第19話 生まれ変わりのえにし

 十九年前、『雪の国の予言者』のもとに、ある夫婦が訪ねてきた。僕はその時まだ八つだったが、その時のことは鮮明に覚えている。

 夫婦は赤子を連れおり、その赤子はきれいな紫の瞳を持っていた。とてもかわいらしい赤子だった。


「予言者様。この子のことで、ご相談に参りました」


 父親は雪の国の予言者に頭を深々と下げる。雪の国の予言者はそんな夫婦を屋敷にあげる。雪の国の予言者には、すべてが見えていた。この赤子がだれなのかも、どんな運命をたどるのかも。


「どれで、相談とはいったい何かな」


 雪の国の予言者は、お茶を飲みながら夫婦に問う。夫婦は顔を見合わせた後、ゆっくりと口を開いた。


「私たちはこの子を森で拾いました。不思議な子です。森の中にいたこの子は、紫色の光をまとっていました。それに私たち夫婦は、この子を拾う前に同じ夢を見たんです」


「夢?」

「はい。この子が森に現れる夢です。それから、大きくなったこの子なのでしょうか。その子が赤い目の少年と楽しそうに笑いあう未来を見ました」


 父親は話し終えるとテーブルに置いてあるティーカップに口をつけた。雪の国の予言者は、長く伸ばした顎鬚をなでたあと、口を開く。


「はっきり言ってしまおう。あなた方は、この子が十の年に、この子を残して二人とも死にます」

「え……」


 母親は信じられないというように言葉を漏らす。


「それじゃあ、この子はその先どうやって生きていくんですか」


 父親が気丈に言い返す。雪の国の予言者はまた一口、お茶を飲む。


「そのあとこの子は、あなた方が見た夢の中の『赤目の少年』と出会うでしょう。そして二人はお互いが『唯一無二』の存在になっていきます。それでもこの子は、越えなければならない運命を背負っています」


「それは一体……?」


 母親が食い入るように雪の国の予言者を見る。予言者はまた一口お茶をも飲む。


「それは私にもわからんのですよ。ただ、この子は最期まで幸せに生きる未来は約束されている。困難に立ち向かい、乗り越えられる、そんな星のもとに生まれています」


 雪の国の予言者は、にこりと笑うと僕を手招きする。


「お茶のお代わりを……」

「い、いいえ、結構です。私たちはもう帰りますので……」


 夫婦は放心状態で立ち上がるとドアのほうへ歩いていく。そんな夫婦に雪の国の予言者は、最後にこう、言葉を続けた。


「もしもあなたたちが、『いつかどこかで』、夢の中の『赤目の少年』に会ったら。『不老不死の人間を殺す方法』を探す少年に会ったら、その時は『西の果ての魔女のところへ行け』と伝えてください」


 雪の国の予言者の言葉は夫婦に届いていたのか、僕にはわからなかった。


「さてオーヴェ、今日から忙しくなるぞ。お前には教えておかなきゃいけないことがたくさんあるからのう」


 夫婦が帰った部屋で、雪の国の予言者は僕に言った。何を教えるというのだろうかと見当もつかなかったし、僕はそもそもこの人の跡を継ぐつもりはなかった。


「おじいさん、僕は何も覚える気はありません」

「ほっほっほ、そうかの? あの赤ん坊に関することだといってもか?」


 雪の国の予言者はパチン、ウィンクをする。僕の心臓が早鐘を打った。あの赤子のことを、僕に? いや、あんなのただの赤子じゃないか。


「いいかい、オーヴェ、お前は時が来たら、あの娘を導かなければならない。とても繊細な子だ、お前が導かなければあの子はきっと生き残れないだろう。いいかい、オーヴェ……」


 僕はその日以来、未来で出会うであろうその赤子のために人生を費やした。そうして十九年の時が流れ、君は僕の前に姿を現した。

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