第42話 呪いの連鎖

 リダの話に、私だけでなくファルも耳を傾けていた。リダの必死の呼びかけに、ファルは少なからず動揺しているんだと思う。

 ファルがリダの呪を解きたいと思っていたのは、あれはきっと本心からだ。ファルにとってリダがどんな存在なのかは、私たちにはわからない。だけど少なくとも、兄妹以上の絆みたいなものがあったんだと思う。


 リダは本当に、ファルの話をするとき、嬉しそうに話しをした。ファルもまた、リダに慈しみをもって接していた。

 ファルはそういえば、よく話題をそらした。リダが昔の話をしようとしたとき、私が二人の両親の話を聞こうとしたとき、ことごとく話題をそらしていた。今にしてみれば不自然だけれど、その時はさして気にもならなかった。


 相変わらずファルはまだ、リダの話に耳を傾けている。私をつかむ腕は、熱い。さっきよりも熱を持っているように感じた。

 そういえば初めて会った時、リダは言った。


『呪いは呪いをいざなう』


 今まさに、その意味を痛感している。

 ヨミは不老不死の呪いをかけられ、呪いを解く方法を探して旅に出た。そして、呪いを解く唯一の方法である、呪い絶ちの太刀を作った。エニシの近親者であるアベの骨を使って。

 ヨミはエニシの呪いに対峙しているつもりだったのだろうけれど、最終的に私たちはアベとエニシ、両方の呪いと関わっていたのだ。

 それは五百年前にエニシが仕組んだものだったにせよ、ヨミの周りには呪いが尽きなかった。


 呪いを解いた後、ファルとリダに出会ったのも、もとをたどれば、ヨミの『呪い』が縁になっている。そして、ヨミがエンダーさんから呪い絶ちの太刀を預かったのもまた、呪いの縁だ。

 呪いにあらがうことはできないのだろうか。ヨミはこの先、呪いと対峙する運命なのだろうか。

 ヨミを見れば、相変わらず身動き一つせずにファルと対峙している。背中に担いだ呪い絶ちの太刀を右手でつかんだままだ。


 ヨミの霊力は青色だ。それは霊力の中でも最も力が強い色だと前に聞いた。それほど強い力を持ったヨミが、ファルに対してこれほどまで警戒をしている。

 いや、私が足を引っ張っているのか。私は後ろにいるファルを横目で見る。リダの話に聞き入っているとはいえ、私を捕まえる手への意識が途絶えたわけではないようだった。

 どうにかして逃げなければ。そう思っても、女の私が男のファルに力で敵うわけがない。また、私が霊力を使おうものなら、私の首はを即座に呪い絶ちの太刀で貫かれるだろう。


 貫かれたら最後、私は呪い絶ちの太刀の呪いに飲まれ、死ぬだろう。

 死ぬ、か。

 死ぬと言えば、私はヨミの呪いを解くためなら、エニシの生まれ変わりである自分は死んでもいいと思っていた。それなのに今、私は死ぬことを怖いと思っている。

 ヨミと旅をするのが楽しくて、ヨミの気持ちを知りたくて。私はいつしか生きることが楽しくなっていたのだ。


 ヨミの気持ちと言えば、私はヨミが本当に好きなのだろうか。私のこの気持ちは、エニシのものなのではないか。いまだにその答えなんかわからないけれど。だからこそ、私はまだ、死にたくないと思ってしまうのだ。未練、というものが私にあっただなんて、今更だけど驚いた。

 ああ、なんでこんなこと考えているんだろう。私はファルにばれないように心の中で自分を笑った。


 なんでって、きっと人は死に直面すると、昔のことを思い出すものなんじゃないかと思う。走馬燈というやつだ。て、あれ? じゃあ私死ぬのかな。

 この先誰が生きて誰が死ぬのかなんて、神様でもない限りはわからない。少なくとも私は、まだ死ねないのだ。死にたくないのだ。

 相変わらずリダは昔の話を続けている。あたりにはリダの声と風の音だけが、響き渡っていた。

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