第10話 青森地方裁判所

 本日は閉鎖法廷になる。審議は俺不在でも、地検のゴリゴリのスケジュールで第35事案審議迄進んだらしい。数はこなすが、F71BJが謎の機体だけに、事実認定位だろうと察するしかなかった。成り行きが微妙では、正直不安しかない。


 イマージュ三沢店駐車場不時着事件は、脅威の速さで1ヶ月で状況回収し、即日結審で青森地方裁判所の特別法廷で行われる。

 これは、内閣は安全保障上の遅滞を解消すべく、F71BJを早期に運用すべきとの、三権分立でもゴリ押しによるものだ。そうとは言え、一発勝負の即日結審なので、裏目に出る事も十分有り得る。

 唯一の救いはクローズドの法廷につき、陪審員が選出されない。この未来になっても無作為の陪審員選出の為、一般人ではとてもテクニカルなリレーション表を読み取れないを考慮している。

 そうなると、海上保安庁が一罰百戒で何処まで噛み付いて、防衛省に楔を打つかが焦点になる。法廷に立つのは、海上保安庁弁務官高碕信太朗。何かと、防衛省が不手際を起こすと、マスコミ対策で表に出てくるスポークスマンだ。口だけかと思ったが、この法廷に出てくると言う事は、花も実もあると言うことらしい。

 ただ読めないのが、やたらフィールドワークに出ている青森地検の、直江重定検察官と佐竹晴香検察事務官の二人だ。取り調べはニュートラルだが、仕様書は全て読み取り、探せば荒の出る三沢市全域の見聞を漏れなく行っている。今日の法廷の開催が早いと言う事は、きっと何かを掴んでいる。

 ただ、防衛省付きの弁護士澁澤鳴海も只者では無い。ちゃんちゃらおかしい、安全保障上の高い壁が有るのに、逆に何処まで踏み越えて来れるか、お手並み拝見ですよ。本当にただ勇ましい。


 クローズドとは言え、冒頭手続から入り、被告人俺南小路孝信の確認がされる。

 そして、直江重定検察官が起訴状を読み上げる。一連の不時着の航空法危険行為の多様原因で、厳罰を持って、南小路孝信被告を自衛隊職員のまま起訴するという、極めて理性的なものだ。ただ、それに至るプロセスも、今回は即決結審で皆様の協力を是非仰ぎたいと丁重に腰を折る。

 ここで、俺と澁澤鳴海弁護人が、起訴状に対する意見陳述が行われる。イマージュ三沢店駐車場不時着事件は純粋に過失であり、救難特化に換装可能飛行戦闘機のF71BJだからこそ、全被害は免れた。そこには、日々蓄積されたF71BJ乗り、シェイカーの職務蓄積があればこそであり、決して大事故に至りません。分別のある結審をと強く出た。防衛省着きの弁護人であれば、強気はやむ得ない。


 そして審理へと入る。冒頭陳述は、直江重定検察官と佐竹晴香検察事務官が、イマージュ三沢店駐車場不時着事件の証拠を、市中いや一般人のレコーダーからも映像を吸い上げ、漏らさず述べる。参考映像ダイジェストを改めて眺めると、こんなすぐそこの上空で不安定な回避行動を取ったら、不安が募るしかない。俺はやや竦む。

 そして、強行着陸のいざの証拠映像。これは確かに、F71BJの機体性能に多く委ねたのは否めない。澁澤鳴海弁護人は、F71BJとはシェイカーも含めた運用で有り、これは最適な回避措置であり、何に過不足があろかで捲し立てる。さて、即決結審の割には、最初から平行線だ。

 ここで証拠調べに入る。俺達の弁護側で用意したのは、 F71BJのシュミレーター1台。そして、シェイカー2人、いずも改魁の同僚のHASU3興梠奏とHASU6蓮水仁が立会い、当日の状況を俺以外でも回避出来るかになった。

 シュミレーターが改竄されていないか、直江重定検察官と佐竹晴香検察事務官が、BOSSシステムのバージョンナンバーと最新更新日を2度チェックし、事件当日そのものでOKを出す。審理続行の許可が出た。


 1番目の操縦はHASU6蓮水仁。BOSSシステムはあれど、乗り手それぞれに適応したバッチの山で構成されるので、果たして俺のHASU2を乗りこなせるかだったが、そこはAA+の蓮水仁で、操縦不能でも何ら焦らない。焦らないのはシュミレーターだからではない、普段でも機体負荷を大幅に越えた、応戦兵器回避を繰り出すのだから、整備長星崎羊一怒鳴られるのが通例だ。でも整備が終えると生きてて良かったなの一献交えると、大涙混じりの健闘会で盛り上がる。

 そして、イマージュ三沢店上空に横滑りすると、隣のホームセンター:デパーチャー三沢中央店に何故か流れた、まあ土曜日の朝であっても、そう言えば空いていた。操縦不能でもこの豪快な選択肢もあるかは、蓮水仁のアクロバッティクに反応して、相応のバッチがインストールされたらしい。法廷はざわついた。

 直江重定検察官と佐竹晴香検察事務官の見聞によると、左右推進2並列スラスターバッチがインストールされ起動したらしい。まず俺が首を傾げた、宇宙船でも無いのに、何故F71BJにそんなものが付いているんだよ。佐竹晴香検察事務官が高速で英語の仕様書を捲ると、最後の用語説明に載っていると。


「えっつ、スラスターですよ、何で知らないんですか。ああ、そうですよね。皆んなエレガントな操縦してるから、必要ないですよねスラスター。でも、一気に噴かすとフレア代わりになるので便利ですよ」


 まあ仁は自然人だから、そもそもの争点を覆してくれる。ここで裁判員と弁護側と被告側が打ち合わせをし、ナッシングになった。まあ気を取り直して、次に行こうにもなる。


 2番目の操縦はHASU3興梠奏。飛行隊で一番の若さだが、その素質はJAXAアカデミー中等部にて、研修中の飛行プランが抜き出て、防衛省のスカウトにピックされた。俺は不意に思い出す。奏はままこう答える。


「奏さ、宇宙なんて、選ばれた人間しか行けないんだけどな。個人面談でJAXAに戻りたいって、言えよ。俺が言ってやろうか」

「孝信、万が一、私がね、月との実用往還船に選出されても、地上では複雑化する環境被災で、誰かが死んでるよね。それを他人事の様に、宇宙空間で悠長にミッションペーパーを眺めるてるなんて、きっと耐えられないと思うよ。きっと」


 興梠奏は、F71BJの戦闘機運用としては、任務ギリギリの線の優しさだが、救難に関しては順応力が高い。その興梠奏が、現状復帰チューニングされたシュミレーターに搭乗する。バッチプログラムの種類の設定は、どうしても俺の当日そのままにしている。

 そして法廷のモニターには、異常の発生した三沢市近郊よりスタートする。やはりマニュアル操縦不能で、右に横流れする。俺とはやや違うが北東北市民認識パッチプログラムがインストールされて、BOSSシステムのリレーションが再構築されている。そう、そのトリガーが、ターニャではなく、直下の三沢市民各人がトリガーになっている。そっちなのか、俺は訝しげになる。そうとは言え、この操縦不能は、やはりエンジンオイルの澱が、過剰反応したかだ。その澱は30gにしても敏感過ぎる。これはセンサーの塊のF71BJの仕様だと、澁澤鳴海弁護人が詳らかに解く。

 そして、シュミレーターはイマージュ三沢店直上。ここで、澁澤鳴海弁護人と直江重定検察官の意見が、ため息と共に一致する。

 この土曜日の、三沢市の何れものグランドは健康促進法で解放されており、人間がいたらパニックを起こし人身事故を招いた筈。ここでイマージュ三沢店地域、即ちリモート操作しやすい方を選んだ方が賢明である筈。シュミレーターは、第1水上隊の運用規律、市民の第一安全を機械的に判断した。そして、シュミレーターには、俺より2つ少ない、3つのバッチがインストールされるものの、俺と同様にイマージュ三沢店の駐車場をまっさらにこじ開け、俺より1分25秒遅れて強行着陸した。オートに最後迄委ねるとこうなのか。

 そして、直江重定検察官が問う。


「蓮水仁さんはイレギュラー過ぎるので議題から外します。興梠奏は操縦措置が被疑者に近いので、今回状況が詳らかになりました。ありがとうございます。そう、結果としては、マニュアル操縦不能になりますよね。ここ、申し開きは有りますか」

「有ります。この2051年でマニュアルに拘る意味が分かりません。全ての操縦技量は完璧なオートプログラムに委ねており、むしろマニュアル操縦の乗り物が有りますか。ここ交通法の現行法に言及すると、ただ長いだけの公判になりますよ」

「詭弁かよ。それを返すも不毛では有ります。次行きましょうか。そう、こんな大層なシュミレーター持ち込む位だから、程の良い証拠だよね。AI積んでるとかどうかではなくさ、AIAM国際法の抵触。AIオートメーションは国際法で禁止されており、いかなる国家も自律兵器の保有は禁じられている。憲法第9条を持つ日本国の自衛隊が所持するなんて大問題です。AIでなくても、準じてしまうのもAIの脅威論に抵触します。ここはどう切り返しますか」

「AIAM国際法と本件は無関係です。こちらの仕様書通り、AIそのものは、F71BJのBOSSシステムに入っていません。言うなれば、F71BJは、シェイカーの素質に、より適応したバッチプログラムで稼働する、オンリーシステムです。それを証明するのが、直上小型衛星を最大駆使した、1×15。F71BJ一機で、15機の戦闘機を一掃する戦績です。非合法なAIオートメーションが繊細なドッグファイトに対応するなんて、非公式ですが中国がアフリカ戦線で失敗しています。制空権を守れない戦闘機を有するなど、防衛省の予算はそこまでのリスクを負えません」

「仕様また仕様。そこは分かっているけど、結果、AIAM国際法に準じてしまい、事件になるのが問題じゃないの。俺達司法界隈としては」

「それならば言質を足しましょう。F71Bの開発マスターは米国製であり、2年前に死亡したマシュウ・アルメイダ博士のティディボックスに勝るバッチ集合システムは他にありません。この混乱の時代を、やがて制するのは彼の功績と断言しておきます。それを安易に、F71Bは脅威だの言いがかりで放棄し、日本の国土を守れますか。そして、不文律の日米地位協定にも踏み込めますか。良いですか、今日は一日だけの閉鎖法廷で終わらなければいけません。誰彼巻き込んで、長引かせる事は一切許されないのですよ」

「分かってる。鋭意努力は心掛けている。ただ、そこだよね。今のシュミレーションで、北東北市民認識パッチプログラムAL650、地上交通管制パッチプログラムFIX246、低軌道探索衛星連動パッチプログラムST187は、同じくティディボックスからダウンロードされた。ただ、何故か事件当日のHASU2より少なく、あと2つのバッチがインストールされていない。こんな不安定な操縦システムにいつまでも依存出来ないでしょう。そう、個別調査認識パッチプログラムT1091と、画像高精度解析Ver2バッチプログラムJG203がない。ここさ、シュミレーターは認識しなかったけど、何故に被告人南小路孝信が、準参考人ターニャ・スワロフスキーを認識したか、非常に疑問です。敢えて言いましょう、被告人南小路孝信の職務怠慢から、準参考人ターニャ・スワロフスキーをつい認識してしまっています。その証拠として個別調査認識パッチプログラムT1091と、画像高精度解析Ver2バッチプログラムJG203がダウンロードされたのではないですか。ここを争点として、被告人南小路孝信の業務上過失の疑いを問わせて下さい」

「僕もそう思ってましたよ。非常に気になりますね。是非ここを、被告人に確認させて下さい」高碕信太朗海上保安庁弁務官が我を得たりと問う。

「それは、なんとなく、」

「なんとなく、えらく曖昧な証言ですね」直江検察官、神妙に困った顔をする。

「そこまでにして下さい。直江検察官。調書もお取りになったと思いますが、ターニャ・スワロフスキーは国際裁判所でプロテクトマネジメントされています。この閉鎖法廷でも触れない方が、波風は立ちません」

「そうかな。僕ら海上保安庁も、自衛隊の下請けは我慢の限界なんだよ!せめて、公の場で、無茶してすいませんの、公式の謝罪は貰いたいよね」

「澁澤弁護士さ。今日のここ、持ちつ持たれつの時期じゃないかな」

「直江検察官、いいですか。そこは、時の総理が都度決める職務バランスです。三権分立を盾に、防衛省への言い掛かりは納得出来ません。そもそも行政同士が法廷で争うなんて、不毛の不毛です」

「澁澤弁護士、次々と、すり替えるなよ。事件当時、何故HASU2が、ターニャを認識したかが謎のままだ。業務上過失事案、言い繕っても職務怠慢の線は脱線はしないようにな、」

「彼女とは、いやターニャとは、警邏中の三沢管理空港と、物資調達中のバーナード三沢店と、事件当日のイマージュ三沢店駐車場で、3度合っただけです。それに嘘は有りません」

「南小路さん。いいですか、やましい思いがあるので、HASU2が敏感に、ターニャ・スワロフスキーに反応したのですよね」

「やましいの、意味が分かりません」

「でしょうね。事件の参考の為に、ターニャのお店、三沢のグランギニョールにも通い話しましたけど、まあ、彼女は正直ですからね。そう言えば彼女、ターニャ・スワロフスキー。ダンスに没頭すると、すぐ脱ぎたがるのですよ、白人の裸は石膏像みたいですね」

「そういうものですかね」

「裁判長、これは誘導尋問です。適時に制して頂けますか」

「まあまあ閉鎖法廷ですから、これ位は、ですよね。裁判長」

「直江検察官、法廷で意図的な煽りはしないように」裁判長が嗜める様に引きなさいのサインを送る。

「すいません。ターニャの自由の何処に、何の不都合あるんですか。個性は大切ですよね」

「いやー愉快だな、南小路さん。僕は、拍子抜けしちゃうな、ははーー」高碕弁務官、言葉とは裏腹に血走る。

「ああもう、これだから男性は。私もターニャ・スワロフスキーに会いました。ターニャは、大の飛行機好きだから、HASU2のメモリに残っているのです」

「澁澤弁護士、貴重な証言かな。それ今回だけじゃありませんの口調だよね。それは、いつからなの」

「画像動画認識プログラムのサムネイルログによると、バックアップメモリでは9ヶ月前からです」

「澁澤弁護士、貴重な証言ありがとう。ターニャ・スワロフスキーが三沢に来た時期と被るね。ターニャ・スワロフスキーはプロテクトマネジメントされている以上、こちらも突っ込んで探れない。ここで証言されると言うことは、つまり、澁澤弁護士、さあどうぞ」

「これは、防衛省事故対策委員会でも上がりましたが。F71BJ、その人気支援機HASUクラブは、その見学の多さから、ファンか、スパイ疑惑か、または幾つか、総じて5つのブームカテゴリーに、全ての知見者の画像動画を自動収集しています。ここはデータ開示出来ないものの、 第34事案審議HASU2運営ログ履歴一覧でメモリログが話題にも上がったので、ブームカテゴリーの存在は提出した筈ですが、検察側はお忘れですか。そうです、中でも、極めて見学時間の多いターニャ・スワロフスキーを、重要人物とみなし、イマージュ三沢店駐車場にいるターニャを怪我を負わせないように、緊急ダウンロード措置を行った可能性が大いにあると、これが防衛省事故対策委員会の結論です。ここで大義を述べますと、日本国滞在者を守るのも自衛隊の役割です」

「あああれだよ、主語は辛うじて出てくるも、ほぼ黒塗りだろう。推察も何も出来やしない。俺はXファイルに出てくる人間じゃないから、そもそも検察舐めてるよな。防衛省さん。そう、納得いかないんだよ。このシュミレーターは、過去のログ含めたHASU2そのものじゃないのかよ。何故収集データを搭載してないの。陳腐な言葉だけど、証拠隠滅ってやつだよね」

「執念の青森地方検察庁とあれど、国防の機密情報データはおいそれと、複製に開示は出来ません。現に、緊急のバッチプログラムダウンロードだけで、イマージュ三沢店駐車場に無事着陸しています。しかもHASU3興梠奏によるオート操縦で。安全は担保されていますが、反論はございますか。これ以上の食いつきは、検察と海上保安庁の言いがかりですよ」

「それ、言っちゃうかな。ちょっとさ、防衛省さん。用意周到じゃないの」

「そもそもで言えば、 第9事案審議補足事項でもターニャ・スワロフスキー保全の為の同盟国リレーション再構築で触れている筈です。調書を今一度ご確認下さい。対象者ターニャ・スワロフスキーは外交上安全保護対象者です。これ以上お話の中で、プロテクトマネジメントを引っ張っても、イマージュ三沢店駐車場不時着事件のそもそもが曖昧になりますよ。海上保安庁としても、ここが大人の引き時とご理解下さい」

「よろしいでしょう。以上にします。但し、裁判記録には残せないので、検事の追加審問の一切、ターニャ・スワロフスキーは全面削除するように願います」裁判長がペンシルで棒線の仕草をする。

 そうここで皆が察し、苦虫を潰した。ターニャは思った以上に、アンタッチャブルな存在である事を。


 そして、皆が意味深長に弁論手続に入る。直江重定検察官の論告も求刑も、実被害が全く無い以上、呆気なく防衛省内の訓告を強く求めるに置かれた。それを受けての澁澤鳴海弁護人の弁論も、用意されたF71BJの新警告仕様書を読み上げ、何かしらのメカニカル警告音が周囲に聞こえる様に改善すると丁重に閉じた。

 そして、被告人の俺が最終陳述を述べる。敢えて述べる。


「F71BJの救難戦闘機部隊にいて、いついかなる時も全てのコンディションを受け止めるべきなのですが、ここは自身の不徳の致すところです。もしバッチプログラムがダウンロード出来なければ、駐車場の車体を潰し、万が一残っていた方を圧死させていた可能性は重く受け止めます。改めてイマージュ三沢店駐車場不時着事件としてお騒がせして申し訳ありません。ただ、シェイカーとしての責務は有りますので、今後もF71BJに搭乗し続け、万民の為に、積極的にプログラム保全のチェックは怠りません。ここは私だけでなく、シェイカーの日常業務として、今後公式にルーチン化出来る様に協力を惜しまず、最適化は図って行きます。あと、ターニャ・スワロフスキーに関しては、現時点で、特にこれといった感情は有りませんのでここ迄にして下さい」

 最後の一言で、皆の肘がズレ、膝も折れ曲がった。そして重い溜め息。且つ冷たい一瞥が飛んで来る。そんな人手無しなのか俺は。


 そして、すぐ終えますとで、裁判官達が評議室に向かい。俺達皆法廷で30分ジャスト待機した。

 裁判官達が法廷に戻り、判決が言い渡される事になった。全体的にコンパクトな展開なので、主文が後になるかと思ったが、クローズド故の少人数運営から手順はしっかり踏む事になった。法廷での意を汲み、過失か事故かだが、今は準戦時下であり、不時着はままあるだろうの緊急措置の論調になる。そして判決。


「以上の事から、イマージュ三沢店駐車場不時着事件に至る経緯は、掛かる緊急出動で、ロシア国の領空侵犯を妨げています。こここを語らずしては、全体像が浮かれます。今回のイマージュ三沢店駐車場不時着事件は専守防衛の責務から発しています。その後困難な事情が重なれど、民間に被害を及ぼさず、HASU2、F71BJ一機総経費156億円を墜落させなかった事は、極めて南小路孝信被告の業務遂行力が高いと判断します。そして、この閉鎖法廷で示されたシュミレーション通り、事実として航空法危険行為の抵触はありませんでした。よって、青森地方検察庁による量刑、第二種特別航路航空危険行為処罰違反及び甲種不法アクセス制御改竄法違反には当たりません。南小路孝信被告を無罪とします。ただ裁判官全員の意見とし、くれぐれも都市部の通過はより安全を図る事を付け加えます。そして、南小路孝信さん、あなたを待っている方がいます。誰とは指名しませんが、早く家庭を持つように。グッドラック」グッドラックサイン

「グッドラック」俺もいつも勢いで、0.2秒でグッドラックサインを出す。

 ここで法廷が爆笑に包まれる。死ぬ死ぬで仰け反ってるいるのは、高碕信太朗海上保安庁弁務官だ。こんな陽気なのに、防衛省と海上保安庁がにらめっこしてる意味が、やはり分からない。

 そして、澁澤鳴海弁護士が接近し、俺の左耳間近で捲し立てる。

「南小路さん、ここ、法廷は神聖な場所です。ここでグッドラックと言った以上、良いですか、環さんではなく、ターニャさんですよ。この大人の含みを分りますよね、ターニャさんを離しちゃダメですよ。分かってます、分かってるわよね、これ裁判記録に残るのよ」

「でも、ターニャは、ロシア人ですし」

「そんなの、準戦時下だけど、ロシア人の就労ビザはたくさんいます。外国人のお手伝いで、かろうじて日本国の経済活動が回っているのだから、どうにかなっちゃいないなさい、ねえ」

「でも、自衛隊の秘密規定が、」

「ノンキャリアに、そんなの適用されません」

「そうなんですか」

「全く、あんな分厚い規則集読めの、言いぱなしもね。読める筈もも無いし、規律講習が8時間では、全く足りないわ」


 不意に思ったが、俺はターニャを知っているが、照れて顔をよく覚えていない。HASU2のバックアップに画像と動画が残っているなら、鮭延麦秋電脳技師長に頼んで、リビルドブロマイド作って貰おうか。ターニャが好意を持ってくれているのならば、それは礼儀の一つと思う。そう、留置所にちょっと長らくいたのだから、やや便宜は図ってくれるとは思う。恐らく。



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