第3話 美少女天使の実力は!…但し勘が鈍くて体力が無かった

【前回までのあらすじ】


俺、大学生の桂木優かつらぎゆうは、幼馴染みの美幸みゆきを、彼女の大学の先輩に寝取られてしまった。


傷心の俺の前に突如現れたお嬢様学校の制服を着た超絶美少女は、何故か俺に「空手の実力を見せろ」と迫ってくる。その短いスカートでどうするつもりなんだ!?


【俺のアパート近くの広場】


…見事なもんだ。

下段 半身はんみの彼女が音もなく俺の回りを移動している。

静かに円を描くように…あまりにも静かな動き…これじゃスカートが短くても中身は見えな…ごほんごほん。


「(この動き…昔、確かに親父が…)」


親父の隠し技…中国拳法。

…確かこれは…八卦掌はっけしょう

その流れるような体術に迂闊に飛び込んだものの末路は…。


あれはまだ小学生の頃、少年空手の全国大会で優勝して有頂天になっていた俺は、文字通り親父に打ちのめされた。

打ち込んでは投げ飛ばされ、打ち込んでは投げ飛ばされ、打ち込んでは…。


「(今、考えたら幼児虐待じゃね~か。何か思い出したら腹が立って来た。今度会ったら絶対親父を殴ったる!!)」


…なんてね…よそう…ど~考えても返り討ちにされちゃう可能性が大だ。

実際、親父の強さって謎だらけだ。

あの人の対人スキルの引出しってどこまで深いんだろう。


考えごとがバレたのだろう。目の前の美少女がプリプリと怒り出す。


少女「考えごととは余裕ね!掛かって来なさいよ!」


冗談じゃない!…あの時の親父よりもはるかに流暢な足の運び。

下手に突っかかった瞬間、ブッ飛ばされてしまうのは目に見えている。


俺は正中線せいちゅうせんを保持しつつ、自然体の構えで彼女を見据える。


少女「へえ~?…さすがね…桂木優!」


(正味20分…くらい経ったかな?)


…何か目の前の美少女が目に見えて疲労困憊になってきて、「…はあはあ」言い始めている。華奢な肩を震わせての荒い息…なんか扇情的で色っぽい…ごほごほごほごほ!


…しっかしこいつ…体力無いな。

いや…それ以上に…


「なあ…あんた」

少女「はあはあ…な、なによ…」

「あんた…もしかして…八卦掌しか出来ないんじゃね?」

少女「…はあはあ…」


八卦掌は基本、待ち技…返し技の武術。

…もしかして…こいつは自分からの攻撃技が無いのでは…


「…もう俺…逃げちゃって良いかな?」

少女「…はあはあ…さ、先に言っておくわ…私は50m走は…ジャスト12秒…」


それは遅いな!


少女「だからあなたが逃げたら…私は必殺技を出すしかない…」

「さ…参考までに…どんな?」

少女「…大声で泣きながら…追いすがるわ!」


…うん…それは確かに死ぬわ…俺が社会的に!!


「…なあ…あんた…何が望みなんだ?」

少女「だ…だから!さっさと掛かって来なさいよ!…はあはあはあ」


…あくまでも八卦掌に突っかかってこいと?

…めんどくさ!…こいつめんどくさ!!


「うん…もう良いや…」

少女「なに…その構え見たことない…本気なの!?」

「うん…今の俺に出来る最高の突き技」

少女「……」


大学生になってから、俺は師範と親父が勧める歌舞伎町のとある空手道場に通っている。


そこでは、誰も組み手なんかやってない。

みんなぶつぶつと瞑想しながらたま~にサンドバッグを殴ったり蹴ったりしている。


…その音の…凄まじいこと!!


一発の重みとスピードにこだわる空手。まさに一撃必殺の拳。

…だから、もう既存の形になんか、全くはまらない…超異端空手!


その威力は…飛び込み速度は!!


少女「は…早いっ!?」


俺は彼女の顔面に拳を!


…ピシュっ!…血しぶきが…飛び散って!!



「大変、申し訳ございません!!」

少女「もう絶対結婚よ!あんた一生責任取りなさいよ!!」


怒りにうち震える絶世の美少女を我がアパートに連れ込んで…俺は芸術的な土下座をかましていた。


…何でこうなったかって?


こいつ…俺の渾身の突きに対して…避けようと動きよった!

…わざわざ避けて打った…拳の方へ(汗)


…勘の鈍いやっちゃ…

まあ…あの突きに対して、ほんの少しでも動けたってのは…本当凄いんだけど。


おかげでほんの…ほんのちょっとだけ…拳が頬を掠めてしまって…


少女「劉家の総領姫の顔に傷を付けて…ただで済むとは思わないことね!」

「劉家の総領姫って…やっぱりあんた…劉秀美りゅうひでみおばさんの関係者か!」


少女「…ち、違いますわ…わ…私はただの通りすがりの…そう!…び…美少女仮面です!」


「あんた仮面なんかしてないじゃん!」

今、しっかりと『劉家の総領姫』だって言ってたよねっ!!


少女「細かいですわね…禿げ一直線ですわよ!」

「……」


こいつ本当にめんどくさいな!



「…この手だけは使いたくなかった」


少女「な…なによ…まさか部屋に連れ込んだ幼気な私を…襲うつもりなのですね…こ…この卑劣漢がっ!!」

「違うわ!!…大体…あんた自分からずかずか入って来たんだろうが!」


まあ…でも襲われる以上の衝撃かな?


「…今こそお見せしよう!これが…悪魔召喚だっ!!」

少女「そ…そんな、凌辱されてしまうわ!」


ピポピポパ~


「もしもし、親父?…今、未来から変身機能付きの人型最終兵器がやって来ててさ~。うんうん、待ってる。早くね。…あ!必ずか~さんと一緒に来てね!…必ずだよ!」


親父一人だと、早晩こいつ…空気感染で妊娠しちゃう…

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