第5話 禁書を探せ!

1999年6月29日・火曜日


 俺は寝不足だ。


 昨日の夕食後、麻衣とモアは麻衣の家に帰った。そんな二人の事が気になって、気になって! 眠れなかった。中学生がポケベルなんて持っていない、なので様子を聞くことも出来なかった。家を出るとモアと麻衣が居た。ただ違和感が一つ。


「髪型違くないか?」

「よく気が付いたわね? モアは三つ編みに慣れてないから」


 いつもは三つ編みをしている麻衣だが。シンプルなおさげになっていた。


「昨日はその……何も無かったんだろうな?」

「何も無いわよ、いろいろ話して楽しかったわ 」

「うん! 色々聞いちゃった!」

「「ねー!」」


 なんか、昨日より仲良くなってないか? まるで姉妹のようだ。

 俺達は学校へ向かい歩く。チラリとモアを見ると、モアも上目づかいに俺を見た。


「直樹。僕、学校のこと分からないから教えてね?」

「お、おう」


 不本意にも可愛いと思ってしまう。新しい扉を開きそうだ。


 校門をくぐるとモアの空気が変わった。麻衣から色々聞いたのだろう。しっかりと優等生を演じる。何なら本人に無い気品が溢れていた。

 だが廊下を歩いていると、彼は俺のシャツの脇腹辺りをきゅっと掴み、耳元で囁く。


「ごめん……トイレに行きたい」


 緊! 急! 事態だー!!


 それを聞いていた麻衣がモアに話す。


「私が案内するわ。来て」

「おい、そこにトイレが有るじゃないか?」

「あんな人が多い所、話しかけられたボロが出る。 さあ、行くわよ! 私が教室にも案内するから直樹は先に行ってて」


 二人は行ってしまった。俺の心は複雑だった。


(ああっ! このモヤモヤは何だ! いや、俺は紳士だ。出来る男だ! クールに! スマートに! )


 出来る男。俺は、先生方の打ち合わせが始まる前に、職員室へ向かった。


「失礼します! 坂本先生いますか?」

「おう、どうした?」

「昨日はすみませんでした。黒革張りの日記帳、落とし物で届いてませんか?」

「さっき落とし物ボックス見たが、日記は無かったぞ? 革張り……! 山崎これが有る!」


(え? あるの??)


 俺は拍子抜けする。先生は机の引き出しの中から箱を取り出し、それを開けた。その中にあったのは、新品の黒革の日記帳だ。


「先生、これって……」

「日記帳だよ。校長がくれたんだ。校長も人から貰って、使わないからってな。だが俺も日記帳はあるし……山崎、最近元気無がかったから、これやるよ。毎日つけるといいぞ?」


 ええ? 俺、日記つけないんだケド……


「ほら、校長に見つかる前に持ってけ。 落とし物は届いたら教えてやるから」


 先生は日記帳を俺に押し付けた。仕方なくそれを持って教室へ向かう。まだ人がまばらなクラスには、トイレから戻ってきた麻衣とモアがいた。


「落とし物で職員室には届いてなかったけど……」


 そっと、モアの前に置いた。彼はゆっくりと表紙を開き中を確認する。それを見て後ろから覗いていた麻衣がぼやいた。


「真っさらの新品が禁書な訳無いでしょ? あんたバカァ?」

「アスカかよ!」

「……え?」

「俺だって知ってるよ! もう! 昼休み探すぞ!!」


 俺は新品の日記帳を奪い取り、鞄に仕舞った。もっと優しくしてほしいものである。まぁ、あんな態度も俺にしか見せないからいいけど。


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