第2話 恐怖の使者

 放課後、職員室で軽く絞られた。俺はジャ〇プを回収し、昇降口へと向かう。下駄箱の前には鬼……いや、目つきが厳しい麻衣まいがいた。


「悪かった、大丈夫。麻衣の名前は出してない」


 俺は両手を添え、頭を下げながらジャ〇プを差し出した。彼女はひったくるように奪い、コンマ1秒で鞄に仕舞う。


「当たり前でしょ! これで今週号読めなかったら、一生直樹なおきの事、恨んでやるんだから」


 だよな、読まずに逝けねえよ。だから俺も諦めない!


「なあ頼む! 明日貸してくれ!」

「はぁ? ゆっくり読みたいの! 木曜ならいいけど」

「木曜!?」


 今週の木曜日は7月1日。おいおい……大王来ちまうって!


「一生に一度の頼みだ! そこを何とか!!」

「人生何度目よ! 星にでも祈ってろ。 じゃあね、バイバイ」


 麻衣はプイっとそっぽを向いて靴を履き、出て行ってしまった。


(アー……希望が。分かったよ!祈ってやんよ!! これからの俺の人生バラ色になりますように! 可愛くて優しい彼女が出来ますように! 流れ星来いィィィ!)


 恨めしげに彼女を見ていたら、空が光った。同時に歩いていた麻衣が倒れる。


「麻衣!? 大丈夫か??」


 俺は上履きのまま麻衣に駆け寄り肩を叩く。彼女から小さなうめき声が漏れ、うっすらと瞼を開け呟く。


「あれ……ここ……」

「大丈夫か? 痛いとこや苦しいとこないか??」


「学ラン……ここ日本!? ……なあーんだ」

「は?」


 目覚めて、急にがっかりした麻衣に驚いた。彼女は上体を起し、辺りを見渡す。


「異世界転移じゃないの? って待って!? 柔らかい……女の子になってる!」


 訳の分からないワードを叫び、麻衣は自身の胸を揉み、襟元から中身を確認した。


「TSっ☆ TSっ☆ ――いや、本当にTSか? 僕の体なら太ももにホクロが」


 普段の彼女から180度かけ離れた行動にドン引きした。

 コイツ確実に頭打ったな。


「先生呼んでくるから。待って……てぇ!?」


 立ち上がり後ろを振り向くと、そこには半透明の麻衣が居た。目を見開きワナワナとしながら、訳の分からない言葉を話してはしゃぐ自身の体を見ていたが……俺とバチンと目が合った。


「止めて!! 直樹お願い! 私の体を止めて! ジ〇ンプでも少年エ〇スでもガ〇ガンでも何でも貸す!」


(なにぃ!? 少年エ〇ス? にガ〇ガン!? おまえそんなモノまで!)


「分かった、任せろ!」


 俺は、自身のスカートをたくし上げようとした麻衣の両手を押さえて止めた。


「どう! どう! ステイ!! それ以上はいけない」


 キョトンとして俺を見つめる麻衣の体は、間を置いて納得したように頷いた。


「あっ! いけない。僕としたことが……悪いんだけどさ、君の事教えて?」


 普段麻衣が見せないような満面の笑みで頼まれた。


(えっ? コイツこんなに可愛かったか?)


 トゥクン……


「ちょっと、二人とも! いつまでくっ付いてるのよ! 離れなさい!」


 ―――神よ、これが世紀末なのか?

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