第7話 禁書奪還

 夕食を食べ終えた後、俺達は集合した。


「直樹、お待たせ」


 麻衣の声に振り向くと、そこには半透明の麻衣。そして白いワンピースを着てポーズをとるモアがいた。俺の時間が停止する。


 ……夏の軽井沢が似合いそうだ。


「遅くなってごめん、モアがこのワンピース着たいって聞かなくて。似合わないから捨てようと思ってたのに。笑わないでよね」


 珍しく麻衣が恥じらいを見せる。


「麻衣の体とはいえ、女の子を楽しみたいからさ」

「い、いいんじゃないか?」


(笑うわけねーだろ……似合ってるし)


 俺達は夜の学校に到着した。いつでも開いている校門をくぐり、野球部の部室に向かう。


「部室、どうやって入るのよ?」


 麻衣が怪訝な顔して聞いてきた。


「野球部の部室は壁に穴が空いているんだ」

「穴?」


 あそこは隣の道具室と貫通している。誰かが開けたのだろう。その穴は無造作にポスターや荷物で隠されているだけで、修理される気配も無かった。


「道具室の扉は蹴れば開くからな」

「蹴る!? モノを壊したり、派手な行動しないでよね?」


 これから忍び込んで怪盗の真似事をするのに。しかし、彼女はこの三年間優等生で居る努力を惜しまなかった。それが水の泡になろうものなら、一生ねちねち言われるだろう。うん!俺も困る!!


「OK!」


 この奪還作戦は簡単に終わるだろうと思っていた。だが……


「二人とも隠れろ」

「何かあったの?」


 俺達は木陰に隠れた。


「チャリがある」

「「え?」」


 部室の前には自転車が無造作に置いてある。学校指定のシルバーのママチャリで学校のステッカーが貼ってあった。


「我慢できずにフライングか」

「フライング?……私、姿が見えないから中を偵察してくるよ」


 半透明の姿に適応した麻衣が提案した。


「「え!?」」


 確かに偵察はありがた……いや。マズイ!


「ダメだ! やめろ!」

「麻衣!」


 止める間もなく麻衣はふわりと行ってしまった。何なら部室正面の壁に上半身だけを入れて中を確認する。その数秒後……


「きゃああああああああああ!」


 俺達は頭を抱えた。この声は中の部員たちにも聞こえただろうか……聞こえた! 

 部室の中が慌ただしい。中から扉を開けようとするが、扉に鍵が掛かっていることを忘れて居いる。すると道具室から生徒が三人飛び出して来た。


 だが都合が悪い事に、彼らの一人がくだんの本と禁書らしきものを手に持っているのだ。このまま持って帰られるのはマズイ!


「モア、許せ!!」

「え!? わあぁ!!」


 俺はモアの長い黒髪をわしゃわしゃと乱れさせ、オールバックならぬオールフロントに。そして木陰から一歩誘導して彼等から見える位置に立たせた。

 何が起きたか分かっていないモアは、ゆらゆらと怪しい動きをする。その姿は昨今話題のあの方を彷彿ほうふつとさせる。


(貞〇様!その恐怖、お借りします!! そして仕上げは俺の役目だ!!)


「お゛い゛て゛け゛ぇ゛ぇ゛……お゛い゛て゛け゛ぇ゛ぇ゛……!!!」


 ありったけのデスヴォイスで彼らを脅かした。


「「「ひぃ!ひいいいい!!」」」


 俺の画策通り、生徒は本をその場に置くと、自転車に乗り消えていった。


(気を付けて帰れよ。部室の戸締りは任せておけ)


 涙を浮かべ真っ青な顔をした麻衣が出てきた。


「大丈夫か!? 何か見たのか?」

「……部室にリ〇グのポスター張ってあった」

「何!? ポスターで驚いたのか?」

「そうよ! 私怖いの苦手なの知ってるでしょ!?」


 色々守られて良かった。 貞〇さまありがとう……


「直樹、禁書だ! それにエッ…例の本も回収した!」


 よし、やった! 何ならその例の本、後で俺に見せて欲しい!

 俺は壁穴を近くに置いてあった荷物で隠し、外れた道具室の扉を嵌め直しめた。


「よし! 戻るぞ!!」


 俺達も無事退散した。大成功である。

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