第1話「密猟者たち」4
ギルド支部に戻り竜の卵の件を報告、報酬を受け取って帰宅。といっても冒険者の店の二階、一人部屋に戻るだけだ。
日が暮れた町で、騒々しいのは冒険者の店。
「ジロ、エールにするか?」
「いや、疲れた。まずは寝る」
馴染みの店主の声を横に階段を上がる。一階は酒場になっていて冒険者たちがエール、蒸留酒、ワインによくわからん東方の酒まであけている。見知ったやつが半分、知らないやつが半分。
「敵が増えたかもしれん」
思い出し、階段の上から店主に声をかける。
「どんなやつだ」
「シデオラという女だ。前衛職」
「了解。見かけたら教えるよ。そいつにはジロのことは言わん。お前らも余計なことを言うなよ!」
店主が店の連中に叫ぶ。おう! という威勢のいい声が返ってくるがどれだけのやつがちゃんと聞いていたのか。
見下ろすと最初に見た時よりずいぶん店主の髪が白くなっている。俺が初めてこの店に入った駆け出しのころは引退したばかり、店主も四十過ぎだったか。
階段を昇りきって奥の小部屋に。中堅用の狭いがこざっぱりした部屋。天上は屋根に沿って斜めになっている。ベッドの他、調度品は鉢植えが二つにランプ、簡単な警戒魔法がかかった据え付けの金庫。
冒険者はまず冒険者の店の世話になる。そのうち余裕ができたらパーティや気の合う仲間で家を借りたりする。
俺も長いことパーティの仲間と住んでいた。
一人で住むにはその家は大きすぎ、こうやってまた冒険者の店に戻って来た。
俺は装備を外し、報酬を金庫にしまうとベッドに横になる。
嫌な仕事をした後に、一緒に飲める仲間はもういない。
仲間殺しも何もかも俺の中に沈めてしまうしかない。
経験上、何度か夢に見れば落ち着くはずだ。別に悪夢とは思わない。冒険者を手にかけた、同じシーンが何度か夢で再現されるだけ。
なんてことはない。一度できたことは何度でもできる。
床からは一階の酒場の喧噪が聞こえてくる。内容は聞き取れないが、冒険者たちの話なんて聞かなくてもわかる。
次の仕事の話、あと一歩で手に入れられた財宝の話、いずれ手に入れる栄光の話、英雄になった誰かについての噂話。そして果てしなく繰り返される乾杯。
店主は毎晩こんなたわごとを聞かされてよく平気なものだ。だが、退屈はしなそうだ。
俺も引退したら冒険者の店をやるのも悪くないかもしれない。
冒険者たちのたわごとを聞きながら今夜も眠りに落ちる。
第1話「密猟者たち」了
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