第8話 奴隷傭兵、花を摘む

 コイツのおかげで街を出られたとはいえ、ガキに一緒に世界を救いましょうなんて言われて「はいそうですか」なんて奴はいない。そんなこと言われて喜ぶのは同じガキか頭がイカれてるかのどっちかだ。


「証拠があれば信じてくれますか?」


「ああ、そうだな。と言っても、マリー・ジョルジュが陥落したかどうかをわざわざ確かめに行くとか遠いし面倒だからパスな」


 エルは少し考えていたが、やがてニコっとして俺に提案した。


「まずは資金です。お花を集めてお金儲けしませんか?」


「花で金儲け?」


 エルが言うには、ここから東に行ったところにグラディオーレという薬草の群生地帯があるらしい。それがラ・エスカローナ州の州都ブール・ヴァロンナで売れるという話だった。


 どうもよくわからんが、州都で疫病が流行りその薬の材料となるのがこの花だそうだ。普通は二束三文の値段でしか売れないが、すぐに材料が底を尽き天井知らずの値段になるだろうとのことだった。


 そんなうまい話があるわけないと思いつつも、俺はエルの言う通りに動いた。護衛として雇われた身だ。給料分ぐらいきっちり仕事はするつもりだ。途中、村に寄ってデカい背負いかごを買う。


 もう傭兵やってんだか農家やってんだか見分けがつかないが、それを背負って東の群生地帯に歩いて行った。到着すると、一面白い花が生えてる丘に出た。それからは一心不乱に草をむしる。その日では取り切れなかったので、次の日も次の日もかごに放り込んだ。


 根っこの方しか成分が無いので花と茎を捨てればいくらでもかごに入る。一週間も通ったら、群生地帯は丸坊主になっていた。そこから今度は、数日かけて北へ向かって進んで行く。道中何度か州都の方からやって来た綺麗な馬車とすれ違った。貴族か商人てところだろう。


 何台目かの馬車とすれ違ったころ、向こうからやって来た旅人風情の人間に声を掛けられた。


「君ら今から州都に行くのかい?今は危ないから行かないほうがいいよ」


「なぜだ?」


 俺が尋ねるとそいつは困ったような表情で答えた。


「疫病が流行っててね。薬も足りないみたいなんだ」


「なるほどな。忠告感謝するぜ」


 俺の答えに呆れたような顔で俺たちを見送った。まぁ、忠告されたにも関わらず無視して行くんだからな。だが、俺としては心中驚いていた。


「エル、おまえの言ったことがどうやら当たったな」


「良かったです」


 エルはホッとした様子だ。エルとしても、確信があったわけじゃないんだろう。ただ、俺に信じて欲しい一心で博打を打ったのかもしれない。

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