女子高生と幼馴染オーク(アドベントカレンダー2024)
しらす
1 相澤茅と狭間秋津
幼馴染の狭間秋津が高校性になってから、やけに女の子たちに人気で、私はこの頃もやもやとしている。理由は私にもよく分からない。
今日も教室の真ん中の席に座る秋津の前に、隣のクラスからやって来ていた女の子たちが並んで、楽しそうに笑っている。そんな風に彼が女子と他愛のないおしゃべりをする姿は、中学生のころまでは見たことがなかった。
なんといっても、秋津は稀人であるオークの息子だ。子供の頃は「顔が怖い」「体が大きくて怖い」などと言って女子には敬遠されまくっていた。
それが今や。
「秋津くん、数学得意なんだよね? 今度勉強教えてよ」
「いや俺、そんなに教えるのは得意じゃないんだよ。教えるなら他にうまいやつに頼んだ方が良くないか?」
「そっか、じゃあみんなで勉強会とかいいかも」
「それいいね、やろうよ」
「勉強会か。俺も生物は誰かに教えてほしいところだな」
などととんとん拍子に話が進んで、いつの間にやら仲間に引き込まれている。
ちなみに稀人というのは創作の世界からやって来るという異世界人のことで、いつ、どこに、どうして現れるのか、などという詳しいことはよく知らない。けれど稀人本人である秋津のお父さんには、子供の頃から何度も会っていた。その人は人間ではなく、ファンタジーによく出てくるオークという種族だ。なので秋津は人間との混血である。
しかしよほどお父さんの血が濃く出たのだろう、秋津の見た目は赤みの強い褐色の肌に大きな金の目、口の端には小さく牙がのぞき、耳の先は三角に尖り、髪は金色という、まるで昔話に出てくる鬼のような顔だ。
子供の頃はよくにこにこ笑って、愛嬌があると言えなくもなかったその顔も、最近はすっかり四角くなって、お父さんにそっくりになってきた。
つらつらとそんなことを考えていたら、不意に秋津がこちらを向いた。
「茅、お前もどうだ? 確か英語が苦手っつってたよな」
「へ? あ、え?」
突然話を振られて、私は返事に困ってしまった。明らかに女子たちの目的は、勉強会にかこつけて秋津とお喋りすることだ。しかし秋津の方は本当にただの勉強会のつもりのようで、この言い方だと私に英語を教えようとしているらしい。そんなことになったら、せっかくの場がしらけてしまうのは確実だ。
「いや、ごめんほら、もうすぐ学祭の準備始まるしさ」
「別に一日くらいいいだろ、まだなんも始まってねぇのに」
「いやいやいや、忙しい! 忙しいから!」
「そうか? しゃーねぇな。あ、もし帰り遅くなるなら言えよ、待っとくからな」
「はいはい、分かってますって」
できるだけ穏便に勉強会は回避できたつもりだが、最後の秋津の一言が余計だった。女子たちの視線はいつの間にか私の方に移っていて、その視線がちょっと痛い。
子供の頃からの事なので、私にはもはや当たり前になっているのだが、秋津は学校からの帰宅の道では、必ず私を送ってくれている。
放課後の教室で、下駄箱で、図書室で、よく秋津は私を待っている。当然それを見ている人は少なくない。
「相澤さんって、秋津くんと付き合ってるの?」
この質問も、もはや何度目になることだろうか。私たちはただの幼馴染なのだが、はたからはそうは見えないことは、私もうすうす気が付いている。気づいていながら、この状況を変えたいとも思っていない。だけど、なら恋人か、なんて言われたらそれもノーだ。そもそも私と喋る時だけ、極端に砕けた調子になる秋津を見ていると、恋のドキドキなんてお空のかなたに吹き飛ばされていく。
「女子はそういうの好きだよなぁ」
返事に困っていると、当の秋津がこれまたどうとでも取れる返事をして流した。昔から頭の回る彼は、こうやって適当に話題を逸らすのが得意なのだ。
そこでようやく始業前のチャイムが鳴り、隣のクラスの女子たちは慌てて教室へ戻っていった。私はほっと胸をなでおろして、秋津に視線をやった。彼はすぐに私の視線に気づいて「なんだ?」と言うように目を見開いたが、私は首を横に振った。
彼が女の子たちに囲まれていると感じるあのもやもやは、やっぱり出所が分からない。分からないけれど、秋津を見ているとなんだか心に引っかかる。
けれど担任の先生が入ってきてホームルームが始まると、そんな考え事は頭から追いやられて、すぐに霧散してしまった。
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