第24話 黄泉と現世
その日はとてもよく晴れた日だった。私もヨミも、イッタリの町のはずれで、『異変の黒幕』を待ち伏せていた。
「本当にここなの?」
「ああ、間違いねえ。黙って辺り見渡してろ」
ヨミは『呪い絶ちの太刀』を右手に握って辺りを見渡している。私も辺りを見渡したら、一人の少年がこちらに歩いてくるのが見えた。こんなところに来て、迷子だろうか。
「ボク、ここはちょっと危ないから……」
私がかがんで少年に話しかけたとき、私の中のエニシが「ダメ!」と叫ぶ。私はとっさに少年から距離を取る。少年の周りが黒く光っていた。
「ヨミ! あれ!」
私は少年から距離を取り左手をかざす。何が起きてる、なんでよりによってこんな幼い子どもなんだ。
「ふふ、あはは! なんだお前ら、まるで陰陽師だな!」
少年が笑うとあたりに風が巻き起こる。なんだこの力は。
「うん? そっちのお前……お前には見覚えがあるぞ。そうだ、そうだそうだ。昔俺がまだ陰陽師だったころ、妹のえにしが拾ってきた、あの薄汚いガキにそっくりだ!」
少年はヨミを指さす。その瞬間少年の指から黒い光が出て、ヨミに向かって飛んでいく。ヨミはそれを交わすことなく『呪い絶ちの太刀』で受ける。黒い光は呪い絶ちの太刀に飲み込まれるように消えていく。
「お前その剣……よもや『呪い絶ちの太刀』か……?」
「そういうお前は……阿部の転生者、なのか……?」
少年――阿部とヨミはにらみ合う。こうして再び巡り合ったのは五百年ぶりか。私もヨミもアベも。アベはまだ、私がエニシだということに気づいていない。
「ヨミ、私がおとりになるから……」
私が小声でいえば、ヨミは私を制止するように私の前に手をかざす。
「ダメだ。あの『黒い光』は、『呪いの力』だ。たぶん魔物では防げず貫通する。おそらくあれに対抗できるのは『呪い絶ちの太刀』だけだ」
ヨミは少年を見たままで私に言う。そんな、じゃあどうすればいいのだろうか。少年を見れば、何かを唱えているようだった。そんな少年を見てヨミは前に走り出る。
「させるか!」
ヨミは剣を振りかぶり少年に近づくが、少年はそれをあっさり交わすとにたりと笑う。
「邪魔するなよ。ここを堕とせば『黄泉』と『現世』がやっとつながるんだ」
ぽう、っと少年の周りに無数の黒い光の玉が浮かぶ。
「防げるかな?」
少年はその光の玉をヨミに向かって放つ。光の玉はヨミに当たるが、ヨミには何の変化もない。
「あいにくだったな。俺が最初の光の玉を剣で受けたの見て、油断したな。俺は『不老不死』なもんで、呪いは効かない」
ヨミは少年の背後に回り込むが、少年を間近で見て、迷いを見せた。少年はアベの転生者とはいえ『一人の人間』だ。殺すことをためらうのは人として当たり前のこと。
「甘いな」
ヨミが迷いを見せた一瞬を少年は見逃さなかった。再びヨミは黒い光の玉の囲まれ、そしてそれはヨミの体にぶつかって今度は爆発する。呪い以外の玉も撃てるのか。
「ぐっ……」
ヨミは不老不死だ。でも、傷が深ければ深いほど治るまでにタイムラグが発生する。黒い光の玉の数があまりにも多かったからか、ヨミの傷の治りが遅い。
そうしている間にも少年は呪文を唱え続け、少年の周りが黒く染まっていく。
どうすればいいのだろうか、少年を殺さずに、アベだけを殺すには。ヨミは相変わらずうずくまってまだ動けそうにない。私はない頭を総動員させる。
どうすれば、どうすれば。エニシだったらこういう時、どうするのだろうか。西の果ての魔女だったら、雪の国の予言者だったら、刀鍛冶のタンジさんだったら。
『呪い絶ちの太刀は『術者』の体の一部を使う』
『役目を終えた刀は「力」を失う』
『転生したからと言って、レインはエニシとは『別の魂』を持っているんだよ』
グルグルグルグル考えに考えて、私はある結論に至った。
私はうずくまるヨミをよそに少年のもとへと走っていく。途中黒い玉が私に当たって私の体が黒くむしばまれる。大丈夫、呪いは術者の体の一部を使って作った剣、『呪い絶ちの太刀』で術者を殺せば打ち消せる。
私は少年の後ろに回り込み、少年を羽交い絞めにする。
「ヨミ! その剣で私ごとこの子を刺して!」
私の声にヨミは立ち上がる。
「レイン!? 何してんだ、そんなことしたら死ぬ……」
「くそ、離せ、離せえ!!」
少年がじたばたともがく。もう時間がない、早く、早く!
「大丈夫! 私は死なない! この子も死なない! ヨミ早く、時間がない! 私を信じて!」
私の必死の叫びに、ヨミは私たちのほうに走ると、そのまま呪い絶ちの太刀で少年と私の体を貫いた。
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