第5話 青森地方検察庁本部 第2事案審議
イマージュ三沢店駐車場不時着事件の取り調べは、青森県警はほぼなく、青森地方検察庁本部の検察官執務室で行われる。
俺の担当検事は直江重定、検察事務官は佐竹晴香の、キレの良いコンビになる。
そう今時でも、地検の取り調べが、標準知識体AI4による質疑応答に委ねないのが、地検、特に北東北方面の判断力は依然として強固とも言える。
俺の澁澤鳴海担当弁護士曰く。直江検事の身なりはアメリカンなミサワカジュアルでチャラいが、かなりのキレもので、最前線地域北海道青森の配属が専任担当と知らされる。仮に、俺がしらばくれっても、検察庁権限で何処にでも、そう駐屯地や基地であっても乗り込むから無駄ねと嗜められる。
そして俺は、イマージュ三沢店駐車場不時着事件のあらましを、延々と確認される。記録と記憶の往来、そして程よくまとめる手腕は漏れなしだ。
直江検事の机には、今時冗談かの昭和のビジネスデスク並みにドキュメントが積まれる。崩れないかは、陸奥湾地震の震度4で崩れたがオンデマンド製本化したので今度は大丈夫と砕けて話す。
「そもそも、その書類って何ですか」
「ああ、AI4のカテゴリライズ、ブートキャンプのプリント。インターネット滅亡から、早くも15年だよね。人類は検索する術も捨てて、AI懇願だもの。ブートキャンプが、その都度アンサーが変わったら、引用の信憑性がね。そこで、思いついたら即時にプリントアウトしないとね」
「ブートキャンプのそれですが、F71BJの情報って、」
「ああ、今のところ大丈夫。防衛省権限は漏洩していない。でもさ、F71BJって、噂じゃあ、起動キーをベタ打ちすれば、下手すれば、中学生英語でも操縦出来ちゃうって、それもどうなの。物騒な話だよね」
「コマンドは噂です。仮の操縦も、学生の三半規管だったら、発進のカタパルトでF71BJが転げ回りますよ。それより俺、起訴されるんですか」
「ここ、南小路さんの生真面目さは分かってるけど、無下に海上保安庁を宥める事、無理じゃん。仕事って、本当辛いよね。ほら、地検って、全方位の協力あってこその正義に行使だから。悪く思うのは、俺止まりにして。何せ大注目の裁判だから、茶番は許されない。ここ、よくよく南小路も弁えて、声を張ってね」
「悪くは、私もですから、悪しからずです」書き起こしの佐竹さんも、俺をまじまじと見つめる。
「まあ、佐竹は生真面目だから、話半分に聞いて。つうか、南小路さんに補足いるか、いらないだろう」
「直江検事、バディとして、非常に心外は発言です」
「そうかな。南小路さん、バディの矜持として、何か言ってよ」
「バディの言葉は軽んずべからず、でしょうか」
「そっち側か。気づかいしなくもいいのにさ。まあ、南小路さんのお人柄は成る程ね」
「直江検事、私は容疑者扱いです。ですが、防衛省の組織人として伝えなくてはいけないことがあります。真摯に真実の追求するのなら、当たり前です」
ここから、直江検事の状況確認が述べられる。
「2051年7月25日土曜日の概況は仕上がったね。行こうかな」ゆっくり手元の製本のドラフトをトントンと置く。
「08:45。第1水上部隊、多目的護衛艦いずも改魁、第5世代多機能護衛艦ささめゆきとしおさいは、階上町沖合を定期巡航中にスクランブルが掛かる。ここでの要請は、低軌道探索衛星が、所属不明のステルスドローンを画像認識し、航続距離の可能性からロシアと推定。何故スクランブルかは、過去に車力3Dレーダー基地敷地内に空対地ミサイル2発付きのステルスドローンが墜落した事からの、海上自衛隊の重要事例として明記。故に適正業務と言える。更に加えれば、適正任務能力を鑑みて、HASU1、HASU2のコンビがよりベスト。ここもどうかな、HASUクラブ全体の成長を考えると、そうでなくても良かったかもしれない」
「08:47。いずも改魁からF71BJ、HASU1の丹羽重成、HASU2の南小路孝信の、バディ運用機が直上バーナー蒸し緊急出動。ここでの液体燃料が8割の満載で有るのは、垂直離着陸機のF71BJの汎用運営を考慮してこそ。後述するけど、不時着した際には液体燃料がほぼで有り、不時着理由として燃料切れは消去される」
「08:57。三沢市北郊外沖で所属不明のステルスドローンをアクティブ確認。HASU1・HASU2は、ロシアのミサイル保有ステルスドローン:イリージンと目視。そしてF71BJの目視連動アイで正確にマーキングされ、HASU2の空対空ミサイルで爆散撃破、海上へと飛散墜落。これも自衛隊の通常対応処置なので、付帯すべき事はない」
「09:03。いずも改魁から帰投命令発令。ただ何故か、HASU1・HASU2は、三沢市上空へと大きく逸脱する。ここは、F71BJの機体スペック、不審者マーカーが無いかの警邏だろうけど、海上自衛隊に捜査協力の権限は防衛省規定には無いよね。まあ、持ちつ持たれつの慣習だろうけど、事実認定としては外せない問題なので、記述せざる得ない」
「09:08。F71BJ:HASU2に機材トラブル発生。操縦士南小路孝信一等海尉のミスによるものかは、HASU2及びいずも改魁のラバーズ班のモニタリングログにも、特段すべきものは無い。その機材トラブルとは、操縦アシスト即応システムプログラムボックス、通称ティディボックスから、BOSSシステムへと、バッチプログラムの可視不可視の幾つかが、インストールが爆速で開始された事によるもの」
「09:15。HASU2は、事案発生場所のイマージュ三沢店上空500mへと横滑り。流石は、垂直離着陸機の性能ならではか。ただこの時点で、HASU2は操縦不能になり、BOSSシステムの自律制御に委ねられる。ここで確認すべきは南小路孝信一等海尉の操縦が本当に不可能ならば、F71BJは市民の生活を大きく脅かす兵器と露見する。ここは海上保安庁の言い分そのままね」
「09:18。とは言え、HASU2は通称ティディボックスから、謎の新規パッチプログラムが難なくBOSSシステムへとインストールされ、自律制御のまま、イマージュ三沢店の駐車場に着陸。お客さんから拍手喝采。無事で何よりは、青森のあずましいニュースだけど、そのF71BJの総重量でお客さんの車両が潰れ欠損する筈が、擦痕一つも無く事故を掻い潜る。うん、ここね。一昨日、プロドライバー総出で、当時の再現車両でいざ現場検証したけど、1分以内に、3cm間隔で避難する事なんて、絶対不可能。LEV自動車に衝突回避プログラムはあれど、掻い潜れる迄の緻密はあり得ないの国内外の全自動車メーカーの見解。つまり、F71BJ:HASU2が、かなり高度なリモート操縦プログラムが機動したと、稼働ログから解析し証拠として確認。ここもさ、海上保安庁から突き上げれてるけど、防衛省はこの時点で軍事機密は公に出来ず、どうしても手詰まり、てね、防衛省でも意味不明だから、小清水冴子防衛省査察官と面談したけど、そうですか、そうですよねで区切った。物分かり良いよね俺達って」
取調室に緊張の空気が覆われる。
「直江さん、つまり、」
「ああそっちじゃ無いから。まあ、テコでも軍事機密開示出来ないなら、閉鎖法廷で、海上保安庁にメンゴして、今後も仲良くねの展開だからさ」
「閉鎖法廷になるくらいだったら、今回不起訴に出来ますよね」
「まあ聞いて下さいよ。そこは遺恨残る海上保安庁でしょう。ここで自衛隊原隊に楔打たなかったら、いつあるのって事。自衛隊としては、ステルスドローンの撃墜は任務だろうけど、その撃墜した機体を回収する海上保安庁は、今も追加建造中の万能サルベージ船に予算奪われぱなし。仕舞いには、各地元漁業組合が、自衛隊よくぞロシア機撃墜も、海上保安庁には早く機体回収してけじゃ、網汚れるべ。まあ、海上保安庁がお気の毒過ぎるよね。俺も回収手伝ったけど、ああ、漁師さん達の底網ダメじゃんだもの」
「それでも今一度お願いです。私達自衛隊は一に、日本国民を守る。誇りあるべき任務です」
「それはご最も。十分存じ上げる。ただ俺も秋霜烈日のバッジを付けている。誰の為、勿論いざ弱い日本国民の為に。そう、コンロトール出来ない、最強兵器を扱っていいのかのコンセンサスは持ちたいよね、防衛省、そして操縦士さん」
「信念を曲げそうな事は迂闊に返答出来ません。俺は、これでもシェイカーですから」
「そこ操縦士でいいからさ。シェイカーとかパイロットとか、よく分からないんだけどね」
「直江検事。私が補足します。パイロットは従来の戦闘機乗りですが、その溢れる身体能力で、強化補正された主戦闘機を操縦します。シェイカーは次世代戦闘機乗りを示し、直結したセンサーに想像力を持ち込み、信じ難い職務遂行します。最初の運営はF35世代でしたが、センサー周りが強化されるにつき、マニュアル操作が困難になり、適応者即ちシェイカーの誕生になります」
「つまりさ、佐竹は、ファンって事」
「勿論、と前もってお答えします。イマージュ三沢店駐車場不時着事件後の最新の印象アンケートでは、海上部隊は甚大災害の応援にも駆けつける事から、8割の円グラフがそのままHASUクラブのファンです」
「へえー、」
「あの、それで、直江検事は聞かないんですか。もう一つの事象がある筈ですよね」
「ああ、レッドマーカーのターニャ・スワロフスキーね。それは別の駒なんだけど。気になるよね。一応聞き取りで、就業先の三沢のグランドキャバレー:グランギニョールに行ったよ。別に普通に明るい女子だけど、不思議なバレエを踊るよね」
「直江検事、そこは類まれな、フィジカルプリンシパルと置き換えて下さい」
「あのう、お二人揃って、ターニャの就業先にも行って、彼女の事何か分かりましたか」
「いや、提出画像216枚見て、へえ、どうしても絵になるなって。それで惹きつけられて、グランギニョール行ったし、そうだな次いつ行こうかって」
「孝信さん。ターニャさんは調査継続中につき、仔細は捜査守秘義務で言えません。私の表情で感じ取って下さい」佐竹、愛しむ様に微笑む。
直江、ハッとして椅子から立ち上がる。
「ああ、そうだよ!意外と知られて無いのだけど、同住所同室で同棲中の三船環さん、性別女性。日本の新婚姻法では異性と同居3年で、婚姻除外の分厚い複写異議申し立て書を、行政窓口に提出しない限りは、乙種条例婚姻で自動結婚なのだけさ。今回、南小路孝信が検挙されたので、この期間は除外されるからね、自動結婚は継続ね。あと1年切ってさ、ハイソサエティの結婚なんて、結婚式場の違約金相当な筈だから、早めにキャンセルしておいたら。勾留長くなっても、俺、責任被れないから」
「孝信さん、お二人の職務の結婚費用の中央値として、あと7歳差婚ですね。その平均挙式料金は1800万円。私が環さん宛の私文書通知義務申請の送付状作っておきますので、孝信さんは、メモ書きで結構ですので、今ここで書いて下さい」
「いや、そこ迄、結婚式場なんて抑えていない筈です。俺は勿論の事、環は激務ですから」
「いいえ、三船環さんのシリアルナンバーネットワーク経由でDUBカードの出納帳眺めてますが、先月300万円が、八戸グランパレスに支払われています。八戸グランパレスは北東方のハッピーウェディングの聖地です。孝信さん、南小路孝信がこの体たらくでしたら、押さえますよね結婚式場。ここ迄愛されたら、絶対逃げれないですもの」
「ああ、そうだな、そうかもな。最悪懲役刑で刑務所直行だから、別れて幸せになってくれって書いたら」
「直江重定検察官!人手無しにも程があります、孝信さんの雑な決断に振り向けないで下さい!」
「いいじゃん、被疑者さ、孝信さんさ、結婚する気ないのだから、程の良いお断りだよ」
直江さんと佐竹さんが強烈なバトルをしている中、俺は、筆談メモに控え目の3行を書いた。
環に向けて、愛情がないとは書かないが、また一から愛情を構築するには時間が掛かる。結審を待たなくて結構だからと、優しく書いた。
そして佐竹晴香検察事務官は泣きながら、私文書通知封筒を作って、俺の最終意思確認を口頭でした。後悔は無いですか。迷わず無いと。
ここで審議は終える。まあ海上保安庁にそこ迄嫌われてるか、俺。いや海上自衛隊はか。だから融和措置として、あれ程大湊マリンフェスティバルを、海上自衛隊と海上保安庁で一緒に共同開催すべき進言するも、柴崎遥子いずも改魁艦長に嗜められる。
「それね。うちは、女性スタッフ多いから、口説いた、貴様、で、また大騒ぎするでしょう。まあ私が一番モテるのが困りものだわ」と豊胸を大きく補正したオートクチュール制服で、優しく諭される。
あんたがまずだよ、柴崎艦長。猫目が優しくなるのは、どうしてもツボだよな。男子一切。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます