第12話:全員で追跡開始!のはずが
盗賊団は少し離れた場所に停めておいたらしい乗り物(比較的弱くておとなしい性質の魔物を飼育・調教したもの)に乗り、一斉に駆け出して行った。
盗賊団あるあるなのだが、奴らの乗り物は爬虫類系の魔物やネコ科系の魔物などが混在していて統一感がない。
これはそこらの通行人からチマチマと奪い取ったものである事の証左であり(馬は脆い上に高級品なので権威が必要な者――要するに王侯貴族や警備隊くらいしか使わないし、賊はそういう権力と直結している人間を襲う事は少ない)、例に漏れず彼女達も大小さまざまで足の速い魔物と遅い魔物が混在している一団となり平地を駆けて行く。
――いけね、俺も行かなきゃ。
置いてきぼりを食らった形の俺は少し考え、走って追うのをやめて空飛ぶ絨毯を使う事にした。
あいつら盗賊だし、各国秘蔵の貴重品を持ってるところを見せたって問題にはならんだろ。
マジックバッグからくるくるに丸めてある絨毯を取り出し、広げた。
緋色のこいつは絶対に地面につきたくないらしく、広げた瞬間から既に浮いている。
空を飛ぶと言ってもこのアイテムではそこまで高く飛ぶ事は出来ず、成人男性の膝くらいの高さを常にキープしながら滑るように飛ぶ。
地形によっては(断崖絶壁とか木が密集している森とか)使えないが、水面を進む事は出来るのでものすごく便利。
体力を温存しておきたいのもあるし、スピードもあるし。今この場面で使わない手はないだろう。
絨毯に乗り、ドッカリ座り込んでエルダードラゴンの後を追い始めた。
先に出発していた盗賊達は足の遅い魔物に進行速度を合わせているらしく、まだ近くにいてすぐに追い付いてしまった。
彼女達は俺を見てぎょっとした表情を浮かべている。
「な、なんだそれは!?」
先頭を走るサラフィナが騎乗しているホワイトパンサーから転げ落ちそうになりながら訊いてきた。
「空飛ぶ絨毯ですが、何か?」
「見れば分かるわ! なんでそんなモノに乗っているのかと聞いている! エルドリア公国秘蔵のお宝だろう、それ!」
「借りました」
「誰が信じるか! ――あぁ、そうか。お前、もしかして」
サラフィナはホワイトパンサーの上に立ち、ふわりと跳んで俺の絨毯の上に移乗してきた。
「同業者か」
「違います」
「じゃあ、実はエルドリアの貴族?」
「違います」
「むぅ……なんなんだ、お前は」
そう呟き、どっかと俺の後ろに座り込む。
「ちょっと、なんで当然のように座るんです?」
「いいではないか。どうせ向かう方向は一緒なんだろう? 乗せろ。……一度乗ってみたかったのだ。伝説の“魔女の魔法具”に」
そう言って絨毯の毛並みにそっと触れた。
盗賊らしからぬ繊細な手つき。
……まぁ、おとなしくしてるなら、別にいいけど。
「……妙な事は考えないで下さいね」
「妙な事って?」
「隙をついて俺の首を掻こうとしたり、持ち物を奪おうとしたり」
「あぁ、そうか。てっきり“こういう事”かと思ったが……違うのか」
そう言って後ろから俺の腹に腕を回し、指先でツっと腹筋をなぞってきた。
(ア――ッ!!!!!)
カズオが鳴いた。
最悪だ。
「やめて下さい。ってか、あんまり近付かないでもらえます?」
「女は嫌いか?」
「いや好きですけど」
内なる騎士がうるさいんだよ。
俺の返答にサラフィナは大きな片目を瞬かせると、ふっと柔らかな笑みを浮かべた。
「お前、紳士なのだな……。お姉さん好きだぞ、そういう若者」
別に紳士ぶってる訳じゃないんだが……。
「というかお前、ずいぶん良い体してるな。もう一回触ってもいいか?」
「嫌です」
「分かった。――ほう、衣服の下に隠れたしなやかな筋肉、それとこの均整の取れた線の美しさ。偏ったトレーニングをしている者はこうはならない。……ただ者じゃないな、お前。名はなんという?」
「触らないで下さいってさっき言いましたよね? 名はエリアルです」
腰や胸、脚までべたべたと触ってくるサラフィナに自己紹介を済ませ、前を向いた。
服がパッツンパッツンになってしまったサラフィナは目の毒だ。またカズオが騒ぎだしてしまう。
ていうかまだ気付いてないな。服が入れ替わってる事に。
眼帯もなくなって、傷で潰れた片目が露出している事にも気付いてないし……無頓着にもほどがある。
いつ気付くんだろう。
「エリアルか。……私はサラフィナ。訳あって盗賊団の首領をしている」
「知ってます」
マリエルが散々呼んでたからな。
――でも、どうして盗賊団の首領なんてやってるんだろう。そこだけは気になる。
「サラフィナさんは、なぜ盗賊を?」
「それは話せば長くなるな。……ほら。どうだ、一杯」
そう言ってサラフィナはすぐ横を走るホワイトパンサーに装着してある荷物入れからワインの瓶を取り出した。
「追跡の最中に酒盛りしようとすな」
「良いではないか。どうせ酒の力でも借りなければあのエルダードラゴンの前に立っても何も出来ないのだ。今の内に恐怖を感じない精神を作っておきたい」
「はぁ」
「しかしこの絨毯、最高だな。移動しながらでも落ち着いて酒が飲める。おーい、皆も来い! あと5人くらいは乗れるぞ!」
勝手に手下達を呼び寄せるサラフィナに応じて、嬉しそうな顔をした女盗賊達がぴょんぴょんと絨毯に移乗してきた。
「おい、勝手に乗るなってば!!」
つい口調が荒くなる。
「そんなに乗ったら狭いだろうが!」
「あらぁ、いいでしょお~? さっき貴方に水をかけられたせいで寒いのよ。あっためて」
セクシーな巨乳盗賊がしなだれかかってくる。
「そうよ。筋肉って脂肪よりも熱いんでしょう? つまり貴方はあたし達よりも熱いってコト。ちょうど良いじゃない」
反対側からも。
どいつもこいつも、遠慮という意識が欠片もなくベタベタと触ってくる。
こ、これがこいつら盗賊団の真の手口か……?
俺はマジックバッグを尻の下に隠して叫んだ。
「と、盗られないからな!」
サラフィナは呆れた表情でワインをラッパ飲みし、言った。
「心配するな。私は気に入った者からは盗らない主義だ。……しかし、紳士は好きだがあまりにもつれないとそれはそれで腹が立つな……。皆、自慢の手練手管でその若者を落としてみよ」
「はーいっ!」
女達が獰猛な目でにじり寄って来る。
どういうノリだ。
怖い。
無意識に後退してしまい絨毯から落ちそうになってしまった。
最悪だ。
2周目勇者のRTA記 @panmimi60en
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