第3話 ネタバレ厳禁

 奇行を繰り返す麻衣の体と、半透明になった麻衣を連れて俺は自宅に帰った。

 夕飯をつくるお袋も、いつものように麻衣を迎え……


「麻衣ちゃん、いらっしゃい! そうだ! 今、麻衣ちゃんのお父さん達、例の2000年問題で大変なんでしょ? 良かったら夕飯も食べてって♡」


 などと言う始末。流行りの500mlペットボトルのジュースを2本渡されると。俺達は逃げ込むように自室に飛び込んだ。


「おばさんが気付かない……私、視えてないって事??」


 半透明の麻衣が放心気味に話せば。


「平成? 昭和? レトロ~。 エモっ!」


 エロ? 実体の麻衣が、全く訳の分からん事をつぶやく。 更には楽しそうに部屋見て質問をしてくる。


「これパソコン!?」

「テレビだよ」

「厚っ!?」


 ブラウン管テレビの真っ暗な画面に映る自身の顔を見ている。ウインクしたり怒ったり。


「あっ! 今、西暦何年!?」

「1999年の6月!あああ!! 二人とも、座ってくれ!」


 俺の言葉で正気に戻った二人は、小さなテーブルを囲む様に座る。ジュースを二人の麻衣に差し出した。


「まずは自己紹介だ。俺の名前は山崎直樹。君が入っている体は石井麻衣。君の名前は?」


 彼は名前を聞かれると真顔になった。視線を落し、テーブルの端に置いてあるエ〇ァのDVDを見つめている。


「アンゴル……庵野……庵野モア」


 俺と麻衣はコントの如く軽く脱力した。


「庵野モアって、偽名だろ? お前、行動が男じゃん」

「確かに男だけど……僕、未来から来たんだ」

「「未来ぃ!?」」

「そう! 2025年から来ました。庵野モア・14歳! ほら、僕の名前を教えたせいで未来が変わったら大変だろ? それに妖怪に真名と誕生日を明かすとロクなこと無いっていうし」


「失礼ね。妖怪じゃないんだけど!?」

「俺達真名明かしてるんですけど!?」


 彼は、俺達の突込みにも動じずニコニコしていた。麻衣が呆れる。


「まあいいわ。モアって呼ばせてもらうわ。何でモアは冷静なの?」


 確かにそうだ。知らない場所に急に来たなら、慌てふためくのがセオリーだろ。


「僕等の時代になると、タイムスリップぐらいじゃ驚かないよ」


 そうなの? 未来人!!


「異世界転移や転生でも驚かないかな? ラノベのテンプレだからね♪ 意識だけ過去に飛んだ系で、女の子の体に入ったんだね」


 俺と麻衣は頭を抱えた。未来の言葉は難解だ。麻衣が挙手して尋ねる。


「ごめん、わかりそうで分らない言葉が多いから、教えてもらえるかしら? 異世界転移? 転生? って何?」

「僕達の時代で流行っている漫画やライトノベルの題材だよ。主人公が異世界に生まれ変わったり、異世界に飛ばされたりして、冒険やスローライフをするっていう」


 なるほどなんとなく分った。スローライフという単語も出てきたが、もう無視しよう。永遠に終わらない。

 しかしモアは本名を隠す割に、未来の事ペラペラ話すじゃないか…… ん? 未来!?


「待ってくれ! モアが居ると言う事はつまり……恐怖の大王はやってこなかったのか!?」

「恐怖の大王?」

「そう、1999年の7月に隕石が落ちて人類が消滅するって予言が有るの。1999年に隕石降った?」

「ああ! ぜんぜん」


 その答えを聞いて、俺は床に倒れ込んだ。


 人類は滅びない。安堵と嬉しさの後に、使い切った貯金と受験を思い出し、涙が出そうになる。


「お……直樹、大丈夫?」

「心配しないで、喜んでるだけだから。直樹、良かったわね。来月もジャ〇プ読めるわよ?」

「ジャ〇プ? ああ、僕が生まれる前からあるもんね!」


 モアは近くに置いてあった先週号のジャ〇プを手に取ると、ページをめくった。


「すごい! ホントにこの時期から連載してたんだ!! たしか黄金期なんだっけ? あ、これ確か……」


「「ストップ!!」」


 俺と麻衣はモアの発言を止めた。俺達は目線を合わせて頷く。


「頼む! そこから先は言わないでくれ!!」

「今の私達は名作を読んでいる事だけは分かったわ。それにご長寿タイトルも有るのね。もうそれだけで十分!!」


「「漫画のネタバレは厳禁で!!」」


 久々に幼馴染と息が有ったなと。こいつが幼馴染で良かったと思った。

 俺達の早口と迫力に押され、モアはタジタジとしながら誓ってくれた。


「うん、漫画のネタバレ、言わない。ゼッタイ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る