第12話

「そうか…… これからテレビの収録なのか」

時刻は既に午後9時である。

「うん、今スタンバイ待ちの所、いっちゃんは何してるの?」

「練習終わって帰る所だよ」

「そっか、撮影も近いものね。頑張ってね。いっちゃん」

「真凜もあまり無理するなよ。身体気をつけ

て」

「うん。電話じゃなくて会いたいな…… 」

真凜は涙を浮かべている。

矢野はそれを敏感に感じ取っていた。

何故なら声が湿っている。

「俺も会いたいよ。真凜」

「嬉しい…… 本当に?」

「ああ。もちろん」

矢野は力を込めた。

その時、電話の向こうで声が聞こえた。

「ごめんね。いっちゃん。もう行かないと」

「頑張れ、真凜」

「うん」

真凜は電話を切った。

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