第27話

小説・雨音の新人小説の各賞が発表された。

泉野千織の"5月の雪"は今回佳作に選ばれた。

残念ながらデビューとはならなかった。

泉野はガックリと首を垂れて落ち込んでしまった。


「どんな具合ですか?小説家は」

菜々緒が差し入れを持って来た。

「相当落ち込んでるようで、ご飯も食べないのよ」

大家が心配気に言った。

「菜々緒ちゃんの顔、見れば元気になるかもしれないね」


コンコンとドアをノックするが、部屋から反応がない。

「千織。私、どうなの?」

「……大丈夫だから帰れ。みんなにも気が済んだら出て来るから」

「分かった。ご飯は食べなさいよ」

菜々緒は部屋の外から言った。


「しばらくそっとしておいて下さい。

気が済んだら出て来ると言ってますので。私もまた来ます」

そう言って菜々緒は帰って行った。


「佳作取るなんて凄いやん!大賞も近い言う事だし…… 」

なんて慰めてもその言葉は届かない。

せめて美味しいものでも……と泉野の好物料理を並べたが箸をつけようとしない。

「お母さん。少し放って置けば?菜々緒さんもそう言ってたし。お腹空いたら降りて来るよ」

「そうかな」

大家は梅、シャケ、おかかのおにぎりにラップを掛けて、お茶と一緒にテーブルに置いておいた。


どんなに落ち込んでいてもまる3日食べなきゃお腹は空く。

夜中に1階に降りると、おにぎりが3個とお茶が用意してあった。

そしてメモがあった。

"諦めなければ夜明けは必ず来る"

泉野は泣きながらおにぎりを貪り食べた。


その姿を大家はそっと影から見ていた。

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