」」


 俺は頓狂とんきょうな声を上げるが、武田に制される。

 武田。君には見えないが、半透明の麻衣が隣で堂々と聞いてるんすわ。


「変なんだよ。いちゃラブとか、なんとかプレスとか。とにかく変わった言葉」


 麻衣が静かに復唱する。


「いちゃラブ? 何とかプレス?」


 それを聞いたモアが慌てだした。


「平成にそれは早すぎる!」


 こいつモア何か知ってるな? 武田は嬉しそうに話を続ける。


「あとボロい日記帳も一緒に落ちて来たけど、それは文字がヘタで読めないらしい」


 へぇ……空からエロ本とボロい日記帳。


「明日の放課後三年だけでこっそり見ることになって!!」


 心は行きたいと叫んでいる。麻衣が冷たい目で見ている以上、紳士の振る舞いをしなくてはならない。


「すまん。明日は麻衣に勉強教えてもらう事になってて」

「ああ……だよな。お前中間マジで悪かったからな」


 彼は心から可哀そうという目で俺を見た。やめれ! 本当に悲しくなってくる!! お前ら真面目に練習しろ!!


「分かった。明後日あさって、感想言うよ。じゃーな!」


 俺は笑顔で武田を見送ると、ゆっくりと振り向きモアを見る。彼は目を泳がせ「空、綺麗だなぁ」とか、終いには北風か隙間風のような口笛を吹いた。


「もしかしてお前、エロ本も持って来たり……」

「よかった~スマホやSNSが普及してない時代で!!!はっは~」


 もってきやがったな? しらん横文字を並べて誤魔化すな! 麻衣もモアに尋ねる。


「まさか、モアの趣味?」

「僕のじゃないよ! あれ、父さんが隠してたやつを、あっ……」


 ひでぇ! 親父さんの秘密を! 同情するッッ!


「とにかく禁書のヒントがあって良かった!野球部の部室ね」

「ああ、いかがわしい本を青少年に見せる訳にはいかない! 親父さんの為にも、あいつらには悪いが、今日の夜奪いに行くぞ!」

「賛成」

「お、お~う!」


 禁書奪還作戦を今晩決行する!

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