第2話「死骸の場所」2
保険契約者リナ(ゴースト)から聞いた話ではそれ以上の有益な情報はなかった。ダンジョンで罠にかかって死に、死体がリアニメイトされたのを直観した。しかし誰がやったとか今どうなってるとかそういうことはわからない。
死霊術が使われたとなるとなかなか謎めいた状況だ。まだダンジョンの主の死霊術師がどこかに潜伏しているのか?
それとも、他の死霊術師がたまたま死骸を見つけたか?
調べないといけない。
聞くだけ聞いて、半透明に手を振る依頼人に見送られて俺はダンジョンを後にした。
ギルド支部に戻って調査を始める。まずはギルドの広大な書類保管室に潜る。
潜るというのは大げさではなく、地下4階から7階にかけて膨大な書類の山がある。中には国家の暗部や英雄とされる人物の現況もあるため常に警護、監視が敷かれ罠も多い。これこそギルドの中枢、入れるのは内勤スタッフだけだ。無許可で忍び込もうと思うと冗談抜きでそこらのダンジョンより危険性は高い。
とはいえ現役冒険者の書類は浅い個所にあるため、必要なものを集めるのは苦労しなかった。
自分のデスクで書類を広げる。
ロブさんはどこかに出かけていて部屋には俺一人だ。
***
パーティ登録票
パーティ名:天空の鷹 所属冒険者:シエロ リナ パーティリーダー:シエロ 信条:中立 結成年:779 特記事項:なし
冒険者登録票
名前:リナ 職種:僧侶/戦士 種族:人間 信条:秩序ー中立 信仰:黒羊 年齢:19 性別:女 登録年:779 出身:アスカヴィル国シトロ村 特記事項:なし
ギルド評価:3 ギルド備考:依頼任務4回達成。動く樹液討伐者。楽天的。乗馬スキルあり。指導神官コーバル師。お死骸回収保険契約者
冒険者登録票
名前:シエロ 職種:魔術師/盗賊 種族:人間 信条:混沌ー中立 信仰:記入なし 年齢:18 性別:女 登録年:779 出身:アスカヴィル国シトロ村 特記事項:なし
ギルド評価:3 ギルド備考:依頼任務4回達成。動く樹液討伐者。魔術は専門なし。魔術師匠シュタージ。保険契約なし、勧誘不可(クレーム有)
冒険届
パーティ:天空の鷹 申請日:780/10/4 冒険先:渓谷のダンジョン 依頼主:なし 冒険内容:探索 想定期間:数日 特記事項:なし
冒険報告:
***
リナのパーティがダンジョンに冒険に行ったのは780年の秋、つまり二年前。メンバーは二人、クレリック兼戦士のリナの他はシエロという盗賊兼魔術師がいたらしい。
最低限必要な職種は押さえている編成だが、やはりダンジョンに挑むのに二人というのは無謀だったのだろう。ギルド評価は活動期間や内容を元にだいたいの実力をギルドが評価したものだ。冒険者レベルと呼ぶものもいる。あくまで目安に過ぎないが依頼の割り振りなんかの参考になる。
3レベルは何度か仕事をこなし自信がついてくる頃だ。ようやく駆け出し期間が終わり中堅への道が見えてくる頃だが、死亡率は結構高いレベル帯でもある。実力よりも自信がつきすぎる傾向があるのだ。ほんの数回の経験をもとにあらゆる危険を評価し、軽視してしまう。俺からみたら一番危なっかしい連中。
ここで一度痛い目をみて生き延びれば自負と慎重さを併せ持った中堅冒険者に育つのだが、残念ながら天空の鷹はそうはならなかった。
それにしても天空の鷹て。冒険者になった新人が大仰な名前のパーティを作るのもままある話だが。
冒険届は出されていたが報告は未記入。還ってこれなかったのだから当然だ。
書類に一通り目を通すと、次にやることはまた書類集めだ。冒険届に記載があった日付あたりを重心的に、このダンジョンに潜った他の冒険者の冒険届を当たっていく。
軽視する冒険者も多いが、依頼と冒険届で蓄積されていく情報が冒険者ギルドを成り立たせている。俺も昔は単に無意味で面倒だと思っていたが、内勤になってまったく見方が変わった。
俺は時期的に一番近い冒険届を読む。
***
冒険届
パーティ:守護の樹 申請日:780/4/3 冒険先:渓谷のダンジョン 依頼主:なし 冒険内容:探索 想定期間:2日 特記事項:なし
冒険報告:行って、探索して、帰った。異常なし
冒険届
パーティ:キュラのチーム 申請日:781/2/1 冒険先:渓谷のダンジョン 依頼主:魔術協会死霊術課 冒険内容:探索 想定期間:3日 特記事項:なし
冒険報告:死霊術関係の書籍、器具、薬品、素材等の捜索と回収を依頼されダンジョンに。素材って死体の事? とても寒く移動中は毛布をかぶっていた。ダンジョン内を捜索、未発見と思われる隠し棚から魔術書2冊を回収。ダンジョン内でもどこから冷たい風が吹き込んでいて凍える。入り込んでいたらしい獣と戦闘、討伐。罠2か所を発見。地下三階に死霊の気配があったが回避した。アンデッドそのものと戦えとは言われていないからね。一応言い訳。一晩キャンプをして帰ったが、獣の肉はひどい匂いがした。冒険には香辛料が必要。以上
***
報告の書き方にも個性が出る。守護の樹は典型的な面倒くさがり、書くだけまだマシというタイプだ。本当の怠け者は冒険届をそもそも出さない。
キュラのチームは日記か何かと思っているようだが、情報がないよりはマシだ。うわついた新人冒険者がやりがちなこと。いずれ英雄になり自伝が世界中で読まれるとでも思って練習しているのだろう。
どちらのチームも死霊術師と遭遇していない。キュラのチームはリナゴーストの気配を感じたようだが遭遇を避けて逃げている。まあ俺でもそうする。
話を聞くならキュラのチームか。書類と違って冒険者は保管場所が決まっているわけでもない。受付に行って呼び出しをかけてもらうことにする。
出来れば遠出していないといいのだが。
「はい、私がキュラです」
面談室に入って来たキュラは緊張しているようだった。ハーフリングの女、詩人職。右目のあたりに鉤爪でやられたような大きな傷。
『仲間殺し』の調査部に呼び出されたのは初めてのようだった。多少緊張するのも仕方がない。とはいえ、受け答えははっきりしているし過度の敵意も見られない。
「去年の1月に渓谷のダンジョンに入っていますね」
なるべく安心させるように優しい口調で言ってみる。
「ええ」
「楽しそうに冒険してましたね」
冒険届を見ながら聞いてみる。
「……その頃は」
キュラは目をそらす。右目は見えていないようだ。
キュラの書類に目を下ろす。
冒険者登録票
名前:キュラ・シズ 職種:詩人 種族:ハーフリング 信条:中立ー中立 信仰:サーロー 年齢:22 性別:女 登録年:778 出身:アスカヴィル国フォッシュ 特記事項:蘇生1
ギルド評価:4 ギルド備考:依頼任務9回達成。ドラゴンゾンビ討伐で死亡。蘇生、半年療養。療養中にパーティ『キュラのチーム解散』、現在ソロ。
冒険者らしい経歴になっている。なるほど、冒険者は一年もすればどうしても変わる。今面談しているのは無邪気にはしゃいだ駆け出し冒険者ではないようだ。
「あのダンジョンで死霊の気配があったそうですね」
「ええ。仲間が探知呪文を使ったところアンデッドがいると……話し合って探索を切り上げました」
「賢明です。アンデッドは何体いましたか」
「一体だけだったはずです」
思い出すようにしながらキュラはこたえる。リナのゴーストだけしかいない、ということか。
死霊術師が戻って来たのならもっとアンデッドまみれにするはずでは?
「他に、何か見ませんでしたか。あるいは人の気配があったとか」
「いえ、私たちだけだったと思います。隠密が特異な盗賊とかならやり過ごせたかもしれませんけど」
当時の自分たちの実力もよくわかっているようだ。それは結構だが、いろいろ聞いてみたがそれ以上に参考になる答えはなかった。
キュラに礼を言って面談を打ち切る。
キュラは一礼して部屋を出ていく。今のギルド評価にふさわしく落ち着いた印象。
ようこそ中堅の世界へ。
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