第7話 奴隷傭兵、不確定な未来を知る
そして、月が雲に隠れたタイミングで外へと出る。エルが案内役をしてくれたので街を出るのは案外簡単だった。占領された田舎の街の警備はこんなに緩いもんかというくらい拍子抜けだ。俺たちは街を出ると、川沿いに夜通し北へ向かって歩いた。
夜明け頃になるくらいにようやく休めそうな小さな林を見つける。そこの木陰にもたれかかると、俺とエルはそのまま眠ってしまった。昼頃になってようやく目が覚めると、エルの家から持ってきた干し肉を分け合いながら食べる。俺はふと思っていた疑問を口にした。
「なぁ、おまえ十年後にこの世界が滅びるって言ってたよな?それって、今この瞬間おまえがどこかで生きてるってことか?」
「わかりません。でも、僕の知ってる世界と少し違うんです」
「何が違うんだ?」
俺は自分でも何を質問してるのかわからなくなっていた。だいたい未来から転生してきたって言ってる奴が、自分がまだ生きてる時代に転生するなんてあるのか?訳が分からん。
「転生してから僕が触れた歴史と前世の僕の記憶が少しズレるんです」
「なんだそりゃ?それじゃおまえの言ってる未来ってのはどこの未来なんだよ?」
未来から来た奴が知ってる歴史がズレるとか言ってたら、それは単なるゴマカシなんじゃないかと思う。だけど、コイツの様子からして嘘をついてるようにも見えない。
「それじゃ、おまえの言ってたマリー・ジョルジュが陥落するってのは嘘なのか?」
「嘘じゃないです!僕が知ってる歴史通りならエルム歴430年4月1日にマリー・ジョルジュは落ちます」
俺はため息をつきながら、再度尋ねた。
「だけど、おまえが知ってる知識とズレがあるんだろ?じゃあ、それも絶対じゃないんじゃないか?」
「その通りです。その部分は確信が持てません。でも、十年後に世界が滅びるっていうのは何故か確信があるんです。自分でも理由がわからないんですけど」
エルは少し考え込んでいたが、やがて思いついたように口を開いた。
「ひょっとしたらこの世界は平行世界なのかもしれない。コルビーのマルチバース理論によれば、この宇宙は無限の平行世界で構成されていて——」
「待て待て待てっ!意味がわからねぇよ。とりあえずおまえはどうしたいんだ?」
エルは俺の質問に現実に引き戻されたように、キョトンとしている。小難しいこと言いながら、コイツ何も考えてなかったのか?
「ええと、僕は十年後の世界の崩壊を止めたいんです」
そう言った後、モゴモゴと言い淀んでいたが続けてこう加えた。
「バーン、その、一緒にやりませんか?」
「は?なんでだよ!?だいたい俺はおまえの話を信じたわけじゃねぇ。なんでそんなおまえの夢物語に付き合わなきゃなんねぇんだよ」
【後書き】
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