第13話

智と二人暮らししているお陰で料理のレパートリーが増えていた。矢野は、それ程料理に拘りはない。基本的に好き嫌いはなく、出されたものは何でも食べた。ただ一つすいかだけが苦手である。水っぽい所がどうも合わない。

智の好物はとろろ飯である。疲れて機嫌が悪い時はこれを出しておけば間違いはない。他にがめ煮やモツ鍋など博多料理を出して、気持ちを宥めた。

「俺が此処にいるからあさみと会えないんじゃないのか?」

矢野はがめ煮と味噌汁、鯖の塩焼きを並べながら言った。

「あさみとは学校や外で会えばいいし、一色の飯も悪くないしな」

智は機嫌が良い。

「高尾山登るのが楽しみでさ…… もうその為に仕事しているようなものだよ」

「25日だろう?俺も楽しみだよ」

「俺は女の為に男の約束を反故にするような奴を友とは見なさない!」

矢野は味噌汁を飲んでいる。

「撮影の方はどうだ?」

「周りは大人ばっかりで、どうなるかと思っていたけど、色々声かけて貰ってよくして貰っているよ」

「江見慎太郎ってどんな感じだ?」

来年の大河ドラマの主人公、柳沢吉保を演じるのが江見慎太郎である。

「俺なんて本来なら顔も上げられない方だよ。その人が俺に声を掛けて下さった。一色、そのままでいい。今のままでいいってな」

「やっぱ凄いなお前、俺なんて一生共演する事もないと思うし」

智はご飯をかきこんでいる。

「俺だってびっくりだよ……!」

矢野はがめ煮を食べている。

「俺は矢野一色は他の奴とは違うと、思っているんだ」

「智」

「お前見てるとな…… 自分がエラく薄っぺらい気がする。だからお前の事あれこれ言う奴もいるだろう。それを認めるのは俺みたいに人間が出来てなきゃあな」

矢野は思わず笑い出した。

「俺は西野智こそ只者じゃないと思うよ」

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