第15話 京畿に於ける民衆蜂起拡大に対処すべく開かれた政府高官緊急会議
一九一八年二月某日 宮城内
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京畿にて勃発せし民衆蜂起は今や東京全域に広がり、街々には掲げられし赤旗が翻る。労働者、農民、そして学生までもが蜂起に加わり、街頭には数千の群衆が集まり、旧来の体制に対し抗議の声を挙げる状況に至った。かくなる事態を受け、宮城内にて天皇、首相寺内正毅、内務大臣後藤新平、陸軍大臣田中義一、警視庁長官川村竹治、参謀本部次長東條英教、そして特務機関を統括する高島易中将、その他高官が急遽集められ、国家の行方を左右する会議が開かれた。
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天皇
「皆の者、此の都に於いて、今や民草の不満が此処まで高まるとは、何故に至りたるか。我が帝国は、斯様にまで民の心を離したるか。」
寺内正毅(首相)
「陛下、誠に恐縮ながら、此度の蜂起は労働者層を中心に、京畿各地にて不穏の情勢を呈して居り。如何に民心を収めんとすれども、彼らはもはや耳を貸さぬ様相にございます。」
後藤新平(内務大臣)
「事態の急速なる悪化は、京畿に於ける困窮と苦境を見落とした我らの失策にてございます。此度の騒擾の背景には、労働環境の悪化、米価の高騰、民の窮状が重くのしかかっており、此を革命の機と見たる者どもが扇動して居ります。とりわけ、幸徳秋水、片山潜といった社会主義思想の持ち主らが影響を強めていること、否応なく認めざるを得ません。」
田中義一(陸軍大臣)
「後藤卿、然るに彼奴らが帝都を乱すこと、断じて見過ごす訳には参らぬ。抑々、治安の維持は我らの責務に御座候。若し此のまま蜂起が継続するならば、京畿周辺への戒厳令発布も検討すべきかと存じ上げまする。」
川村竹治(警視庁長官)
「然り。警察も総力を挙げて此の事態に臨んでおりますが、もはや民衆の怒りの火は警棒や逮捕では鎮め難し。警察の力だけでは到底抑えきれぬ状況に御座います。」
東條英教(参謀本部次長)
「御意、此の度の蜂起は単なる暴徒の集まりに非ず、組織的なる計画に基づくものと見受けられまする。帝都に密やかに流入せし社会主義者や過激派の影響にて、内通者も介しつつ、軍部にも密かにその手が伸びておるやも知れぬ。此度の反乱が拡大するならば、速やかなる軍の動員が肝要かと存じまする。」
高島易中将(特務機関統括官)
「我が特務機関もまた、内偵と情報収集に全力を尽くしておりまするが、彼らは地下にて密かに連携し、国内外の共産主義者と繋がりを保っておりまする。とりわけ、ロシアより派遣されし革命家アレクセイ・イヴァノフという者が、蜂起の陰にて糸を引くこと、ほぼ確実に御座います。革命思想が広がる此の状況、早急なる対策が必要に御座います。」
寺内正毅
「陛下、民心を失わぬため、今は一部の要望を受け入れ、状況を収める策も検討すべきかと存じまする。軍事力の行使は、蜂起鎮圧には効果を発するも、余りに過ぎると民を更に刺激し、長期にわたる不安定を招きましょう。此の際、経済政策の見直しや民の生活向上策の一端を示し、蜂起の火種を鎮めんことも考慮に値致します。」
天皇
「諸君の考え、尤もに候。我もまた、此の事態を見過ごすこと能わず。されど、軍の力を以ての鎮圧が長引けば、民心はより失われん。後藤、川村、そして高島よ、如何にして民に安堵を与え、此の事態を平和裏に収めることが叶うや、速やかなる策を講じられよ。」
田中義一
「左様に御座いますれば、我ら陸軍も一部の戦力を戒厳に備えつつ、後藤卿や川村殿と共に平和的解決の途を模索し、必要なる折には即時に鎮圧の指令を発動致しまする。」
東條英教
「御意に御座います。然るに、蜂起の組織力が此程まで強固に御座れば、速やかに鎮圧し得るや否やは不明に御座いまする。此度は平和裡の収束を期しつつ、国民に対し明確なる警告を発することも考慮せねばなりませぬ。」
天皇
「かくては、一先ず平和的収束を試みる一方、必要なる警戒と戦力の備えを以て京畿を守るべし。此の国の安定と民の幸福をもって、余の国を守らんことを願うゆえ、諸君らにて力を尽くされよ。」
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かくして会議は終わり、京畿に於ける民衆蜂起に対し、平和的収束の方針と共に、戒厳をも視野に入れた緊急対策が布かるることと相成った。帝都は今や、帝国の存亡を賭けた大いなる岐路に立たされていた。
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