第7話 青森地方検察庁本部 第1事案審議

 審議が進んでいるのに、何故第1事案審議なのか。そこはあの三沢主管警察署が絡んでいるらしい。

 目の前には、三沢主管警察署の特別心理分析室の例の二人、水嶋幹司特任捜査官・戸塚香苗特任捜査官。直江検察官と佐竹検察事務官は席を外し、AIの音声テキスト化が行われしようとしている。やれ、議題は何より知己でも込み入った連中はどうしたものか。


「南小路孝信さん、あなたに是非お尋ねしたい事がある。先の審議で意識して無いのに、F71BJ:HASU2のメモリに収納された何かしらは、非常に興味深い。是非科学的に分析をしたい」

「この写真の女性に記憶はございませんか。名前は何と名乗ってましたか」


 写真の女性は、女子大出間も無くの妙齢で、前髪も綺麗に整っており、時代が流れても華族の御息女には見える。真澄さんは、とあるご縁で知っている。ただ。


「さあ、誰でしょうか。ショッピングモールですれ違って、綺麗だから残像に残っていますかね」

「南小路孝信さん、綺麗な割には、唇が動きましたよね。嘘は地検にとっても印象は良くないですよ」

「南小路孝信さん、今私怒ったら、この隣の部屋に保管されてる、三船環さんがプレゼントしてくれた、スイス製のBernardyの時計吹っ飛ぶかもしれないですよ。それって、三船環さんに説明出来ますか。几帳面な人間が、特に原因も無く壊したとあっては、さてどうしたものかですよね」


 戸塚香苗特任捜査官のPKは守秘義務どうかより、環は鉄火場好きなのに怖がりだから話せやしない。Bernardyの時計は、同棲開始時に記念だからと買ってくれたものだ。その時は確か真珠のネックレスをお返しして、共通の知人の葬式につける位だ。そんなに気に食わないかも、何か憑き物来ないかもしれないでしょうと破顔する。まあ真性の怖がりだ。

 止む得ないか。


「そう言えば、真澄さんでしたかね。コインランドリーで会ったかもしれないです。眼鏡を掛けていたので別人かと」

「やれ、呆れたものだ。本名名乗るなんて。真澄事伊吹真澄だ。こちらが必死に追うも手出しが出来ない、Xファイルから、こちらの個別ファイルに移行している、天衣無縫そのものですよ。さあ何を語りましたか。F71BJ運用は日本とアメリカの国家機密ですよ」


 国家機密も何も、F71BJは本能で操縦して、特にこれと言って言語化出来る代物ではない。さて、規律違反を押し付けられてもだから話すしかない。

 真澄さんとは、近所のコインランドリー:マザーハウスで、まま会う。環のSEXが炸裂して、シーツ一才合切が大量潮で濡れると、環はゴメンと言いながら出勤し、俺は近くのマザーハウスに行きコインランドリーに放り込む。入念コースの90分は流石に長い。

 そして店内にいるのは、黒縁眼鏡を掛けて太宰治を読む女性こそが真澄さんだ。俺は非番だが、火曜日朝のこの時間にいるって事は、学院通いの学生さんかだった。話し掛けて来たのは真澄さんだった。


「おはようございます。よくお見かけしますね。でも、現地の方ではなさそう」


 別に、ハニートラップにしては、普通の身なりでそこ迄手の込んだ事をするかだ。ただ真澄さんのコインランドリーは旅着の5ターン一式が脳裏を過ったが、調査系の学院生はいるだろうだで、普通に話した。

 俺の生い立ちを軽く浅く、自衛隊の事は言わず、民間パイロットで通した。三沢管理空港によくいそうなスタッフなので、何も疑われてはいない。そして、同棲中の環の事も話した。そう言えば見たかもしれない、チャキチャキしてる女性。家に帰ってくるとグッタリしてるは、これはおもしろ話として現に鉄板だ。

 環の話はここ迄だが、何故か真澄さんには、寝室の事も話してしまう。ストレスが溜まると酷い男性依存になり、SEXが夥しいものになる。大人ですね。至って、ごく自然に受けとられるので、女性上位の矜持迄頂く、見られてる事でより興奮するので、孝信さんの優しい顔見たら興奮もしましょうね。ところで行くのですか。いや、行かない。違うな、俺はそんな酷い事を思っても言わない。


「それを、環は気づかないのですよね」

「性の不一致って、よく有りますよ。別れましょうよ。もう駄目ですよ」

「でも、愛情が有ります。そう簡単には…」

「人間て、思い出だけで生きているんですよ。ああ、こういう事があったな。嬉しい。頑張ろうって。そして老人になる程、その思いは強くなります。孝信さんが、ずっと我慢して、愛と錯覚したまま、歳を取られたら、そこには何があるのですか」

「途方も無い、虚しさですね」


 違う、俺の心にちょっとは過ったが言いはしない筈だ。そんな事になる筈もない。俺は、こう美人にどうして弱いのだろう。そのまま作業机に肘を付き髪の毛を掻きむしった。


「伊吹真澄、すっかり全開だろう。伊吹真澄のギフトは、告白、confessionです。しかもは、被害者がうっかり本音を漏らしても、これが自然と受け止めてしまう、付加価値で記憶操作の余地も有り。南小路孝信さん、あなたすっかり術中にハマってる 」

「伊吹真澄の告白のギフトもあって、表だった犯罪履歴は無し。マネーカードが使われるの、所持者本人が立ち会っているので、単なるプレゼント扱い。まあ、その気になれば税務署経由で特別交際費で計上出来ましょうけど、そんな微罪で捕まえたら、真澄、トンズラするに決まってますよ」

「あの、俺、その告白とやらにハマったのですか」

「そうですよ、南小路孝信さん。あなた、真澄に好意を持たれている様です。それを本能で刷り込まれたから、F71BJ:HASU2が、伊吹真澄を三沢市庁舎でピックアップした。そう待てよですよ、三沢市庁舎で何をしようとしているんだよ、あいつは」

「イマージュ三沢店駐車場不時着事件を受けて、三沢市庁舎窓口にて、開示ログから、特定秘密保護三号の3人が抜かれています。次の案件対象でしょうね。とっ捕まえましょうよ」


 戸塚香苗特任捜査官は腰に手を回し、鮮やかに手錠を回して、俺の左手、右手に掛けた。俺は逃げないだろう。


「南小路孝信さん、あなたが真澄に接触してアバターになったか確認です」

「南小路孝信さん、最初、シラを切りましたよね。自白しないと手錠の鍵捻じ曲げて、ずっと手錠生活でいいすか、いいすよね」

「ちょっと待って下さいよ。真澄さん、立件されていない何かの容疑者ですよね。それを、何故俺が苛まられなくちゃいけないんですか」

「いいから、仲間かどうか、さあ、」

「だから、どう仲間になるのですか。そんなに気になるなら、コサージュ三沢の503号室に行けばいいですよ」

「何で、真澄の部屋を知ってるんですか」

「俺の動体視力は尋常では無いですよ。ノンウエイトフォンの電子キーの、チラッと画面位は見えますって」

「行くぞ」

「行きましょう」


 二人の肩が風を切った。ちょっと待ってと言おうと同時に、両手に掛かった手錠の錠が、芯が豪快に折れる音が響いた。

 戸塚香苗特任捜査官のPKって、本当にあるのかと、両手の手錠をパキンパキンと外し、咄嗟に本能で心臓を守った。ギフト持ちに忌避は無いが、これが現実の対応なのだろう。


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